第4章 「所有者不明物件の地獄」
魔界鬼怒川温泉郷の再生計画は、最初から地獄だった。
最大の敵は“怪物”ではなく“書類”。
「所有者不明物件」魔界最大の地獄。
資料の山を前に、ミラが蒼ざめた声を漏らす。
ミラ
「……所有者、全員…行方不明です」
タクミ
「えっ、全員!?」
ミラ
「相続放棄・倒産・蒸発・死亡・地縛霊化……
もはや“誰の物件でもない”状態です。」
ヴァン
「所有者のいない建物は……闇が巣くう」
カーミラ
「全部ぶっ壊す?」
タクミ
「だからそれは最終手段!!」
廃ホテルの8割が所有者不明。
行政も触れられず、解体も再建もできない。
これこそ温泉街が死んだ最大の理由だった。
ミラは魔界法典を開き、震えるペンで条文をなぞった。
ミラ
「……ありました。“魔界特別再生措置法 第666条”。
所有者が一定期間不明の場合、魔界行政が管理できます!」
タクミ
「それって……つまり?」
ミラ
「再生特区にして、廃墟ホテルを集積できる可能性が……!」
タクミの目が光る。
「よし! 行くぞ、魔界役所!」
魔界総務省。
静かに書類の山が積まれ、官僚たちが無表情で印を押し続ける。
受付の官僚は
胸元がやたら開いたスーツを着た、笑顔の濃い男。
名札《三等官僚 デガワ》
デガワ
「ハァ~イ★ 魔王様バンザ~イ♪
今日はナニをお求めカナー?」
タクミ
(濃いなぁ……)
「所有者不明の廃ホテルを再生特区にしたいんです」
デガワ
「必要書類ハ……コレとコレとコレと……全部で30種類ネ★
“忠誠の血判”もお忘れなく~♪」
・再開発計画書
・所有者不明証明
・魔力測定票
・地縛霊退散証
・“魔王陛下へ忠誠を誓う印鑑”
以上30点ネ♪」
タクミ
「最後の絶対関係ないよね!?」
デガワ
「え~? でも押さないとハンコ押す機械が動きませぇ~ん♪」
ミラ(小声)
「タクミ様……魔界では“慣習法”です。逆らわない方が……」
タクミ
「魔界官僚……めんどくささが人間界の100倍……!」
数時間にも及ぶ交渉の末
ようやくタクミは“魔界特別再生措置法”の適用を勝ち取る。
デガワ
「ハンコ押しましたァ☆ 魔王様バンザァ~イ☆
これで君たちの温泉街は“再生特区”デスッ♪
ハンコ、ポンッ☆ 特区、承認ッ!」
タクミ
「よし……!」
ついに、温泉街の廃墟エリアが特区に指定された。
・所有者不明物件 → 行政管理に
・巨大廃ホテル → 分割して旅館&施設に
・解体エリア → 再開発用地として集約
タクミ
「これで……温泉街を一つのテーマエリアにまとめられる!」
老舗旅館『たましい屋』の主人は、静かに涙を流した。
主人
「……この街に、もう一度……客が来てくれるんだなぁ……」
タクミ
「ええ。必ず“魔界最高の温泉街”にします」
ミラ
「廃墟の連鎖を断ち切る……大きな一歩です!」
ヴァン
「光が差すと……闇は抵抗する。
気を抜くな、タクミ」
カーミラ
「さぁ、いつでも壊せる。
私の出番ね?」
タクミたちが、特区の一棟目として
“ホテル鬼哭閣” の解体に向かうと――
建物全体が、悲鳴をあげるように軋んだ。
ヴァン
「……おい。見えるか?
怨霊が“宿って”いる」
ミラ
「このホテルだけ……異常です。
魔力反応が桁違い……!」
カーミラは口元を吊り上げる。
「ふふ。
なるほど。
“ホテルそのものが怨霊化したモンスターってわけね?」
建物が唸り、壁から手が伸び、屋上から黒煙が立ち上る。
タクミ
「嘘でしょ……
廃ホテルのくせに……戦闘開始!?」
ヴァン
「タクミ。これはただの解体じゃない。“戦争”だ」
タクミたちの前に怨念ホテルが立ち塞がった。




