第4章 「契約の魔印 ― 売買の儀」
辺境の街、駅前に建つ商業ビル。
タクミは神からもらった【不動産査定スキル】で資産価値、利回り、リスクを即座に判断する。
スキル効果:物件の資産価値、利回り、修繕費など瞬時に評価する。
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物件概要書(魔法で表示)
名称:ガイアス駅前ビル
種別:商業ビル(飲食店・小規模店舗入居)
築年数:28年
階数:地上4階/地下1階
総床面積:680㎡
現況:満室稼働中
表面利回り:12%
推定修繕費:年間50,000ゴールド
備考:築年数による老朽化のリスクあり
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駅前で飲食店が入っており、利回りも高く、築年数もそこそこ。順調な投資先に見えた。
「これなら安定した収益が見込める……」
タクミは丁寧に言葉を選びながら、売主に契約の意向を伝える。
売主の悪魔ガイアスはニコニコと笑い、印鑑を差し出す。
だがその瞬間
建物の影から、長髪を風になびかせ、眼鏡越しに鋭い瞳を光らせた美しい女性が現れた。
「あなた嘘を見抜く能力が甘いですわね」
伝説の秘書、ミラの登場。
帝都でも恐れられた彼女の存在感に、周囲の空気が一瞬で変わる。
ミラは手をかざすと、銀色の魔印が浮かび上がり、ビル全体を包む。
床や壁、屋根裏の構造、地下の水脈、そして……地縛霊の存在までもが光の立体図として浮かび上がる。
売主の顔色が変わる。
「……実は……微細な問題が……ありまして」
しかしタクミの【不動産査定スキル】ではこれを見抜けなかった。
ミラは指先で魔印をなぞると、契約書が光を帯び、自動的に瑕疵補償条項と値下げ条件が書き込まれる。
「これで安心して契約できます」
売主は頭を下げる。
「……知らぬふりをしてしまい、申し訳ございません……」
ミラは冷静に言い放つ。
「告知義務違反は明確です。しかし、契約を安全に成立させることは可能。値下げと保証条項で調整しましょう」
売主は必死に同意し、魔印に従って契約書を書き直す。瑕疵補償、値下げ、修繕条件が明確に記載される。
タクミは感心しながらも丁寧に礼を述べる。
「これで、全てのリスクが整理されました。ご協力感謝いたします」
ライラとトビーは息を呑む。
「秘書なのに、魔術師でもある……!」
ミラは眼鏡の奥から鋭くタクミを見つめ、低く告げる。
「表面利回りや数字だけで判断する投資家は多いですが、見えないリスクを見抜くことこそ、真の価値を生むのです」
夜、月明かりの下、タクミは遠くの山並みを見つめ、誓う。
「全てのリスクを見極め、価値を生み出す、異世界不動産王への道は、まだまだだな。」
影の中で長髪が光を反射するミラが微笑む。
「さて……あの人、どこまでやれるか、楽しみですわね。あなたの未来は吉とでてますわ。気になりまわ。ちょっと様子見したい気分かも」
ワンポイント解説
■隠れた瑕疵とは?
隠れた瑕疵とは、売主が知っているにもかかわらず契約時に明示せず、購入後に発覚する不具合や欠陥のことです。
建物の構造上の欠陥:壁や床の内部の腐食、基礎のひび割れなど、表面からは見えない部分。
水回り・電気設備の不具合:漏水や配管の老朽化、漏電リスクなど。
法律上・権利上の問題:地役権や隣接地との境界トラブル、用途制限の問題。
特殊リスク:霊や土壌汚染や災害リスクに相当。
隠れた瑕疵は表面利回りや物件概要書だけではわからず、専門家による調査や契約条項の確認が不可欠です。
現実の不動産投資でも、購入前に「契約不適合責任」を確認し、必要であれば値引き交渉や補修を取り決めることがリスク回避につながります。




