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【ランキング32位達成】累計2万1千PV『異世界不動産投資講座~脱・社畜28歳、レバレッジで人生を変える~』  作者: 虫松
第三部 不動産再生 帝都《紅蓮亭》編

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第9章 「プリンセス宿泊事件 ―「真のおもてなし」とは何か」

帝都・夕暮れ。


《グランドロイヤル》の正門前は、まるで祝祭のような喧騒に包まれていた。

金糸の絨毯が敷かれ、警備兵が列を成し、報道魔法陣が空に光る。


隣国ルゼリアのプリンセス、エレナ殿下。

その来訪に、帝都中が息をのんでいた。


トランプ・ラッシュは上機嫌だった。

「完璧だ。帝都の宿は、すべて俺の支配下にある。あの紅蓮亭なんて、今日で終わりだ。」


そこへ、一人の老人が現れた。

古びた杖をつき、背中を曲げながらフロントに近づく。


「すまんのう……一晩でいい、泊めてくれんかの……」


受付の若い従業員が戸惑う。

「お、お客様、本日は……」


そのとき、トランプが現れた。

白い手袋をはめた手で、老人の肩を押しのける。


「明日は特別なお客様を迎える日だ。お前のような身なりの者を泊められるか。 もし王女に見られたら我がホテルの権威がおちる」


「しかし……泊まる場所がなくて……」


「黙れ!」

トランプは老人の胸を突き飛ばした。

「きたねぇ身なりで“帝都の顔”を汚すな!ゴミは外で寝てろ!」


老人はよろめき、地面に倒れ込んだ。

その光景を、通りの向こうから見ていたタクミの目が鋭く光る。


「……やめろ!」

彼は駆け寄り、トランプの前に立ちはだかった。


「お前、それでも宿屋の主人か!」


「ふん、貧民宿の主が何を偉そうに。帝都の格式も知らん田舎者が。」


「宿屋ってのはな、“誰かを迎える場所”だ。格式よりも、まず心だろ!」


タクミは老人を支え、静かに言った。

「うちでよければ、泊まりにきませんか。紅蓮亭は、身分を問わず客を迎えます。」


老人は目を細め、小さくうなずいた。

「ありがとうのう……若いの。」


◇◇◇


夜《紅蓮亭》。

ボルクが温かなスープを運び、ピピが毛布を整える。

リタが笑いながら足湯を勧める。


「冷えた足をあっためるだけで、心も楽になるもんですよ」


「……まるで昔の宿のようじゃ。わしが教えた“もてなし”を思い出すのう」


その言葉に、タクミが首をかしげる。

「教えた?」


老人は穏やかに笑った。

「わしは、かつてルゼリア王家の召使いだった。

幼いエレナ様を育てた“じいや”と呼ばれておった。」


全員が息をのむ。

「―つまり、あのプリンセスの……!」


◇◇◇


翌朝。


プリンセス・エレナが《グランドロイヤル》に到着した。

だが、笑顔はなかった。


「この宿の前で! 私の恩人を突き飛ばしたですって!?

恥を知りなさい! あなたのような者が“帝都オレリアンの貴族”を名乗るなんて、聞いて呆れますわ!」


トランプの顔色が変わる。

「い、いや、それは誤解で……!」


エレナは冷たく言い放つ。

「宿の格式とは、人を見下すことではなく、人を敬う心にあると学びました。

あなたのホテルは、最低ですわ。」


そのまま彼女は侍女に命じた。

「荷をまとめなさい。今夜は《紅蓮亭》に泊まります。」


ざわめく群衆。報道魔法陣が一斉に輝く。


◇◇◇


その夜。

紅蓮亭の露天風呂に、柔らかな香が漂う。

プリンセスは目を閉じ、湯の温もりに微笑んだ。


「これが“本当のおもてなし”なのですね……」


タクミは頭を下げた。

「ただ、お迎えしただけです。あなたも、ひとりの旅人ですから。」


◇◇◇


翌日、帝都の掲示板《旅人板》には無数の投稿が並んだ。


「王女が泊まった庶民宿・紅蓮亭、奇跡のサービス」


「心まで休まる宿、帝都ホテルの奇跡」


一方、グランドロイヤルの評価欄にはたった一行。


「このホテル、最低でしたわ。」


帝都ホテル戦争、ついに逆転。

紅蓮亭の名は、帝都全土に響き渡った。


ワンポイント解説


■おもてなしの本質

この第9章は、物語全体のテーマ「おもてなしとは何か」を真正面から描いた重要回です。

帝都最大のホテル《グランドロイヤル》と、小さな宿《紅蓮亭》。

二つの“宿の哲学”が、一人の老人とプリンセスという象徴的な存在を通して鮮やかに対比されます。


「格式」と「心」の違い

トランプ・ラッシュが経営する豪華ホテルは、建物も人員も一流。しかし、客の身なりを見て態度を変える彼には“心”が欠けていました。一方タクミは、貧しいながらも困っている客を助け、心から迎え入れる。この対比が、物語の核心である“異世界版おもてなしの魂”を際立たせています。


プリンセスの判断が示す「本物の評価」

王族という最上位の立場にあるエレナが、“格式よりも心”を重んじて紅蓮亭を選ぶ展開は、

本当の価値は外見ではなく内面に宿るというメッセージを象徴しています。

異世界の社会的ヒエラルキーを逆転させることで、

タクミの理想「宿は人を区別しない場所」が見事に証明されました。


SNS(旅人板)の拡散は「現代社会の縮図」

“旅人板”という帝都版SNSでの口コミ拡散は、現代のインターネット社会を思わせる設定です。

口コミによる逆転劇は、「正しいことを貫けば、必ず誰かが見ている」という希望を伝えています。

異世界であっても、“情報と共感”が力を持つ時代が訪れていることを暗示しています。


現実のホテル業界との共通点

実際のホテル業界でも、“ハード(設備)”より“ソフト(接客)”の評価が重視される傾向があります。

どんなに立派な施設でも、心のこもった接客がなければリピーターは生まれません。

このエピソードは、まさに現実世界の「サービス業の真髄」を映した寓話といえます。


「プリンセス宿泊事件」は、「おもてなし=心の平等」というメッセージをドラマチックに描ききった回です。この一夜の出来事が、紅蓮亭を“ただの宿”から“帝都の象徴”へと押し上げ、次章の「協会との直接対決」への道を開く転換点となります。


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