第6章 「おそロシアンの反撃 ― 巨大プロモーション合戦」
妖精島の夜空は、まるで戦場だった。
プーチン・オレルアンが本気を出したからだ。
巨大リゾート「オレルアン妖精島ホテル」の上空に、
無数のロシアン製プロモーションドローンが舞い上がった。
ドローンはレーザーを照射しながら文字を描く。
<ロシアン・パラダイスへようこそ>
<妖精島の新しい支配者:オレルアン>
その瞬間、
海岸に仕込まれたロシアン式シンクロ花火が轟音とともに放たれた。
ドォオオオン!!
バリバリバリバリィッ!!
色彩が夜空を塗りつぶし、
妖精たちが守ってきた静かな島の夜は、
観光客の歓声と機械音に飲み込まれた。
「ぐ…ぐるじい! これ、島の空気ちがうね!」
妖精王が耳をふさぎつつ叫ぶ。
リーナは怯え、タクミの服の袖をきゅっと掴んだ。
「タクミ……あれ、どういうこと……?」
「プーチンの“本気の経営戦争”だよ。
あいつ、観光業でも軍事みたいなやり方するから…」
プーチンの巨大ホテルでは、派手なショーが次々と始まる。
・ロシアンアクロバット団の空中ブランコ
・極東魔族による火のダンス
・強化筋肉ダンサー40名による“筋肉バレエ”
・世界一のマジシャン“黒衣のカザフ伯爵”の超常ショー
さらに、プーチン名物
『全観光客無料!アトラクション乗り放題ナイト』
ミラがデータを見て青ざめた。
「タクミ様…オレルアンホテルの来場者、昨夜の5倍に増えてる…
あれは…資本主義という名の殲滅戦です。」
ヴァンは夜空のレーザーショーを見上げて言った。
「う、美しい……
中二病的には完璧な演出だ……
だが、我らは負けるわけにはいかん!」
だが問題はここからだった。
オレルアンホテルが始めた“妖精引き抜き工作”である。
「妖精さん、うち来たら
時給3000円・個室寮・高級食事を提供するよ?」
「妖精ショーダンサーとしてデビューできるよ?
テレビも呼ぶ予定だよ?」
甘い誘いに、
若い妖精たちがひとり、またひとりと島の奥へ姿を消す。
リーナが震えた声でタクミに告げる。
「タクミ……みんな、プーチンのほうに行っちゃう……
わたしたち、どうしたら……?」
タクミは歯を食いしばった。
「わかってるよ…でも、引き止めはしない。
選ぶのは妖精たちだ。」
ミラが冷静に言う。
「理想だけじゃ守れないわ、
タクミ様のフェアリーホテルは今、経営的にギリギリ…」
フェアリーホテルは、
“地元密着でコツコツ”という健全な経営だが、
観光客は圧倒的に
巨大資本のオレルアンホテルへ流れている。
売上は落ち、スタッフ不足、宣伝も弱い。
タクミの肩に重い疲労がのしかかる。
「このままじゃ…フェアリーホテルはつぶれる…」
タクミがリゾートホテル戦争に勝負に負けたと思いかけたとき、
その時だ
夜のホテルのロビーに、風が吹き抜けた。
「やれやれ、また無茶してるわね、タクミ殿。」
振り返ると
◆川沿い旅館「椿山荘」のリーネとグランとルナ
◆帝都ホテル「紅蓮亭」の女将カミーユ
◆地底湖ホテル「ルミナグロウ」ミカとヴァルキュリア
彼らが堂々と立っていた。
「タクミさんが困ってるなら… 助けに決まってるでしょ。」
リーネが微笑む。
「妖精ホテルの料理? 面白いじゃない!」
カミーユが腕まくりする。
「島の夜を照らすのは、 あんな騒音花火じゃないよ!
わたしたちのオモテナシでしょ!!」
ミカが仁王立ち
タクミは涙が出そうな声で言った。
「……みんな……ありがとう。」
ミラが静かに言葉を添える。
「反撃を始めましょう、タクミ様。」
妖精王とリーナも力強くうなずいた。
「フェアリーたち、まだ負けるわけないよ!」
「タクミ、がんばるね!」
“フェアリーホテル大連携作戦”が始動。
しかし
プーチン・オレルアンは、わずかな火影で、さえ消そうとしていた。




