第7章 「荒廃した村と地鳴り、光届かぬ地底へ」
風が鳴り、土の匂いが濃い。
タクミたちは崩れた井戸の前に立っていた。村は荒れ果て、家々は傾き、畑は穴だらけ。
まるで地そのものが呻いているようだった。
村長・ボロ爺が震える声で言う。
「地の底に化け物が棲みついたんじゃ……。巨大なミルワームが村を喰っておる……」
地面の奥から、ぼうっと地鳴り。
足元がかすかに揺れるたびに、村人たちは顔を見合わせ、祈るように空を仰いだ。
ミラが一歩前に出た。
長い髪をかき上げ、眼鏡の奥で光が鋭く反射する。
「地盤沈下の原因……これは立派な“隠れた瑕疵物件”ですわね」
タクミが眉を上げる。
「ミラ、それは不動産的な意味で言ってるのか?」
「もちろんですわ。不動産の価値を食い荒らすミルワーム……いわば地中版“デベロッパーの敵”ですの」
その言葉に、隣で腕を組んでいた屈強な女戦士ライラが豪快に笑った。
「ハッ! ミルワームだか何だか知らんが、ぶっ潰せば済む話だろう? 地下でも天でも、剣一本で解決してきたぞ!」
「力で片づけるのも大事ですが、構造理解が先決ですわ、ライラさん」
ミラは涼しい声で返す。
タクミは二人のやりとりを横目に、崩れた地面を覗き込む。
湿った風が下から吹き上がり、かすかに硫黄の匂いがした。
「……この地底構造、観光化できるぞ。鍾乳洞ツアー、地底温泉、地熱発電もいける!」
ライラ「はあ? 温泉だぁ? 化け物退治のあとで入れるなら悪くねえな!」
トビー(魔法使い)が杖をトントンと鳴らしながら呆れたように言う。
「発想が相変わらず俗っぽいな、タクミ。地熱を利用するのは確かに理にかなってるが、地底には魔力の濃い“魔流層”がある。下手に掘れば、魔力の逆流で村ごと吹き飛ぶぞ」
ミラ「つまり、土地の“見えないリスク”ですね。まさに隠れた瑕疵ですわ」
タクミ「……隠れた瑕疵も、見つけた瞬間に“潜在価値”へ変わるんだ。地底開発、やる価値はある」
ライラ「お前、命懸けでも利益を追うのか? まるで金の化け物だな!」
トビー「フッ、だがあの目の輝き……タクミが何か思いついた時の顔だ。面白いことになるぞ」
ミラ(眼鏡を押し上げて)
「では、調査開始ですわね。地底探査許可申請書、三部ほど用意しておきます」
ライラ「書類より剣の方が早ぇよ!」
そして次の瞬間、地の底から轟音。
足元の大地が崩れ、彼らの視界が暗闇に飲み込まれる。
タクミの声が響いた。
「よし、予定より早く地底調査開始だ!」
ミラ「……この急行エレベーター方式、申請してませんわよ!」
笑いとともに、彼らは光の届かぬ地底へ。
そこで待っていたのは、伝説のモグラ族と、地中の魔物たちとの壮絶な戦いだった。
ワンポイント解説
■地盤沈下とは?
地盤沈下とは、地面がゆっくりと沈んでいく現象のことです。
建物や道路が傾いたり、井戸が枯れたり、排水が悪くなったりと、生活や土地価値に大きな影響を与えます。
原因は主に3つあります。
① 地下水のくみ上げすぎ
地中の水を大量に使うと、地層が乾いて圧縮され、土地全体が沈みます。
(特に農業や工場地帯で多い現象です)
② 地盤のゆるみ・地中空洞
地中に空洞ができると、その上の地盤が支えを失い沈下します。
今回の村のように、「巨大ミルワーム」が地中を食い荒らすケース(※異世界限定)も同じ原理です。
③ 自然現象(地震・地すべりなど)
地震や大雨により、地層がズレたり流れたりして沈下が起きることもあります。
不動産の世界では、地盤沈下がある土地は「隠れた瑕疵物件」として扱われ、
買主が知らずに購入すると後で大きな損失になるリスクがあります。
つまり
「地盤の安定=不動産価値の基礎」。
建物を建てる前に、地中を知ることこそ最大の防御策なのです。




