第3章 「山賊と盗賊の密談」
夜。川の向こうの崖の上。
焚き火の火が揺らめき、粗野な笑い声が森にこだまする。
山賊の親分が大きな斧を肩に担ぎ、
対面する盗賊の親分は鋭い短剣を指でくるくると回していた。
「なあスライ、聞いたか? 川っぺりの旅館、できたばっかりのピカピカの宿だとよ」
「ああ、“転生者タクミ”とかいう異国の奴がやってる宿だろ? 他の街の宿屋は冒険者で毎晩満室らしいじゃねぇか」
「まったく気に入らねぇ。よそ者が俺たちの土地で金をかっさらって、城でも建てるつもりか?」
ゴルドンは唾を吐き捨て、薪を蹴り飛ばした。
「川沿いだろ? 逃げ場もねぇ。夜に押し入って略奪すりゃ、一晩で終わる」
「だがな……噂じゃあ、壁に“結界石”を埋め込んでるって話だ」
「結界だぁ? 笑わせるな。石ころで俺の斧が止められるもんか!」
スライは目を細め、火の粉越しにゴルドンを見た。
「いや、本気でやられてもおかしくねぇ。あの宿、ドワーフのグランが建てたって噂だ」
「グラン? あの石壁の狂職人か……」
「しかも防御魔法のリーネって女が加勢してる。衝撃吸収ルーンガラス、警戒符、全部そろえてるらしい」
ゴルドンは鼻で笑った。
「だったら、なおさら燃やし甲斐がある。結界を試すチャンスじゃねえか!」
スライは短剣を握り、にやりと笑う。
「いいだろう。俺の盗賊団が正面で気を引く。その間にお前ら山賊が裏の森から突入だ」
「おうよ。夜明け前、霧が立つころに始める。連合の名に恥じねえ襲撃だ」
焚き火の炎が、2人の顔を赤く染めた。
獣のような笑い声が森を満たす。
一方そのころ、旅館「椿山荘」では、
タクミが屋根裏の警戒符を確かめていた。
リーネが結界を再調整し、グランが梁を補強する。
ハーフエルフのルナは清掃魔法で館内を浄化し、空気までも澄ませていく。
「やつら……来るな。あのかかり火の気配、ただのモンスターじゃない」
ルナの耳が震えた。
タクミは静かに呟く。
「上等だ。異世界式“おもてなし”の力、見せてやろうじゃないか」
夜風がざわめき、川霧が立ちこめる。
闇の向こうで、山賊と盗賊たちが動き出す。
タクミは気持ちは一気に“経営”から“防衛戦”へと転じる。
転生者タクミが築いた宿は、単なる商売の場ではなく、異世界での信頼と誇りをかけた「戦う宿」となるのである。




