第9章 「雲層区分所有法と魔導管理組合の闇」
タクミとミラは、浮遊区画取引を終えたあと、
次なる目。 浮遊権付きマンションの管理組合との交渉 に挑むため、
雲層都市にそびえる《雲塔》を訪れた。
塔の外壁には、浮力を支える魔力紋が複雑に編み込まれ、
まるでビルそのものが“魔導生命体”のように呼吸している。
玄関ロビーに入ると、
ミラは透明な魔導タブレットを取り出し、法律陣を展開した。
「タクミ様、ここで適用される法律は地上の区分所有法とは異なります。
《雲層区分所有法》 区画が“動く”前提の、特殊な管理規約が存在します」
「動くマンションの管理規約か……想像以上に厄介そうだな」
ミラは頷く。
「高度の上下、魔力供給の偏り、浮遊石の劣化……
これら全てが毎日変動します。
そのため、管理組合の権限は地上よりはるかに強いのです」
タクミたちは会議室に通され、
管理組合長・ドロスが不敵な笑みを浮かべて迎えた。
「よく来たな、地上人。
このマンションを買いたいということは……
雲層都市のルールを理解してのことだろうな?」
タクミは即答する。
「はじめましてタクミと申します。こちらは秘書のミラです。住民が安全に暮らせる環境を作るためだ。
管理規約の確認をさせてもらいたいです。」
ドロスは魔導契約帳を投げるように渡す。
「読めるものなら読んんでみなさい。
空のマンション管理は“地上人の常識”では通用しない」
タクミが契約帳を開くと、
複雑な魔力が絡み合う文様が浮かび上がり、条文が次々と変化する。
ミラが魔法陣解析モードに切り替える。
「タクミ様……これはおかしいわ」
契約書の裏に隠された“魔力の流れ”が見える。
「共有魔力施設――
浮遊石の補強、魔力照明、雲層風防シールド……
本来あるはずの 修繕積立魔力 が……消えています」
タクミは眉をひそめた。
「積立魔力が消えてる? どこに行ったんだ?」
ミラは静かに指を滑らせ、魔力ラインを追跡する。
「……このラインは、管理組合法陣では説明がつきません。
誰かが意図的に魔力を抜いている」
その直後
空気が歪み、黒い影が会議室の隅に浮かび上がる。
管理組合長ドロスが低く笑った。
「……察しがいいな、ミラさん。
修繕積立魔力は、我々の協力組織――
《グレイバッカーズ》へ流れている」
《グレイバッカーズ》
空の金融・不動産に裏から手を伸ばす影の投資家集団。
詐欺、区画操作、魔力横流し……
どれも空族の一部エリート層が裏で関わっている。
「つまり……住民の修繕魔力を奪って、影組織の資金源にしているわけか」
タクミの声が低くなる。
ドロスが手を振ると、
契約書全体が空中に浮かび、巨大な魔法陣へと変形した。
「さぁ、管理規約魔法バトルを始めようじゃないか!」
魔導法律陣《雲層規約領域》が発動。
条項が刃のように空中を飛ぶ。
・高度制限条項
・魔力利用料の上限規定
・補強呪文の責任範囲
・緊急魔力供給の費用負担
全てが魔力で具現化され、攻撃となってタクミに襲いかかる。
タクミも魔法筆を構える。
「法の抜け穴で住民を苦しめるような組合……
俺が正してやる!」
魔法筆の一閃で《均衡の契約陣》が展開され、
条項の刃を一つひとつ無効化していく。
ミラは高速で解析を開始し、次々と指摘する。
「タクミ様、その条項は不当!
高度が変わったときの補強呪文の費用負担が曖昧すぎる!」
「タクミ様、ここ!
魔力利用料が二重に請求される罠です!」
タクミはその都度、修正魔法を上書きしていく。
契約魔法の光が荒れ狂う会議室で、
ドロスの表情が険しくなる。
「地上人ごときが……ここまで読み切るというのか!」
その瞬間
会議室の窓を突き破るように突風が吹き込み、
スカイ=ハリケーンが影のように降り立った。
「ドロス殿、遅いですぞ。 地上人を打ち倒すのは、もっと効率的にやらなくては」
ドロスが敬意を示す。
「“空の旋風”の異名を持つあなたが動いてくださるとは……」
スカイ=ハリケーンはタクミを睨む。
「憎っき タクミ……
空の土地を買い、空のマンションを買い……
今度は管理組合の秩序まで乱すつもりか?」
タクミは一歩も引かない。
「秩序を乱しているのはお前たちだろ。
住民の魔力を奪い、影組織に横流ししてる」
「黙れ。
地上の民が空に口を出す資格などない」
その眼には、既に明確な“復讐”の炎が宿っていた。
魔法陣が割れ、会議室が揺れる。
ミラがタクミをかばうように前へ出る。
「タクミ様……彼らは本格的に動くわ。
これは、ただの管理組合トラブルではありません」
タクミは魔法筆を握り締める。
「わかってる。
空の不動産の闇……全部暴いてやる」
天井で風が唸り、
スカイ=ハリケーンの影が揺らめく。
雲層都市の“闇の仕組み”は、いよいよ本格的に牙を剥き始めた。
ワンポイント解説
■マンション管理規約とは?
マンション管理規約とは、
そのマンションで“住民全員が守るべきルール”をまとめたものです。
例えるなら
マンションの“憲法” のような存在。
管理規約は、ただのお願いではなく、
法的効力を持つ正式なルール で、管理組合が中心となって運用します。
◆管理規約で定められる主な内容
① 建物の維持・修繕のルール
・外壁やエレベーターの修繕計画
・修繕積立金の額
・どこまでが専有部分/共用部分か
② 住民の生活ルール
・ペット可・不可
・騒音、ゴミ出し
・ベランダの使用方法
③ 管理費・修繕積立金の使い方
・どの費用を誰が負担するか
・管理会社との契約方針
④ トラブル対応の仕組み
・総会のルール
・理事会の権限
・重大な違反への対応
なぜ重要なのか?
マンションは多数の人が“共同生活”を行う場所。
管理規約が曖昧だと、以下の問題が起こります。
① 修繕積立金が足りない
②トラブル解決ができない
③ 騒音・ペットなど生活ルールで住民同士が争う
④ 不当な管理で資産価値が下がる
つまり、
管理規約の質=マンションの住みやすさと資産価値そのもの。
管理規約は、マンションの“安全・暮らし・資産価値”すべてを支える最重要ルール。
不透明だったり悪用されると、住民の生活が一気に崩壊する。




