杜のお話
ただ思い出の地に戻る。そして自分を顧みる。ただそれだけ・・・
いつも通学で通ったみち
石製の四角柱がずらっと並ぶ玉垣をいつものようにそこらで拾った笹竹でかんかんと叩きながら歩いたり走ったりとリズムを変えて楽しみながら・・
先の角を曲がるとこの神社の荘厳さを表す様に少し大きめの石鳥居がある。
もう、いつもの光景すぎて、その荘厳さのかけらも伝わってこないほどには慣れてしまった。
毎日見かけるとありがたいものも、そのありがたさが解らなくなってくるものなんだ。
当然その時の僕はそんなことを考えることすらなく、ただ学校へ通うときの景色の一つとしての認識しか。
暑かった夏が過ぎて、境内の数ある大木から無限と思われるほどの色づいた葉がひらひらと舞い落ちて、境内はもうそれら黄色や赤の落ち葉でうっすらと覆われ、一部、おそらく近所の住人か、あまり見かけることはないが宮司あるいはその家族の誰かが掃き集めたものであろう。
枯葉の小山ができているその辺りだけがきれいに土の地面となっている。
そんな光景が境内のあちこちに見られる。
外の空気も早朝などはもういい加減に肌寒く感じるほどにはなってきて、集合場所に集まってくる学童たちもちらほらと長袖、長ズボンに変化しつつある。
そんな学童を横目で見ながら、バッバッバッとエンジン音を響かせながらチョイスした服装に後悔をしながら『通学路に付き』の看板に従い、ゆっくりと駆け抜ける。
(もう一枚上に羽織るべきだったか・・・)
エンジンの熱を直接受けてしまうパンツについては十分の厚みを持ったジーンズを着用こそすれ、上の方は少し舐めてしまった。
半袖のポロに極薄のウインドブレーカー、バイクに乗る時の安全な服装とか言われればぐうの音も出ないが、実際バイクを降りた時にバイク用ジャケットって目立ちすぎるというか、荷物になるというか・・・
バイクに乗る人なら少なからず感じたことってないだろうか?
XR230 本格的なオフロード モトクロスとかに本気で取り組むにはちょっと…でもその気分は味わいたいしちょっとした山道とかへのトライはしたい。そんな俺にぴったりなバイクだった。一応他に候補もあったよ SERROWとかね。まあ、決め手は単に俺がホンダ好きだっただけ。
SUZUKIもKAWASAKIもYAMAHAも他でもいいバイクだよきっと。でも単に俺の好き嫌いが勝っただけ。
話が横にそれた。とにかく今俺はそんなのどかな風景を見ながら、目的地であるこの神社の荘厳な石鳥居の前に到着しバイクのスタンドを立てて愛車の左に降り立つ。
これまた大仰な雰囲気のオフロード用ヘルメットを脱いで、右ミラーへ。
軽く手櫛で髪を整えながら石鳥居を見上げる。
(こんな小さかったっけ?)
まあ、あの頃の小さな俺が見たときは、はるか空へとそそり立つようなイメージを受けたものだが
いま改めてこうしてみると、意外と小さなものだと、少しがっかりするような・・近くなれてうれしいような複雑な感情。
俺がこの町に居たのは中学卒業まで。それ以降はやりたいことを目指して専門の高校に入ったがそこが地方の全寮制。
それこそ、夏と冬ぐらいしか家に戻ることもなくなり学年が進むにつれ長期休みも同級生と過ごす方がよいと家に帰らず卒業と同時に就職した先が全国区で、いよいよよそに根を下ろす結果。
今回、中学の同窓会のお知らせを頂いて久々の里帰りって訳。
それで懐かしさのあまりちょいと昔いたずらばかりしていた神社にお詫びがてらの参拝にと足を運んだ次第である。
当時の俺は特段悪さをしていたとか、いたずらが過ぎるとかやっていたわけでなく。一般的にはごく普通の中学生。
ただその神社では落ち葉を焼いたりして焚火をしていたことが多くてよく可燃性のもの・・良くないんだけれど竹とかライターとか、スプレー缶とか手あたり次第放り込んでいたんだね。どれもこれも時間に差こそあれ、勢いよく『ボン!』とかいって爆発するもんで、宮司が慌てて飛んでくるけれどそのころにはもう俺たちはいない。放り込んだらそのまま学校に行っちゃうから、宮司も何をされたかはわかっていても誰がは解らなかったろうね。
ある時は爆竹を放り込んで、それこそ『バン!バン!バババババッ!』と来るもんだから、さすがに爆竹って比較的早く火がついて爆発するので誰がやったか一目瞭然になっちゃって・・・さすがに箒もって追いかけられた。ハハハ
悪いことしてたね。俺たちにとってはただガキのいたずらだったんだけど・・・・ね?
