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05「side~ 金糸雀×J」

 さくさくさく……。


 どこまでも広がるような森の中を、私は「しおり」の後に付いて歩いていた。

 珍しくて、周りをキョロキョロしながら歩く私を気遣うように、しおりは時々こっちを振り返る。交わす言葉もないけれど、少し笑ってあげると、安心したようにまた前を向いてひたすら歩く。ずっとその繰り返し。

 「中央」って遠いのよね……どこまで歩いて行けばいいのかしら。

 あやはとは違う、真っ黒な髪がふわふわ揺れるのを見ながら、ちょっと不安に思う。



 あやは、あやは、どこに行ったの?


 私は、どこにいるの?



 もしかして、私のこといらなくなっちゃったのかな……。


 一人は嫌い。独りは嫌い。沈黙が嫌い。


 

 そんな風に考えてると、大体あやはが来てくれた。私が知らないこと、あやはが知ってること、たくさんたくさん教えてくれた。

 来てくれなくても、その時間を思い出すだけで、寂しくなくなった。

 でも、何で、今、こんなに寂しいんだろ。



 初めて見るセカイ、初めて会うヒト。

 楽しくて、ワクワクする。でも、何か不安で、胸の中がざわざわして嫌な感じ。



 私は、私のセカイは、きっとあやはが守ってくれてたんだろうな。

 だから、彼がいないとこんな気持ちになる。


 早く探さなきゃ、早く見つけなきゃ。会いたいよ。



「急ごう」


 そう言おうと伸ばした手を掴んだのは――。


 誰?


                          *

「きゃ……っ!?」

「お前、何者だ……?」


 突然出てきた男の子は、私の腕を掴んで疑りの眼で見てきた。


 いきなり、どっから出てきたのよ?


 周りを見回したけれど、答えは転がってなかった。

 そんなことよりも、掴まれた腕が痛い。


「何よ!? 触らないで!!」


 逃げようとして夢中で振り回すのに、向こうは全然顔色も変えずに、更に力を込めてきた。

 代わりに顔色を変えたのは、前を歩いていたしおり。驚いた顔して、慌てて引き返してきた。気付くのが遅いのよ、もう。


「スギさんっ……? 何してるんですか!?」

「それはこっちの台詞だ。ここで何してる……?」


 しおりに「スギ」と呼ばれた男の子は、ムッとした顔で私としおりを交互に見た……がっちり腕を掴んだまま。

 言っても聞かないのなら、「じつりょくこうし」! スギがしおりを見ている隙に、私は服の下に自由な方の手を滑り込ませた。感触を確かめて、一気に抜き取る。



「離せって……言ってるでしょ!!」


 あやはがくれた、小さな刀。それは空気を裂いて、細い音を立てた。よくわからないけど、あやはの「能力(ちから)」が込められてて、私でも簡単に扱えるんだって。


 スギはフワッと跳んで、音も無く軽々と着地してみせた。解放された、少し紅い手を振って、スギを睨みつける。よくも私の肌に……。


「へぇ〜……俺に敵うと思ってるんだ?」


 ニヤニヤと面白そうに顔を歪め、見下すように私を見返す。腹立たしくて、自然と刀を握る手に力が籠った。絶対、一撃くれてやる。



「ちょっ、ちょっと!? やめて下さい! 金糸雀もソレ下ろして!」


 驚いて声の上ずったしおりが、スギとの間に割り込んでくる。守ろうとしてくれてるのか、庇うように立つ。少しは、男らしい所もあるのね。


「しおり、何コイツ!? 私に触った!!」


 名前を知ってるってことは、知り合いなわけで。

 私の肌に傷を付けたんだから、全部きっちり説明してもらわないと気が済まない。噛みつかんばかりの勢いで、しおりに詰め寄った。


「金糸雀、ごめんっ! 説明するからちょっと待って!?」


 相変わらずオロオロしっぱなしの彼は、私の方を見て早口で頭を下げた。何だかその姿がかわいそうに思えて、それ以上言えなくなってしまった。おとなしく、黙って続きを待つ。



