第2章 「事業計画書と借金」
俺が転生した先は、見知らぬ石畳の街だった。
「ここは……どこだ?」
鼻をつく獣の匂い、喧噪、馬車の音。どうやら中世ヨーロッパ風の世界らしい。
神から授かったスキル《不動産査定眼》で周囲を見渡すと、建物の上にうっすらと数字が浮かんでいる。
「耐用年数15年、修繕コスト2,000,000リル……これが査定スキルってわけか」
街外れのスラム街を歩いていると、瓦が落ち、壁の一部が崩れた木造家屋が目に入った。
表示された数字は「価値:1,000リル(=金貨1枚)」。
「……これだ。俺の“ボロ物件”第一号だ」
不動産屋での交渉
彼は街の中心にある不動産屋《リンド商会》を訪れた。
受付の女性が眉をひそめる。
「ええと……あの物件を? 本気で?」
「はい。修繕すれば使えると判断しました」
査定スキルで耐震や腐食の程度も確認済みだ。
やがて、恰幅のいい店主が出てくる。
「あの家は誰も手を出さない。税も滞納気味でな……金貨1枚でいい」
だが問題は、金貨が“ない”。
銀行へ金を借りるか
タクミは街の中央銀行《王立融資所》に向かった。
重厚な扉の向こうで、スーツのような服を着た融資担当が書類をめくっている。
「つまりあなたは異世界転生者で、スラムの廃屋を買い、宿屋にする、と?」
「はい。冒険者をターゲットにした宿業を始めます」
「……なるほど。では、事業計画書は?」
巧は机の上に羊皮紙の束を広げた。
そこには丁寧な文字でこう書かれている。
■《事業計画書》抜粋
事業の概要
低価格帯の宿泊施設をスラム地域に開設。冒険者ギルドの新米冒険者を主な顧客とする。
事業のコンセプト
「安全・清潔・格安」命がけの冒険者が安心して眠れる宿を提供する。
市場環境・競合
街の宿屋は平均宿泊料金貨0.5枚。高額で新米冒険者は野宿している現状。市場は確実に存在。
自社の強み
不動産査定スキルによる的確な修繕費見積り、低コスト運営。
人員計画
社員3名、清掃員1名をギルドで雇用予定。
財務計画
初期投資:金貨10枚
月収見込み:金貨2枚(稼働率50%)
回収期間:約6か月
「……よく書けていますね。ですが、問題が一つあります」
担当者は眼鏡を押し上げ、冷たく言った。
「保証人がいませんね。あなたは異世界転生者では信用がない。担保も……ない」
タクミは唇を噛んだ。
「そうですか……」
机に置かれた書類を静かにたたみ、俺は頭を下げる。
「ありがとうございました」
俺は銀行を後にした。
金がないと事業もできない。俺は次の手を考えていた。
ワンポイント解説
■「自己資金」とは?
不動産投資では、自己資金とは自分で準備できる現金・預金のことを指します。
これは「物件価格の一部」や「諸経費の支払い」に充てるもので、銀行融資を受ける際の信頼度にも影響します。
通常、物件価格の10〜30%ほどを自己資金として用意するのが理想。
異世界の巧にはまだその“信用”がない、だが彼の挑戦は、ここから始まるのだった。
■事業計画書とは?
銀行から資金調達(融資)をするには、銀行の融資担当に決算書や事業計画書を提出し、
それを元にした審査を通過する必要があります。
1 企業の概要(会社名・住所・連絡先・代表者名・電話番後・メールアドレス他)
2 事業の概要(誰に・何を・どのように提供するのか)
3 事業のコンセプト(喜んでもらいたいお客様・なぜそれを提供するのか?)
4 従業員の人数
5 競合や市場規模など環境面(商品の市場規模・ライバル会社など)
6 自社の強みと弱みなど現況
7 サービスや商品の概要
8 販売戦略やビジネスモデル
9 体制や人員計画
10財務計画(将来どれくらい利益を上げられるか?)
以上の内容を過不足なく丁寧に書きましょう。
まずは身近な人や専門家に見てもらいプランを修正しましょう。
事業計画とは事業の推進に不可欠な事項を関係者と共有するための計画のことです。
お金を調達するために事業計画書を作成しましょう。資金シュミレーションをして自己資金を貯めましょう。新規ビジネスを成功させましょう。




