第4章 「分裂 ― 地底開発の賛成派と反対派」
地底湖のほとりに設置された、モグラ族向けのリゾート開発説明会場。
タクミは心を落ち着け、光る地図と魔法で描いたリゾート計画の立体図を前に、熱心に説明を続ける。
「地底探検ツアー、湖畔リゾート、地熱発電、文化交流……すべてを調和させ、モグラ族の生活も守りながら開発を進めます!」
しかし、モグラ族の反応は真っ二つに割れた。
賛成派が声を上げる。
「これこそ、我らの地底都市を未来に繋ぐチャンスだ!外の世界と手を組めば、資源も観光も活かせる!」
「新しい時代を築こう!地底の誇りを残しつつ、豊かになれるんだ!」
一方、反対派の古老たちは激しく反発する。
「この地底は我らの聖域だ!光を入れれば精霊が去る!自然を金で踏みにじることは許されん!」
「地熱を掘れば怒れる地霊が動き、地盤は崩れ、湖も荒れるぞ!」
「湖の生態系も乱れる。水の神が悲しむ!」
「自然の力を軽んじる者には、必ず天の罰が下るぞ……」
武器を手にする若者も現れ、議論は一触即発の緊張感に包まれる。
岩壁の奥で地鳴りが響き、微かな風が洞窟内を駆け抜ける。
地底湖の水面が揺れ、青と緑の光が不穏に反射した。
タクミは焦るが、深呼吸をひとつ。
「力による争いは、誰の利益にもならない……みんなの声を聞こう」
ライラは剣を構えながらも、前に出て間に割って入る。
「やめて!争っても、地底が壊れるだけよ!」
トビーは魔法陣を描き、光の障壁を展開する。
壁にぶつかろうとする者たちを包み込み、直接的な衝突を防ぐ。
「冷静に!議論で解決できるはずだ!」
ミラは書類を掲げ、魔法印で湖の環境シミュレーションを空中に展開。
「この計画は自然と共生する形で設計されていますわ。破壊はさせません」
光と影が洞窟内で交錯し、まるで地底全体がその緊張を見守っているかのようだ。
タクミは仲間たちの目を見渡し、決意を固める。
「この争いを、共通の未来への議論に変えるんだ……」
地底湖の神秘的な光の下、賛成派と反対派の議論は、ただの口論ではなく、地底都市の未来を決める真剣勝負へと変わっていった。
さあ、タクミたちはこの分裂をどうまとめるのか。地底都市の運命は、今まさに揺れ動いている。
ワンポイント解説
■住民説明会とは? ― 対話の場と信頼
住民説明会とは、開発や建設などの大きな計画を実行する前に、地域住民に内容を説明し、理解と同意を得るための場です。現実世界でも、再開発・インフラ整備・環境保全などの事業では必ず行われます。
この場の目的は「承認をもらうこと」ではなく、
“対話によって信頼を築くこと” にあります。
参加者からは「騒音が心配」「自然が壊れないか」などの意見が出ますが、
そのひとつひとつに誠実に答えることで、計画は初めて“共に創るもの”へと変わっていきます。
地底リゾート開発でも、タクミが行った住民説明会はまさにこの試金石。
賛成派は夢と発展を語り、反対派は伝統と自然の保護を訴える。
どちらの声も「地底の未来を想う心」から生まれたものであり、
開発とはその“想いのバランスを取る戦い”でもあるのです。
タクミの一言
「説明会とは説得の場ではなく、信頼を掘り起こす場だ。」




