第2章 「海底都市の“空室だらけ”の謎」
海底都市アクア=マリーナ。外観は近未来の水中都市を思わせる透明なドームと光の回廊で彩られ、どの建物も魔力によって浮遊石に支えられている。しかし、表向きの美しさとは裏腹に、街は異様な静けさに包まれていた。
「タクミ様……入居率が低すぎます。これでは投資としての価値が落ちます」
ミラは魔法陣を展開し、建物ごとの住民数や魔力流量を瞬時に解析した。赤い数字が並ぶ魔法陣に、ほとんどのマンションが赤信号で表示される。
カーミラは無言でメモを取り続け、拳を握ったまま建物を見据えている。
その鋼鉄の沈黙が、逆に都市の異常さを際立たせる。
ヴァンは深く息を吸い、闇を背にした魔導翼を広げて宙に浮く。
「この都市……生きている……いや、俺には死霊の気配すら感じる……深淵が囁く……フッ」
タクミは眉をひそめる。
「ヴァン、落ち着け。分析が先だ」
ミラが解析を続ける。
「原因は複数です、タクミ様。まず、塩害による電気系統のショートが頻発しています。配電盤も錆びつき、室外機のほとんどが機能不全状態です」
「次に……」
ミラは魔法陣に追加情報を表示する。
「海流による建物の微振動です。建物は常に“ミシミシ”と音を立て、長期的な構造疲労のリスクがあります」
ヴァンは手を広げ、闇の波動を小さく波立たせる。
「微振動……これは都市そのものが息をしている証……フッ、俺は感じる……この都市の鼓動を」
タクミは指を動かし、潜行艦内に安全結界を張る。
「最後に酸素濃度です。局所的に濃度が不安定な部屋が多く、頭痛や呼吸不良の報告が出ています」
カーミラが無言でノートに数字を記入し、軽く頷く。
「……塩害、海流、酸素……すべて物件リスクだな」
タクミは小さく息を吐き、チームに指示を出す。
「よし、まずは現状のリスクを洗い出し、補修と魔力補強の計画を立てる。ヴァン、外周の異常兆候の監視。カーミラ、建物構造の直接確認。ミラ、魔力解析の続行」
ヴァンは闇の波動を空間に放ち、輝く浮遊石を照らす。
「フッ……すべては俺の暗黒視界に映る……都市の秘密も、住人の恐怖も……俺の血となり肉となる……」
都市全体に漂う海流と魔力の微細な変動を感じながら、タクミは未来を見据えた。
「空室だらけでも、この都市には可能性がある。補修と投資で価値を再生できる」
カーミラは無言のままタクミを見つめ、ヴァンは闇の翼を揺らす。
ミラは小さな魔法陣を指でなぞり、解析結果をさらに精査する。
「タクミ様……この都市、油断できません。修復には相当の魔力と資金が必要です」
タクミは窓の外、青黒い海底の深淵を見据えた。
「わかっている……だが、この深海都市を投資として生かすのは、俺たちしかいない」
海底都市アクア=マリーナの静寂の中、潜行チームの戦いが、静かに始まった。
ワンポイント解説
■塩害の被害について
塩害とは、海風や海水に含まれる塩分が建物や設備、特に金属部分に付着・浸透することで発生する腐食被害のことです。海岸沿いや海上、海底都市のような環境では特に注意が必要です。
主な影響
金属腐食
鉄筋、鋼材、配管などが錆びやすくなる。
錆びによって強度が低下し、構造物の耐久性に影響。
電気設備の故障
電線や接点部分に塩分が付着すると、ショートや断線の原因になる。
海底都市のように水分・湿気が常にある環境では、特に電子機器が不安定になる。
外装・塗装の劣化
外壁や屋根の塗装が剥がれやすくなる。
定期的なメンテナンスや防錆塗装が必要。
防止・対策
耐塩害素材の使用(ステンレス、アルミ、特殊樹脂など)
防錆塗装やコーティングの定期施工
通気や換気による乾燥維持
電気設備の防水・密閉対策




