第10章 「地底の試練 ― ミルワーム討伐と投資の天秤」
地面が脈打つように震え、土壁が崩れ落ちた。
タクミたちが立つ地底の大空洞――そこは、地鳴りとともに唸る“生きた洞窟”だった。
ライラが剣を抜く。
「来るわ、主クラスよ……!」
トビーが魔法陣を描きながら叫ぶ。
「魔力反応、複数!中心に巨大な魔力核がある、奴だ!」
轟音とともに、巨大ミルワームが地面を突き破り、顎を開けて咆哮した。
その体は樹木のように太く、甲殻には岩の破片が食い込み、赤い魔力脈が光っている。
一瞬で空気が震え、熱と土埃が渦を巻く。
「ライラ、右から! トビー、後方を頼む!」
タクミの指示に、二人が同時に動いた。
ライラの剣が閃き、甲殻を切り裂く。しかしミルワームの皮膚は硬く、切り口から濁った液が噴き出す。
トビーの詠唱が続く。
「《雷光連鎖》!」
青白い稲妻が走り、洞窟の壁を照らす。ミルワームの体が痙攣するが、なおも暴れ狂う。
「まだ効かない!?」
ライラが歯を食いしばり、避けた岩の破片が背後の壁を砕く。
ミラが落ち着いた声で叫ぶ。
「弱点は頭部です!装甲の下に魔石が埋まっていますわ!」
「了解!」
トビーが両手を掲げ、魔力を集中。光の矢が雨のように放たれ、ミルワームの頭部を撃つ。
ライラは渾身の跳躍。
「これで――終わりッ!!」
剣に紅い光が宿り、雷鳴のごとき一撃がミルワームの額を貫いた。
洞窟全体が震え、地底湖の水面が波打つ。
沈黙。
巨大な体がゆっくりと崩れ落ち、やがて完全に動かなくなった。
ミルワーム討伐、完了。
◇◇◇
安堵の息がもれる。しかしその瞬間
洞窟の奥から、金属の靴音が響いた。
「……やれやれ。ずいぶん派手にやってくれたな。」
現れたのは、黒い軍服に帝国の紋章を刻んだ役人たちだった。
その中央に立つのは、開発庁第七局の査察官・ガルド。
「無許可の地底開発は、帝国法第89条に違反します!」
冷たい声が洞窟全体に響く。タクミが眉をひそめた。
「……戦いの最中に監査とは、律儀ですね」
ライラが剣を構え、トビーが警戒態勢を取る。緊張が再び走る。
しかし
ミラは静かに一歩前に出た。
眼鏡の奥で冷たい光を放ち、書類を掲げる。
「条約第42条、“未開発地の共生開発権”に基づき、我々の活動は合法ですわ」
契約の魔印が発動し、宙に光の文字が浮かび上がる。
「共同開発協定書――署名済み。印影は正規の帝国印章ですわ」
査察官ガルドは一瞬、言葉を失う。
やがて舌打ちし、部下に撤退を命じた。
「……ちっ、法務局の怪物秘書が同行していたとはな。今回は見逃そう。」
静寂が戻った洞窟。タクミは深呼吸し、崩れた巣の奥に光る鉱脈を見つめた。
「見ろ、あれは希少鉱“ミスリル鉱”……地底の金脈だ」
ライラが剣を肩に担ぎ、笑う。
「命懸けだったけど、掘り出し甲斐はあるわね」
ミラがペンをくるりと回す。
「これで観光・採掘・交易の三本柱が整いましたわ。次は資金調達の再契約です」
トビーが感嘆の声を上げた。
「やれやれ、投資家ってのは、戦士よりタフだな」
タクミは微笑み、言った。
「投資とはリスクと信頼の天秤を制することだ」
そして、地底の暗闇の奥。
まだ誰も知らない、新たな地脈の光がゆっくりと輝きを増していった。
✨第四部 異世界不動産開拓サーガ編 完✨
ワンポイント解説
■土地造成の開発許可とは?
土地造成の開発許可とは、山や田畑などの土地を住宅地や商業地などに整えるために、地形を変える行為(切土・盛土など)を行うときに必要な許可のことです。
これは主に「都市計画法第29条」で定められています。
【ポイント1】開発行為とは?
「建物を建てる目的で行う土地の区画形質の変更」を開発行為と呼びます。
つまり、
山を削る(切土)
低い土地を埋める(盛土)
道路や区画を作る
などはすべて「開発」とみなされます。
【ポイント2】許可が必要な範囲
都市計画区域や準都市計画区域内で、
1,000㎡以上(市街化区域では500㎡以上)を造成する場合は、
原則として都道府県知事の開発許可が必要です。
※ 例外として、農業用地や公的事業などは許可不要な場合もあります。
【ポイント3】審査の内容
開発許可を得るには、次のような項目が審査されます:
用途地域に合っているか
道路・下水道・給水設備などのインフラ整備計画
土砂災害・浸水リスク・地盤安定性への対策
周辺環境への影響(景観・騒音・自然破壊など)
【ポイント4】無許可造成のリスク
無許可で造成すると…
原状回復命令
工事停止命令
最大3年以下の懲役または100万円以下の罰金などの厳しい罰則が課されます。
タクミの場合は地底を切り開く場合、帝国の「地霊安定局」からの許可が必須。精霊の同意なしに盛土を行えば、地震や地盤沈下を招く。まさに現実世界と同じ“開発リスク”が存在するのです。




