第7章 「空層銀行 ― 支店長の強欲のマモン」
タクミとミラは、空層銀行の最上階ラウンジに通された。
そこは巨大な浮遊魔力石が宙に浮かび、無数の魔法陣が床に刻まれた異空間。
「さあ、地上人よ。何を求めて上層島まで来たのかね?」
空層銀行の頭取、マモンが椅子に腰かけ、指先で宙の金貨を自在に操る。
その金貨は、魔力を帯びたまま浮遊し、空気を震わせる。
「ここで融資を受けたい……浮遊島の修繕資金だ」
タクミは落ち着いた声で告げる。
「しかし、地上人に貸すことは基本的に不可能だ」
マモンの声には笑みが混じる。
「例外はある。だが条件は厳しい」
マモンは指先を一振りし、魔法の帳簿を呼び出す。
帳簿のページが風に揺れ、浮遊島の浮力・魔力バランス・住民権利が赤く光る。
「この帳簿の項目を全てクリアできれば、貸そう」
ミラが即座に分析する。
「タクミ様、財務・魔力・土地権利・住民保護……すべてを帳簿に反映させる必要があります」
その瞬間、スカイ=ハリケーンの怒りが空気を裂いた。
「タクミィィィ……地上人に貸すとは許さぬ!」
旋風が銀行の窓を揺らし、金貨の浮遊陣列を乱す。
タクミは指を広げ、魔法陣を展開する。
「住民の権利も、浮遊島の安全も、俺が守る!」
防御結界《天空権利保護法陣》が展開され、金貨の魔力も安定を取り戻す。
マモンは微笑む。
「よろしい……では契約条件を魔法バトルで決めよう」
空中の魔法陣に数字と契約条項が浮かぶ。
「この契約を正しく結ばないと、浮遊島の修繕費は無効。違反すれば資金は消滅する」
タクミは魔力を込めた筆を手に取り、空の契約魔法陣に触れる。
ミラは解析魔法を展開し、条項の落とし穴を探す。
「金利、担保、浮遊権、魔力安定……すべて完璧に調整します」
スカイ=ハリケーンが空中で竜巻を起こし、契約魔法陣を乱そうとする。
タクミは必殺魔法《均衡の契約陣》で魔力ラインを再構築し、空賊の干渉を防ぐ。
タクミが空層銀行のラウンジに立つ。
その瞬間、旋風と雷鳴が吹き抜け、スカイ=ハリケーンが空中に降臨した。
「地上人に融資を許すなど、空の秩序を乱す行為だ!
浮遊権は空の民のものであり、力なき者には渡さぬ!」
彼の魔導翼が旋回するたび、空間に浮かぶ魔力陣が微細に変形する。
その影響で、銀行の契約魔法陣の安定が揺らぎ始めた。
タクミは冷静に魔力計測器を取り出す。
「スカイの干渉は《契約条項操作干渉》……
単なる力押しではなく、魔力ラインの書き換えを狙っている」
ミラが解析魔法を展開する。
「タクミ様、この干渉は可視化できます。
彼の魔法ラインを逆算して、反作用を与えれば条項を守れるわ」
空中の契約魔法陣に、光の網目状の補正ラインを張り巡らせる。
そのラインは、現実世界で言えば「リアルタイム契約監査と条項補正」そのものだ。
スカイ=ハリケーンは巧妙に契約陣の一部条項を書き換えようとする。
「貸付条件の担保価値を不正に改竄す……
なるほど、地上人の投資家を試す高度な戦法か」
タクミは思わず呟く。
「ただの力任せじゃない……これ、まさに空の金融戦術だ」
ヴァンが上空から《闇の波動空斬》を構え、攻撃を牽制する。
カーミラは言葉少なに、契約陣の柱を押さえ、物理的安定を維持。
タクミは魔法筆を取り、契約条項に符号魔法を刻む。
「補正、逆作用、再同期……これで条項の安定率は100%に保たれる」
ミラもサポートし、魔法陣を多層防御に切り替える。
スカイ=ハリケーンはさらに高度な干渉を試みる。
「今度は契約金利の魔力値を改変して、浮遊権の権利保持者を混乱させる!」
タクミは瞬時に解析し、条項補正魔法《均衡の契約陣・上級版》を発動。
契約魔法陣の光がスカイの干渉を吸収し、反射する。
条項改変の魔力は逆にスカイ自身の魔力ラインに跳ね返る。
「なるほど……知略で返すとは、地上人も悪くない」
スカイが悔しげに呟く。
彼の旋風は弱まり、空の権利は守られた。
マモンも満足げに笑う。
「よかろう……これで、契約は完全に成立した」
数分の攻防の末、契約陣は完全に安定し、金貨は浮遊島に融資として落下。
スカイ=ハリケーンは旋風を巻き上げながらも、退却せざるを得ない。
マモンは満足げに頷く。
「よかろう……お前たち、融資を受ける権利を得た」
タクミは深く息をつく。
「住民も浮遊島も、そして契約も……守り抜いた」
ミラは微笑み、帳簿の魔法陣を閉じた。
空層銀行の上空には、金と魔力の秩序が再び静かに流れ始めた。
だが、スカイ=ハリケーンの復讐心は消えず、次の波乱の予感を残す……。




