第4章 「再建設計図と帝都の壁」
《紅蓮亭》の再建作業は、想像以上に過酷だった。
廃墟と化した館内には、老朽化した梁、腐った床板、ほとんど使い物にならない風呂釜や洗面台。
帝都の上級階級に受け入れられるためには、単なる修繕では足りない。
タクミは資料を広げ、設計図を前に頭を抱えた。
「……資金が底を尽きるまで、あとどれくらい残っている?」
カミーユがため息交じりに答える。
「あと三ヶ月分の家賃の支払い分しかありません。このペースで材料を買えば、最初の棟梁にも払えませんね」
タクミは窓の外を眺める。帝都の街は喧騒に満ち、商人や貴族たちの豪奢な宿が立ち並ぶ。
その中で《紅蓮亭》を再生するには、安易な模倣では勝てない。
「そうか……他のホテルに潜入して、最新設備を体験してこよう」
数日後、タクミは帝都の新鋭ホテルを視察。
煌びやかな大理石の廊下、魔法で自動制御される温泉、空調と香りの魔法で整えられた客室。
便利すぎる異世界ホテルの数々に、タクミは思わず息を呑む。
「同じことをしても、紅蓮亭には勝てない……独自の“おもてなし”が必要だ」
戻ると、街角の掲示板に手書きの求人広告を貼った。
『紅蓮亭 再建スタッフ募集、経験不問、訳あり歓迎』
翌日、やってきたのは、個性豊かな若者たちだった。
元スリ少女リタ:鋭い観察力と盗みのテクを持つ、街の裏道にも詳しい
戦争帰りの料理人ボルク:腕は確かだが心に傷を抱える
口の悪い妖精メイド・ピピ:小柄だが瞬発力抜群、掃除・サービス魔法も扱える
タクミは心の中で呟いた。
「……これで“訳ありチーム”の完成だ」
作業初日。廃墟の屋根裏からはネズミが飛び出し、腐った床の下は沈む。
リタは器用に古材を運び、ボルクは魔法で温度管理を行いながら厨房を再生、ピピは小さな体で天井のほこりと魔除け符を掃き集めた。
だが、そんな中、噂が耳に入る。
「帝都最大手が、新築の超豪華ホテルを建設中だってさ」
タクミは目を細めた。
「……帝都での勝負は、想像以上に熾烈になりそうだな」
リタが小さな声でつぶやく。
「……でも、私たちで紅蓮亭を蘇らせるんですよね?」
タクミは頷いた。
「もちろんだ。ここは、誰でも笑って泊まれる宿にする。金や権力じゃない、心で勝つんだ」
こうして、訳あり若手とベテランのカミーユを中心に、《紅蓮亭》再建の波乱劇が幕を開ける。
帝都という大舞台で、異世界転生者タクミの“独自のおもてなし戦略”が試されることとなる。




