第1章 「廃墟温泉街との遭遇」
深海要塞アクア=マリーナでの死闘から数日後。
タクミたちは、久しぶりの長期休暇をとっていた。
向かう先は
魔界鬼怒川温泉卿(まかい きぬがわ おんせんきょう)。
地図アプリの写真では“魔界でも五指に入る癒しの湯”と紹介されていた名湯だ。
タクミは、胸を弾ませて駅の改札を抜けた。
「さーて! 温泉浸かって、旨いもの食って、のんびり……す――」
言葉の最後は、風に吹き飛ばされた。
目の前に広がっていたのは、
絶望の死んだ観光地だった。
駅前ロータリーは雑草に飲まれ、
歩道のタイルは割れ、電灯は半分以上が消えている。
そして温泉街へ続く坂道の両脇には、
・窓ガラスの割れた十四階建ての廃墟ホテル
・看板の文字が消えかけた老舗旅館のがらんどう
・シャッターが錆で固まったままの土産屋通り
・駐車場に草が生い茂るラーメン屋の残骸
かつての賑わいを誇ったネオン看板だけが、
命の残滓のようにチカチカと虚しく輝いている。
ミラが唖然と口元を押さえた。
「……ここ、本当に“温泉郷”なのですか……?
わ、私、ホラー映画は苦手なのですが……」
カーミラは一望して、無表情のままひと言。
「焼く? それとも。すべて更地にする?」
「しないで!!」
タクミは即ツッコミを入れるが、心の中では別の火が燃え上がっていた。
(……この立地、悪くない。温泉源は豊富、川沿いで景観も良い。
問題は――建物の劣化と、観光導線の崩壊。
これ……再生すれば“化ける”ぞ)
ヴァンは腕を組み、薄笑いを浮かべた。
「フッ……朽ちた楽園。嫌いではない。
だが、客は絶望的だな。亡霊ぐらいしか寄りつかぬ」
タクミ
「そんなこと言うなよ……! ちゃんと温泉もあるし、復活の余地は――」
言いかけたところで、坂道の下から
コツ、コツ、と足音が聞こえてきた。
振り返ると、背中を丸めた老魔族の男が
手押し車を杖代わりに、ゆっくりと登ってくる。
タクミたちを見るなり、男は驚きで目を丸くした。
「……観光客、か? こんなところに?」
タクミ
「え、はい。休暇で来たんですが……ここ、一体?」
老人は深くため息をついた。
「ここは“魔界鬼怒川”と呼ばれた観光地じゃった。
だが……十年前を境に、全部、終わったんじゃよ」
タクミ
「終わった……?」
老人
「魔界鉄道の特急が廃止され、宿の経営者が次々と倒れ、
若い者は都会へ逃げた。残ったのは……廃墟とわしら老いぼれだけよ」
風が、空になった旅館の窓を鳴らす。
カラン……カラン……
タクミは思わず拳を握った。
(これは……復興のチャンスだ。
再生できれば、魔界トップ級の観光地に戻せる。
いや俺たちなら“もっと上”にできる)
老人は弱々しく笑う。
「まあ、宿に泊まるつもりなら……唯一まだやっとる旅館がある。
“鬼の湯 たましい屋”じゃ。半分廃墟じゃが、温泉だけは本物じゃ」
ミラ
「と、とりあえず……行ってみましょうか?」
タクミ
「うん! とりあえず宿に入って、現状把握からだ!」
カーミラ
「廃墟温泉……面白くなってきた」
ヴァン
「フッ……夜に何か出そうだな……」
タクミは一歩、温泉街の奥へ踏み出した。
そして、ここから始まる。
魔界鬼怒川温泉卿“再生”物語の第一歩が。




