第１章 「左遷 ― トランプ ラッシュの復讐」
灰色の雨がしとしとと降る地方都市。かつて王都で君臨し、華やかなビジネス帝国を築いていたトランプ・ラッシュは、今や古びた地方のビジネスホテルに左遷されていた。
建物は老朽化し、外壁はひび割れ、ロビーの照明は薄暗い。エレベーターはキーキーと音を立て、フロントの受付も旧式。かつての華やかなオフィスやVIPルームの記憶とはあまりにもかけ離れた現実。
「なんで、こんな……こんな場所で、俺が……」
トランプは深く息をつき、肩を落とす。左遷という形で、転生者としての力と経験を奪われたかのような屈辱。彼の心は怒りと無力感で揺れ動き、思わず拳を握りしめた。
「だが……絶対に、あいつだけは許さない……」
灰色の空を見上げながら、彼は静かに決意する。
突如あらわれたタクミが転生先で帝都の《紅蓮亭》を再建し、民の支持を受けて成功したあいつに対して、逆恨みと復讐心が胸に渦巻いていた。
その時、背後から冷静な声が響いた。
「マスター、計画の最適化案を提案します」
振り向くと、そこに立っていたのはトランプの側近であり、最強の秘書兼AI戦略担当ヴァルキュリア。
ヴァルキュリアは背筋がピンと伸び、黒革のスーツに身を包む。肩までの黒髪は艶やかで光を反射し、鋭い碧眼は冷静さと知性を宿す。薄い眉の下には長いまつげが影を落とし、整った顔立ちは美しさと威圧感を兼ね備えていた。タブレットを持つ手は細く、指先は正確に操作をこなす機械のようで、視線ひとつで部屋の空気を支配する力を感じさせる。
「まずは宿泊客の動線を完全に解析します。IoTによる部屋割りと清掃タイミングの最適化。AIによる料金自動調整。リピーター誘導のポイントプログラム……すべて計算済みです」
トランプは息を吐き、薄く笑む。
「なるほど……効率化か。面白い……だが、俺の真の目的は利益ではない。あいつ、タクミを倒すことだ……」
ヴァルキュリアがタブレットを操作すると、ホテル全体の3Dマップが浮かび上がり、客の動線、清掃ルート、料金変動のシミュレーションが即座に表示される。
「この方法で稼働率を最大化し、利益率は現状の三倍に増加可能です」
トランプは顎に手を当て、目の前の数値をじっと見つめた。
「よし……ここで俺の力を証明する……そして、あいつタクミを絶対に打ち負かしてやる」
ヴァルキュリアは冷静に頷く。
「はい、マスター。全て計画通りに進めれば、このホテルは劇的に変わります。効率化、徹底的にそして、マスターの復讐も」
雨の降る外の街並みを見下ろし、トランプは拳を固めた。
「左遷された屈辱……あいつに、すべて倍にして返してやる……」
地方の片隅で、ライバルの転生者二人の宿泊戦争の火ぶたは、再び静かに切られたのだった。