そんなこんなを思い出しながら、久々のこの神社。
いまだに何の神様が祭られているのかもどんな由来の神社なのかも知らないが身近にあった神社。
俺達・・だけじゃなくてたぶんここいらのみんながいろんな意味でお世話になってきた神社だろうね。
神様もおおらかじゃないとおそらくやっていけないよ。
俺達みたいなのにいちいち神罰与えてたら、神様パワーどんどん落ちちゃうもんね。ごめんよ神様。
改めて石鳥居の前に立ち中央より少し左側から境内ー拝殿に向かって深々と一礼
鳥居とか参道とかって神様の通り道らしいから中央を開けておくんだってね。
こんな事当時の俺は当然 知らない。
今少し大人になって帰ってきた俺見てどうよ?神様・・・少しは様になってるかね。
同じ様に参道も端を静かに歩く・・拝殿に向かって
(思ったより小さな神社だったんだな・・ここ)
ゆっくりと拝殿前に進むと本坪鈴をカラカラと鳴らして、ポケットに手を突っ込む。
(・・・お賽銭・・。え?・・ない。)
右ポケット・・、左ポケット・・、後ろポケット・・ホッ。
何とか入っていた小銭をつかんで数えてみると10円玉・・1・2・・5円玉が・・
結局出てきたのは27円
(ん~?神社に来るのにお賽銭用意していないとか・・・俺って。)
奇数もいいんだろうけれど・・何となく5の倍数がよい気がして・・・ご縁とか語呂がね。
2円はもう一度ポケットの中へ。25円を賽銭箱に軽やかに放り込んで・・・
二拝・・二拍手・・(ごめんよ。久々に来てまでポケやってて・・)・・一拝
一応の参拝が終わってから改めて拝殿をじっくりと観察
(へ~意外と細やかな彫刻が有ったりして・・結構立派・・立派だ。)
拝殿を時計回りにじっくりと眺めながら、本殿へ。本殿と拝殿は橋?でつながっているのでそのまま本殿の後ろまでゆっくりと見ながら反対側へ・・・
(意外と歴史のある・・・由緒ある神社なのかも・・・な)
再び拝殿の正面に戻ってきて改めてそう感じる。
(俺ってとんでもない神様にいたずらしてたのかもなぁ?・・・)
そんなことがふと頭をよぎった時、季節にそぐわない暖かい風が一陣吹き抜ける。
『まあ・・良いってことよ』そんなこと言われたような気がして思わず周囲をきょろきょろと見まわすが当然誰もいない。
(・・そんなこともあっていいか・・)
拝殿の前でもう一度深々と誰とも知れぬ神様に一礼・・そのまま一歩・・二歩後退して・・
くるりと向きを変えて退出しようとする視線の先には社務所が。
まさにガラガラと引き戸が開いて宮司と思しき男性が出て来る。
扉の横に立てかけてあった竹ぼうきを手にして境内の一隅へ向かう。その足取りは俺の記憶にある宮司のそれとは似ても似つかぬほどに遅い。
(あの時の宮司だろうか?)
参道を戻る俺と拝殿に向かう宮司の視線が一瞬交錯する。
宮司には俺も一参拝者としか映っていないのかもね。
石鳥居を出て再び境内に向かい深く一礼。数秒間ではあるが長く感じたその時間にただ遠くで枯葉を掃き集める箒の音が耳に届く。
その音を聞きながら、ヘルメットをかぶりスタンドを蹴り上げてシートにまたがる。
境内に振り向くとただひたすらザッ・・ザッ・・と力強く掃き集める・・・音・・おと・・
その音を聞きながら顔を前に向いてせるスターーターを押す。軽やかなキュルルと言う音のあと
バッバババとひびくエンジン音。
クラッチを握り、ギアを踏み入れ、ゆっくりとレバーを放しながら車体を進める。
ただ無心・・・2速・・3速・・
(やっぱり服の選択間違えたな・・・)
ブルッと体を震わせながらも・・・
(・・・・また来るよ・・)ってね。
短編第2作 こんな感じいかがでしょう?・・転生しない・・・そうです。普通しませんよそう簡単には。(笑)