第10章 「魔導空中タワーの欠陥問題 ― 浮遊石の偽装と空族大手の陰謀」
タクミが雲層都市へ来てから、一度も止まったことのない
空中タワー《アトラス・スパイア》 の浮遊震が、ある朝、ついに起こった。
――ゴォォォン……!
鈍い魔力の唸りとともに、タワー全体がわずかに“傾いた”。
ミラはすぐに魔導測定紙を床に走らせた。
青白い魔方陣が浮かび、震える。
「……おかしい。浮遊石の魔力均衡が崩れてる。
自然劣化じゃない、誰かが“浮遊石の強度”を偽装した証拠よ。」
タクミの胸が冷たくなる。
地上で聞いた“耐震偽装事件”が脳裏によぎった。
「まさか……雲層都市でも同じことが?」
ミラは唇を噛み、うなずいた。
調査を進めるうち、驚くべき事実が明らかになる。
浮遊石の出荷証明書には
魔力密度=Aランク と記載されているが、
実際には Cランク以下 の粗悪石が混入されていた。
タクミは資料を見て目を細めた。
「……これは完全に“設計魔力の偽装”だ。
地上の耐震偽装事件よりタチが悪いぞ。空中にあるんだ。倒れたら終わりだ。」
ミラは魔力解析陣を広げ、魔力流を青い糸のように可視化する。
「施工会社《スカイライン建設》……そして裏で資金を動かしていたのは――」
光の糸がある一点で濃くなる。
「影組織よ。」
タクミは舌打ちした。
その直後
タワー中央の心臓部《制御魔力核》が、赤黒く脈動を始めた。
「……制御核が乗っ取られてる! あれは自然じゃない……誰かが魔力侵入を!」
ミラが叫んだ瞬間、タワー全体が悲鳴を上げる。
――ギィィィン!
空族の住民たちが逃げ惑う。
天井の魔力灯が弾け、階層の一部が崩れかけた。
その時、タクミは“風裂きの魔力痕”に気づく。
「……この魔力、覚えがある。
スカイ=ハリケーンが関わってる。」
復讐の風は、すでにタワー内部に吹き込んでいた。
タクミとミラは即座に行動に移った。
ミラ「タクミ様、外側の浮遊石に“耐震魔法陣”を刻み込む!
私は魔力流の逆噴射を止める!」
タクミ「了解! 地上で習った補強理論、まさか空で使うとはな!」
二人はタワーの外壁に飛び出し、雲海を見下ろしながら作業を開始した。
タクミは空中で魔力ペンを走らせ、浮遊石に複雑な補強式を刻む。
「《固着陣・三重結界》ッ!」
魔力が走り、塔の傾きが徐々に止まる。
ミラは両手で魔力流の乱流を押さえ込み、必死に叫ぶ。
「タクミ様! まだ上階が暴走していますわ!
勇者組と合流して、内部制御を止めてください。!」
タワー内部では、
勇者アレックス率いる戦闘組が悪魔化した制御守護体と交戦していた。
制御核周辺は赤黒い魔力が渦巻き、
地獄のような空間と化している。
アレックス「剣を抜け! 制御核を押さえ込め!
ここが吹っ飛べば雲層都市全滅だ!」
戦士ブレイブは炎刃を振るい、叫んだ。
「制御魔力に“侵入痕”がある!
だれかがわざと暴走させた……!」
アレックスは歯を食いしばった。
「スカイ=ハリケーン……お前か。」
誓うようにつぶやく。
その頃、雲の裂け目の上空に、
風をまとった人影が浮かんでいた。
スカイ=ハリケーン。
「アトラス・スパイア……よくも俺を裏切った、空族ども。
お前たちが“魔力偽装”で儲けた分、いま全部返してもらう。」
狂気の風が舞う。
だが彼の目は悲しみに濡れていた。
「俺の家族を奪ったのはお前たちだ……。
魔導空中タワーが沈む痛みを、お前らも味わえ……!」
復讐は、すでに最終段階に突入しつつあった。
タクミ「ミラ! 耐震魔法陣、全周完了!
あと内部制御を押さえれば……!」
ミラ「勇者組から連絡!
制御核が“暴走直前レベル”……急いで!」
タクミは風を切り、塔の内部へ急降下した。
勇者組と補強組
二つのチームが同時に動かなければ、魔導空中タワーは落ちる。
空族最大のタワーの運命を賭けた
魔導・建築・戦闘の三重バトル が始まった。