 私達のやり取りを聞いていたスギが、不思議そうに首を傾げた。


「『しおり』? お前『(あいつ)』のとこのJじゃないのか……?」


 「しおり」はさっき勝手に付けた呼び方だから、他の人は知らなくても当然。でも、そんな事教えてあげない。私は、黙ってそっぽを向く。


「あ〜、何から話せば良いんだ!?」


 しおりは、とうとう頭を抱えて悩み出した。

 今って、そんなに大変な状況なのかしら。




「……説明の必要はない。異変はラヴィに伝わった」

 不意に声がして振り向くと、そこには背の高い男の子と小さな女の子がいた。スギと同じで、どこから出て来たのか全然わからない。


 女の子は、ニコニコ微笑んでスギの傍に寄り添う。心なしか、彼の表情も和らいだみたいだった。


 何なの、この子達?



「何かいっぱい来た!! 何!?」


 訳の分からない情況で、自分だけ弾かれている気がした。私だけ、一人……。



「金糸雀、落ち着いて? 大丈夫、皆いい人達だよ」

 苛立つ私をなだめる様に、しおりは優しく言う。

 良い人だったら、いきなり手を掴んだりしないと思うんだけど。しかも結構な力で。私からしたら、全然良い人じゃない。


 疑りの眼差しで、三人の目をじっと見る。

 他の二人はしっかりと見返してくれたけど、スギだけは目が合った瞬間にわざとらしく逸らした。

 やっぱり感じ悪い。



 しおりは、少し困ったように笑った。


「金糸雀……可愛いんだから、そんな顔しないで……」

「失礼ね、私はどんな顔してたって美しいんだから」


 ……私がそう言うと、その場に何とも言えない微妙な空気が流れた。どうせ「自分で言うか!?」とか心の中で思ってるんでしょ。



 仕方ないじゃない。そうやって思ってないと、「花売り」の世界じゃ生きていけなかったんだもの。


 ……もう花売りじゃないけど……。



 しおりが変なこというから、胸がもやもやする。余計なことして、もう!


 キッと睨むと、しおりは咳を一つして真面目な顔を作った。スギと、背の高いのを指す。



「え〜……っと、この人達は『時間屋』さんって言って、この世界を見回ったり番人をしてるんだよ。敵じゃないし、彼らが居てくれるなら心強い……かな」


言いながらチラッと二人を見て、曖昧に笑ってみせた。


「ふぅん、警備部ってこと?」


 私が聞くと、しおりはきょとんとして首を傾げる。違ったのかな? まぁ良いや。



 女の子と背の高い男の子を伺う。うん……多分、大丈夫。


「この子と、その人は良いけど」


 視線を移してスギを見ると、あからさまに嫌そうな顔をしてくる。


「アレは嫌」


 ぷいっと外方を向くと、視界の端っこに眉を引き攣らせたスギが映る。


「俺だって嫌だね!」



ムキになっちゃって、子供みたい。実際、年下みたいだし。男の子と関わることなんてほとんどなかったからわからないけど、皆こういう感じなのかしら。




 無言で火花を散らし合う私達をよそに、背の高い方はしおりと話していた。こっちの子は落ち着いてて、大人びてる。


「『中央』に行くなら急いだ方が良い。時空が歪んだことで世界がざわついてる」

「それってどういう事ですか!?」


 しおりは……スギとは違った意味で落ち着きがない感じ。


 そんなことを考えていたら、スギがいきなり私を指差してきた。



「こんなのが入ってきたから、折角落ち着きつつあった負の念が暴れだしそうな

んだよ!」


 刺々しい言い方。喉元を締められたように苦しくなる。

 お前なんかいなければってこと……?



