第8章 「空中区画の大交換市」
タクミとミラは、空層銀行で融資契約を勝ち取った翌日、
雲層都市最大の取引所《クラウドマーケット Exchange》に足を踏み入れた。
そこは地上の不動産市場とはまるで異なる“空の経済圏”だった。
巨大なドームの天井から雲が流れ込み、区画の模型が空中に浮かぶ。
魔力密度計、雲流動計、浮力安定度を示す光の柱……。
すべてがリアルタイムで変動し、
市場全体が「生きている」ようだった。
案内役のミラがタブレット型魔法具を操作する。
「タクミ様。ここで扱うのは“土地”ではありません。
雲層区画は 魔力密度 × 高度 × 流体安定度 × 雲流動リスク で評価されます」
タクミは目を細め、空中に浮かぶ区画の魔導グラフを見る。
「雲流動リスク……つまり、風で動くってことか」
「はい。今日ここにある区画が、明日も同じ場所にあるとは限りません」
評価基準が一瞬で理解を裏切る。
地上の常識ではありえない。
だが、だからこそ投資価値も高い。
取引フロアでは、無数の投資家が魔法陣を展開していた。
「この区画、魔力密度は高いが雲流の向きが変わり始めている。
高度が落ちれば価値は半分だ!」
「それは読みが浅い。今夜は《上昇気流日》だ。
明日には高度が+3レベルは上がる!」
彼らは数字と魔力を同時に読み解く。
地上で言えば、瞬時に変動する株価を
魔法で直接書き換えるような世界だ。
タクミは感嘆しつつも、一歩も引かず市場を見渡した。
空層銀行 支店長のマモンの紹介状を見せると、
光を纏った青年が姿を現した。
「初めまして。アポロン家系列の投資オーナー、イスト・アポロンです」
黄金の髪がわずかに輝き、周囲の魔法陣が反応する。
彼は“太陽の加護を持つ投資家”と呼ばれる存在だった。
「あなたがタクミさんですね。
マモン支店長から『地上出身だが、空の秩序を乱さぬ者』と聞いています」
「俺はただ、浮遊島の住民を守るために動いているだけだ」
イストは興味深そうに笑みを浮かべる。
「あなたの目的、悪くない。
それなら、私の持つ《南雲層区画》をいくつか紹介しましょう」
商談が始まり、ミラが魔力計算を補佐する。
だが、その背後では
黒い旋風がそっと市場の天井をかすめていた。
「タクミ……また空の商圏に手を出すか」
高所の通路に立つスカイ=ハリケーンは、
クラウドマーケット全体を見下ろしていた。
彼の周囲に旋風が生まれ、薄い雷光が散る。
「地上人が空の区画を買い始めれば……
空の権利体系そのものが変わる。
それは《空族の寡占利益》を脅かす」
彼の目に宿るのは、単なる怒りではなかった。
空族エリート層の利権を守るという、歪んだ使命感。
「ならば……取引ごと吹き飛ばしてやろう」
彼は魔導式の風系プログラムを密かに起動した。
雲層都市の気流を操作し、
タクミたちが狙う区画の高度を“意図的に暴落”させる魔法だ。
《操作系魔法:流動デフレ陣》
高度評価が下がれば、区画価値は暴落。
タクミの購入計画は全て崩壊する。
「地上人よ……空の市場は甘くないことを思い知れ」
黒い旋風が取引所に忍び込みタクミの妨害工作へとのり出した。




