第7章 「深海魔甲蟹レヴィア=シェルとの死闘 ―巨大企業の牙を砕け」
海底都市アクア=マリーナ。
中央排水区の奥で、巨大な咆哮が響きわたった。
ゴゴゴゴゴォォォォ……!
海底の汚水に反応し、
“それ”は呼び寄せられた。
深海魔甲蟹レヴィア=シェル。
甲殻は黒鉄のように硬く、
巨大な鋏はビルの壁を一撃で砕けるほど。
タクミが解析魔法を展開する。
「この獣……排水の汚染源を餌として集まる習性がある。
レムナント社が汚水管理を放置していた結果だ!」
ミラが警告する。
「タクミ様、接近します!」
ヴァンは先陣を切り、黒刀を構えて叫ぶ。
「我が影より生まれし黒き刃よ──
深淵を裂けええぇぇ!!」
ザシュッ!
だが、レヴィア=シェルの甲殻には
傷ひとつ付かなかった。
次の瞬間。
ブシュウウウゥ!!!
周囲の高濃度海水が霧状になって吹き上がり、
ヴァンの全身を包んだ。
「ぎゃあああああああ!!
な、なんだこの……塩分濃度ッ……!?」
タクミ(え?)
ミラ「タクミ様……ヴァンさん、まさか……」
ヴァンは地面に膝をつき、プルプル震えていた。
「し、塩……塩分が……
おれの“闇の細胞”の浸透圧バランスを……ッ
崩して……ッ!!」
タクミ「要するに、塩に弱い体質ってことか」
ヴァン「言い方ァ!!!」
(深海で塩に弱い致命的体質が露呈)
ヴァンが動けない今、
〈鉄拳のカーミラ〉が一歩前に出る。
「……排除対象」
その一言で大地が揺れた。
ドゴォンッ!!!
レヴィア=シェルの巨大鋏を、
カーミラは素手で受け止めた。
ヴァン「人類じゃねえ……!」
タクミ「相変わらずだな……!」
だが相手は深海魔獣。
鋏が海流を操り、衝撃波を生み出す。
カーミラは吹き飛ばされ、岩柱に激突する。
ガシャアアアアン!!!!
それでも彼女は立ち上がった。
「……支援必要」
静かに言っているが、実際は骨が何本か折れている。
タクミが即座に判断する。
「ミラ、浄化魔法で“真水”を生成。ヴァンにかけるんだ!」
ミラ「了解です、タクミ様!」
ミラが魔法陣を展開し、
大量の清浄水をヴァンに浴びせる。
ジャバァァァッ!!
すると──
ヴァンの全身が黒く輝き始めた。
「う、うおおおお……!!
細胞が……潤う……!!
真水……ッ!
これぞ我が魂のエリクサァァァ!!」
タクミ「ただの水だぞ」
ヴァン「言い方ァ!!!!!」
ヴァンは完全復活し、黒刀を構える。
「塩に屈したが……
今の俺は“純水仕様”だ……!」
タクミ「そんなモードあったのか……」
ミラ「ありません、今作りましたね」
カーミラは鋏を受け止めたまま叫ぶ。
「今。撃破可能」
タクミは一瞬で弱点を見抜いた。
「レヴィア=シェルの内部は“淡水”!
甲殻の隙間から内部に浄水を流し込めば水圧で破壊できる!!」
ヴァン「淡水……!
同族よ……おまえの魂、浄化してくれる!!」
タクミ「同族ではない」
カーミラが鋏を押し返し、
隙間を無理やり開ける。
ゴギギギギッ!
「……開放」
ヴァンが黒刀で水流の通路を作り、
タクミが生成した大量の真水を一気に流し込む!
ドオオオオオオッ!!!
内部水圧が急上昇。
レヴィア=シェルの甲殻に
巨大なひびが入る。
ピシ……バキィィィィン!!!
深海魔甲蟹は叫び声を上げ、
そのまま大きく崩れ落ちた。
――大怪獣、沈黙。
タクミ
「レムナント社……こんな怪物まで使うとは」
ミラ
「タクミ様、CEOホエールとの直接対決が近いかと」
カーミラ
「……排除対象。次」
ヴァンは地面に座り込み、震えていた。
「深海なのに……塩が弱点の俺……
存在意義が揺らぐ……」
タクミ
「次から真水タンク持っていこう」
ヴァン
「赤ちゃん扱いかァ!!」
ミラ
「タクミ様、ヴァンさんは乳児だったのですか?」
ヴァン
「違うわ!!!」
海底に響く、情けない叫び声。




