第6章 「真実の光 ― 地底の夜明け」
投票前夜。
地底の空気は重く、祈祷場の地霊火がいつもより暗く揺れていた。
タクミは、ひとり地底湖のほとりに立っていた。
水面に映る自分の顔は、疲れと迷いに満ちている。
そのとき。
……聞こえるか、人の子よ。
低く、深い声が地の底から響いた。
足元の岩盤がわずかに震える。
現れたのは、古のモグラ族の民“初代掘王モグラン”の地霊だった。
「真実は、泥の中でも光を放つ。掘り続けよ、タクミ。」
その言葉と同時に、ミラが駆け込んできた。
「タクミ! これを見て!」
その瞬間、背後から足音が響く。
ミラ、ライラ、そしてトビーが息を切らして駆けてきた。
「タクミ! これを見て!」
ミラが差し出したのは、古代結晶に記録された魔法映像だった。
光を走らせると――そこに映ったのは、反対派の長老ムネモグと、帝国商会の使者ドナルド・ラッシュが密談している映像。
「地底資源の開発権は帝国に譲渡する。代わりに、我々の“聖域保護”を保証してもらおう」
「契約成立だ、ムネモグ長老。」
その一言に、場の空気が凍りついた。
タクミの胸に、怒りと希望が同時に込み上げる。
「……これだ! これが真実だ!」
翌朝。
住民投票当日。地底中央広場は、まるで戦場のような熱気に包まれていた。
モグラ族たちが集まり、グラモグとムネモグ、両陣営の演説を聞くために息を詰めている。
先に立ったのはムネモグ。
「我らの伝統を守るため、外の者を拒まねばならぬ! 帝国の陰謀に乗せられるな!」
そう叫んだ瞬間。トビーが映像魔法を起動した。
光のスクリーンが宙に浮かび、映像が再生される。
そこには反対派ムネモグとドナルド・ラッシュの密談が、はっきりと映し出された。
「なっ……! や、やめろ! それは捏造だ!」
ムネモグが叫んだが、群衆のどよめきがそれをかき消した。
「……帝国とつながっていたのは、あなたのほうだったのか!」
「信じてたのに!」
「裏切り者はどっちだ!」
怒号が飛び交い、ムネモグは言葉を失った。
その場に崩れ落ち、杖を落とした音が洞窟に響いた。
静まり返る広場の中央で、グラモグが前に進み出る。
深く一礼し、低く響く声で言った。
「モグラ族よ。真実は、掘れば必ず光を放つ。嘘つきは、必ず地の底で自ら崩れる。それがこの地底の掟だ。」
その言葉に、地霊火が一斉に輝きを増した。
タクミたちの胸に、熱いものが込み上げる。
投票が終わり、結果が発表された。
賛成派 72% 反対派 28%。
大逆転の勝利だった。
歓声が地底を揺らし、モグラ族たちは抱き合い、涙を流した。
グラモグはタクミの肩に手を置き、静かに言った。
「タクミ、お前の“掘り抜く心”が民を動かした。お前たち人の子こそ、共に未来を掘る同志だ。」
タクミは涙をこらえながらうなずいた。
「……グラモグさん、俺たちは、地底と地上、どちらの未来も掘り続けます。」
こうして、地底と地上の新たな共生の時代が始まった。
地底湖は、これまでにないほどまぶしく輝いていた。
ワンポイント解説
■真実は、泥の中でも光を放つ。
SNSなどでのデマ拡散や情報操作が問題となる現代。本章では「掘る=真実を探す」ことの大切さを象徴的に描きました。グラモグの言葉「嘘つきは、必ず地の底で自ら崩れる。」は、“誠実さこそ最強の武器”というメッセージでもあります。




