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【ランキング32位達成】『異世界不動産投資講座~脱・社畜28歳、レバレッジで人生を変える~』  作者: 虫松
第三部 不動産再生 帝都《紅蓮亭》編

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第5章 「紅蓮亭、初めてのお客様 ― そして帝都の壁」

再建から三ヶ月。

ついに、《紅蓮亭》の扉が再び開かれた。


だが、その朝、お客様の姿はなかった。


「……今日が初日だってのに、静かだねぇ」

カミーユが湯気立つ茶をすすりながら呟く。


外の通りでは、向かいにそびえる《グランドロイヤル帝都本館》の開業式典が行われていた。

絹の旗、銀の門、楽隊のファンファーレ。

まるで王城の宴だ。


その中心に立つのは、かつての宿敵であり転生者トランプ・ラッシュ。


黄金のコートに真紅のタイ。

背後の巨大スクリーンには、「帝都の未来を泊まる体験へ」という華々しいスローガン。

群衆が拍手する中、彼の視線が一瞬こちらを捉えた。


「……タクミじゃないか」


式典後、ラッシュは軽やかに紅蓮亭の前へ歩み寄ってきた。

久々に見るその笑みは、相変わらず完璧で、どこか人を見下す光を湛えていた。


「まさか本当にやってたとはな。

 紅蓮亭の再建なんて、てっきり冗談かと思ったぜ」


「冗談じゃない。ここが俺の“本気”だ」


「ははっ、本気ねぇ……」

ラッシュは金の杖を床にコツンと突いた。


「見ろよ、向かいの《グランドロイヤル》。

 客室は四百、魔法温泉付きのスイートに自動給仕メイド百体。

 今日だけで予約が八割埋まってる。

 お前の宿はどうだ? ガラガラか?」


「……そうだな、今のところゼロだ」


「ハハハ! 楽でいいな。客が来なけりゃ、苦情もない!」

ラッシュは肩をすくめると、従者を連れて去っていった。


その背中を見送りながら、タクミはただ静かに息を吐いた。

悔しさではなく闘志が胸に燃える。


「いいさ……“一人目”を迎えれば、ここから変わる」


夕方。

日が傾く頃、ひとりの旅商人がふらりと門をくぐった。


「すまない、一泊頼みたいんだが……」


「ようこそ《紅蓮亭》へ!」

カミーユの声が少し震える。

スタッフ一同、慣れない手つきで案内を始めた。


だが初日からトラブル続出。

厨房ではスープが焦げ、風呂はぬるく、照明は点いたり消えたり。


「もういい、別の宿に行く!」

旅商人が怒鳴り、荷物をまとめかけたそのとき


「待ってください!」

タクミは土下座に近い姿勢で靴を取った。


「この靴、泥で汚れていますね。

 せめて磨かせてください。それが、宿の務めです」


旅商人は呆れたように見つめたが、やがて腰を下ろした。

タクミは丁寧に布を動かし、光沢を戻していく。


「お茶をどうぞ」

カミーユが温かい茶を差し出す。

リタが焦げたスープの代わりに作り直した一皿を出す。


その空気に、次第に笑顔が戻っていった。


「……悪くない宿だな。久々に人の温もりを感じたよ」


翌朝、旅商人は静かに去っていった。

数日後、《帝都商人連盟》の掲示板に、一つの書き込みがあった。


「向かいの豪華ホテルよりも、心が落ち着く宿があった。

料理は素朴だが、笑顔が本物だった。

名前は《紅蓮亭》。おすすめだ。」


その書き込みが、帝都の風向きを少しだけ変えた。

口コミが、火のように広がり始める。


だが同時に、帝都の“壁”はさらに厚くなる。

《グランドロイヤル》は宣伝攻勢を仕掛け、宿ギルドは再び圧力をかけてきた。


それでもタクミは言った。


「俺は金じゃなく、“心”で勝つ。」


そう宣言したその夜、

《紅蓮亭》のランプが、確かに一段と明るく灯った。


ワンポイント解説


■最初の一人の力

事業再生の現場では、最初の顧客体験こそがブランドの根幹を作る。

派手な宣伝より、“心に残る接客”が口コミを生み、

やがて帝都全体に広がる「信頼」という無形資産を育てていく。

紅蓮亭の再生は、まさに“人の心を資本に変える”挑戦の始まりである。

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