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【ランキング32位達成】『異世界不動産投資講座~脱・社畜28歳、レバレッジで人生を変える~』  作者: 虫松
第二部 レバレッジ型経営

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第6章 「勇者のサインが呼ぶ嵐」

勇者アレックスが宿泊し、《椿山荘》の名は瞬く間に王都中へと広まった。

「勇者が泊まった宿」

「あの聖剣を見た宿」

「勇者のサインがある宿」

そんな噂が、旅人や商人、貴族の屋敷にまで届く。


ところが、人気が出た時こそ落とし穴がある。


「勇者が泊まったからってなんだ! 偉そうに!」

「庶民の宿が急に値上げか? 不愉快だ!」(勇者の間)

「勇者信者しか泊めねえのか!」


クレームの手紙が山のように届き、ギルド掲示板では賛否の書き込みが渦巻いた。

タクミは頭を抱えた。


「……人気が出た途端に、嫉妬と反発か。これも“成功の副作用”ってやつだな」


玄関を入るとすぐ、熱気と湯気が押し寄せる。服の匂い、鉄の匂い、旅人たちの歓声と不満が渾然一体となっていて、受付前はまるで小さな市場のようだ。

フロントのベルは鳴りっぱなし、帳簿は山積み、鍵束はカラカラと音を立てる。


「どなたが先ですか! 番号札をお持ちの方は?」

ルナが叫ぶが、列は伸び続け、順番を主張する声が飛ぶ。幼い子を抱えた女性が息を切らして言う。

「割引券を出したんですけど、すぐに入りたいんです!」


ガロンは荷物の山を抱えながら走り回り、ベルボーイ兼臨時運搬班として大活躍。だが次々来る客に手が回らない。タクミはフロントカウンターに立ち、目の前のカオスを見渡した。


「まずは深呼吸だ。落ち着け、全員に案内を出す。笑顔を忘れるな、笑顔は魔法だ。」

だが笑顔だけでは列は捌けない。ここでタクミは、即席のオペレーションを組み立て始める。


タクミの即席オペレーション(現場5分ルール)

優先レーンの設定

大家族や子連れ、高齢者は右の短縮レーンへ案内。


割引券専用窓口

割引券確認と引換を担当する窓口を一つ立てる(ルナが担当)。


仮チェックイン(エクスプレス)

本格清算は後回し。名前と刻印(魔法のスタンプ)で「仮押さえ」を作り、鍵を先に渡す。


ウェルカムドリンク+待合席

待ち時間を快適にするため、温かい薬草茶と小菓子を無料で配布(清掃員が担当)。


臨時寝床の準備

満室で夜まで埋まる場合は大広間に布団を敷く準備。


清掃・回転班の増員

チェックアウト予定の部屋を優先的に回して回転率を上げる(清掃員を追加投入)。


タクミはフロントの端にある古い魔導ルーン盤を叩く。ルーン盤は“宿帳の自動記入”機能を持っており、客の名を触れるだけで簡易記録が走る。これで人為的ミスを減らす作戦だ。


ルナは笑顔で割引券を受け取り、手際よく“割引スタンプ”を押す。ガロンは乱暴だが優しい声で荷物を受け取り、子どもにお菓子を渡す。リーネは結界の稼働状態をチェックしつつ、箱に詰められた鍵チャームに魔力シールを貼って偽造を防ぐ。


最初は不満の声が飛んだ。ある若者は列に並びながら不機嫌そうに言った。

「こんなに待たされるとは思わなかったぜ!」


タクミは深く頭を下げ、真摯に答える。

「お待たせして申し訳ありません。お詫びに温泉の追加タオルと、次回使えるドリンク券を差し上げます。少々だけお待ちいただけますか?」


不満は一瞬和らぎ、やがて客の顔に小さな微笑みが戻る。人は「謝られて」「扱われて」こそ心が変わる。そこに“おもてなし”の本質がある。


数時間後、臨時オペレーションは功を奏した。列は徐々に捌け、大広間の臨時布団は丁寧に畳まれ、仮チェックインした客の名前は魔導ルーンで正確に記録されていた。


現場の小さな工夫が生んだ効果


待ち時間の快適化(温かい飲み物+お菓子)でクレームが半減。

仮チェックインでフロント混雑が緩和、実働処理時間を短縮。

子連れ・高齢者優先で地域の評判が良化。

クレーム時は割引券の即時対応で“割引で来た層”をその場で満足度に変換。


夕刻、客の一人が酒場でこう呟いた。

「割引券で来てみたけど、ここ、思ってたよりいいぞ。風呂も料理も接客も最高だ」


口コミは再び動き、行列は終日続いたが、客の顔の多くは満足そうだった。タクミはホッとしながら帳簿を見て言う。

「忙しいときこそ基礎と心を忘れないことだ。現場改善はすぐに点検し、次に備える」


その夜、椿山荘の売上は跳ね上がり、翌週のリピート予約も瞬く間に埋まった。混乱は起きたが、現場の即応力と“おもてなし”がそれを好機に変えたのだ。


「ご気分を害して申し訳ありません。お詫びに割引券をお送りします、これだな」


そして数日後。


「折角、割引券もらったんなら行ってみるか」

「へぇ、結構いいじゃないか! 大浴場もあるし、料理もうまい!」

「また来ようぜ!」


口コミが再び波紋のように広がり、椿山荘のリピート率は70%を超えた。



◇◇◇



そんなある日

玄関先に、ゆっくりと杖をついた老婦人が現れた。

白髪を丁寧にまとめ、懐かしい笑みを浮かべる。


「やれやれ、立派になったもんだねぇ、タクミ」


それは、《ゴールドリーフ・イン》時代からタクミを見守ってきた。

梅ばあさんだった。


ワンポイント解説


■人気の裏には必ずアンチがいる。

どんなに良い商品やサービスでも、人気が出れば必ず“反発”が起こる。

だが、誠実な対応は“敵”を“味方”に変える力を持つ。

クレーム対応こそ、真のファン作りのチャンスなのだ。

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