第5章 「勇者、宿泊す」
盗賊と山賊連合との激戦から数日後
焼け焦げた壁も修復され、川沿いの風は再び穏やかに流れていた。
そんなある日、玄関の鈴が軽やかに鳴った。
「約束どおり、一泊頼みたい。」
振り向くと、金色の鎧をまとい、聖剣を背負った青年が立っていた。
彼の名は勇者アレックス。
この世界で最も名を知られた英雄のひとりだった。
タクミは胸の奥で息をのんだ。
(ついに来たか……この宿の“真価”を試す客が)
「いらっしゃいませ。お疲れのご様子ですね。どうぞ、靴をお脱ぎください」
ルナが優しく案内し、グランが荷物を受け取り、リーネが鎧を磨くための魔法布を差し出す。
アレックスは目を丸くした。
「……鎧の扱いを、よくわかっているな。普通の宿じゃこうはいかない。」
夕食は川魚の香草焼きに、炊きたての白米と味噌汁。
タクミ自らが厨房に立ち、日本流の調理法で仕上げた。
「これは……不思議な香りだ。食べたことのない味だが、心が落ち着く」
アレックスはゆっくりと箸を置き、静かに微笑んだ。
夜、露天風呂からは川のせせらぎが聞こえる。
空には無数の星。
湯の表面に反射する光を見つめながら、アレックスがぽつりとつぶやいた。
「勇者ってのは、いつも誰かを救う側だった。
でも今夜ばかりは……勇者の俺が救われた気がするよ。」
タクミは笑って答えた。
「宿というのは、戦いを忘れる場所ですから。」
◇◇◇
翌朝
出立の準備を整えたアレックスは、帳簿の上にペンを走らせた。
『椿山荘、最高の宿。
戦いに疲れた心を癒す、本物のおもてなしがここにある。
勇者アレックス』
サインを残すと、アレックスは微笑みながら振り返った。
「タクミ、必ずまた泊まりに来るよ。今度は沢山の仲間も連れてな。」
「お待ちしております。次はもっといい料理を用意しますから。」
勇者は朝日に包まれ、川沿いの道を歩き去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、タクミは胸の奥で小さく拳を握った。
(この一筆が……きっとこの旅館の未来を変える)
その夜、《椿山荘》の前には長い行列ができた。
「勇者が泊まった宿だって!」
「聖剣の宿泊印つきだ!」
「勇者のサインどこですか?」
冒険者も商人も次々と訪れ、旅館は再び満室となる。
ワンポイント解説
■リピーター顧客は最大の宣伝
異世界でも現実でも、顧客の体験こそ最大の宣伝。
満足したお客様は、
友人・家族に紹介する。
口コミで広める。
何度も泊まってくれる。
それが 広告費ゼロで人を呼ぶ最強の戦略 です。
心からの感動を生む“おもてなし”は、どんな豪華な建物より強い。
リピーター顧客が増えるほど、店はどんどん繁盛していきます。




