第9.5章 「決戦前夜 ― 勝利の女神は誰に微笑むか」
妖精群島の空に、二つのホテルの光が対峙していた。
一方は
カオスと光と詐欺文化の詰め合わせ「フェアリーホテル」。
夜の海を照らす“灯火の舞”の幻想的な輝きが観光客の心をつかみ、笑いと熱気が島を包む。
もう一方は
帝国式の豪奢と暴力的資本の結晶「オレルアン妖精島リゾート」。
巨大ショー、派手な花火、資金を湯水のごとく使った演出が夜空を占拠していた。
だが、その均衡はついに崩れた。
マスコミを前に立つのは、白いスーツの男——
ホテルガイド階級審査員 バドレス。
「……急ピッチで建設したオレルアンホテルは、構造に重大な欠陥があります。
このままでは、崩落の危険すらある!」
会場がどよめく。
数秒後には嵐のようなフラッシュ。
記者
「本当か!? 資料はあるのか!?」
「責任者のプーチンCEOは?」
彼の手には、密かに持ち出した一枚の紙。
《オレルアンホテル 基礎データ・最高機密》
バドレスが資料を掲げた瞬間、世間の空気が一気に変わった。
◇◇◇
記者会見室へ引きずり出されるように現れた
ロシアンホールディングス CEO プーチン・オレルアン。
その顔は悔しさで歪んでいた。
「……ああ、事実だ。
我がオレルアンホテルは欠陥を抱えていた。
直すために金は惜しまなかった……だが、間に合わなかった」
沈黙。
観光客も、マスコミも、ネット中継も、妖精たちですら固唾を飲む。
プーチンがゆっくり、タクミの方向を見る。
「............」
(……タクミ。 貴様の“詐欺ゼロ特区”……
アイツらの文化を尊重した経営…… 今回だけは、お前の勝ちだ。)
ヴァン
「ふっ……敗北宣言か。不動産王が地に膝をつく瞬間というのも悪くないな」
ミラは淡々とメモを取りながらも微笑む。
「今回の勝因はこちら側の“文化理解”と“安全性への信頼”……データが示しています」
カーミラはいつものように言葉少なく
「……終了」
ただその一言に、全員が勝利を確信した。
プーチンは背を向け、記者会見室から去ろうとする。
しかし、最後の瞬間だけ振り返り
殺し屋のような、黒い目でタクミを刺すように見た。
(……覚えておけ。
タクミ。今回、お前は運が良かっただけだ。
施工ミスという“偶然”に救われただけだ。
次は必ず…叩き潰す。
不動産王の真の覇者は まだ決まっていない)
プーチンは黒服のオレルアン兵たちに囲まれて去っていった。
悪魔王のような男だった。
ヴァン
「ふふ……今回もカオスは我らに微笑んだ。
“混沌の天秤”はいつだって均衡を壊す側につく」
ミラ
「とはいえ、まだ油断はできません。
彼は必ず再び動きます。データ上、再侵略の確率は85%です」
カーミラ(淡々)
「……帰る」
タクミは静かに海風を受けながら呟いた。
「……そうだな。
今回はあっちの施工ミスで勝てた。
でも次は……もっと大きな戦いになる。
妖精島の未来は、ここからが本番だ」
リーナ(小さな妖精)
「タクミ……ワタシタチ、ゼッタイ島守ルカラ!」
タクミ
「ありがとう、リーナ。 よし……次に備えよう」
夜空に灯火の舞が舞い上がる。
その光は、まるで勝利の祝福のように輝いていた。