「あなたに『こんなの』なんて言われる筋合いないわよ。しおり、早く中央に行

こう?」


 強がって言った言葉は、少しだけ震えてた。かっこ悪いな、私。


「……この(あま)



「すみませんっ! とにかく俺達行きますね」


 眉を引きつらせて吐き出すスギと、無表情なままのもう一人にしおりは会釈した。


「何かあれば駆け付ける。前だけを見て進め」

「けっ、誰が行くか」

「……行け」

「……はい!」



 何だかお取り込み中な男性陣は無視して、女の子の前にしゃがんで目線を合わせた。

 栗色の髪は、風を含んでふわふわと揺れる。大きな目が、じっと私を映していた。そっと髪に触れると、滑らかに指を滑っていく。


「可愛い、髪ふわふわね。お名前は?」


 女の子は答える代わりにニコニコ笑って、静かに私の額に触れた。



 ――ラヴィ……――



 不思議な感じ……頭の中にすっと文字が流れて来た。きっと、触れられた手から伝わってきたのだ。

 ええと、「かたかな」だったっけ? 少しあやはに教えてもらったことがある。何て読むんだったかしら?



「らびぃ?」


恐る恐る聞くと、女の子は笑ってうなずいてくれた。良かった、合ってたみたい。



「もしかして、らびぃも『神サマ』なの?」


 人の頭の中に文字を浮かべちゃうなんて、「人」にはできないよね。

 聞いてみたものの、らびぃは黙って微笑んだままだった。


「……」

「? 秘密なの?」


 首を傾げてまた聞いてみるけど、返ってくるのはまたまた笑顔だけ。



 私達のやり取りに気付いたしおりが、傍に寄ってきた。もう男同士の話は終わったようだ。



「金糸雀、ラヴィは話せないんだよ」


 何気ない風に話すしおりの言葉に、驚いてらびぃを見る。小さならびぃは、相変わらずニコニコ笑顔を崩さない。



 ……強いんだね、らびぃ。



 胸の奥がかすかに温かくなって来る。なのにちょっと悲しくて、ぎゅってなる。


 何でだろ?



「そっかぁ。私は、高い音が聞こえないんだ。らびぃも『欠けて』るんだね」


 寂しさ混じりの笑顔で言う。

 もしらびぃが喋れたとしても、私には聞こえない。そう考えると、これで良かったのかなって、少しだけ思う。ほんの、少しだけ。


「……」


 らびぃは、一瞬目を開いてから、また元のように微笑んだ。


 傍で私達を見守っていたしおりが、淋しそうに笑う。

 そんな顔、しないでよ。



「金糸雀、中央へ行こう!」

「うん! らびぃも一緒?」


 少し考えてから、しおりは「時間屋」の二人を振り返った。


「……えっと……」


 スギはつんとそっぽ向いたままだけど、背の高い方と目が合う。彼は軽くうなずいてみせた。


「ラヴィに任せる」


 しおりはらびぃに向き直り、じっと目を合わせる。


「……」



 その内、らびぃは微笑んでこくこくうなずいた。その仕草が、すごく可愛い。

 愛しくなって、手を取って笑いかけた。


「やった! 行こう、らびぃ。案内して?」



 にっこり笑って、小さな手が握り返してくる。

 良いなぁ、こういうの。



「すみません、じゃあ、またっ!」


 まだ二人に挨拶してるしおりを置いて、私達は歩き出した。


「しおりーっ、置いてくよー?」


 呼び掛けると、慌てた声が追いかけてくる。もう、落ち着きがないんだから。


「……ちょっ、金糸雀! 待ってって!」




 代わり映えのない森の中を、三人並んで歩く。誰かがいるってだけで、代わり映えのない景色も少し違って見えて楽しい。

 バタバタしてイライラしたけど、今のこの感じは好き。


「中央に行って、その後はどうするの?」

 隣りを歩くしおりに聞くと、真面目な顔して答えた。

「……分からない。でも前に進まなきゃ! ここにいても何も始まらないよ?」



 何それ、頼りない……と思いつつも口には出さずにおいた。


 私の本心がわかったのか、らびぃがクスクス笑う。バレちゃうじゃない、らびぃってば。



「そうね。早くあやはに会いたいし、何だか大変みたいだし……急ぎましょ」


 取り繕うと、またらびぃはクスクス笑った。だめだってば、もう。




 小さなイタズラお姫様と、頼りない騎士様、そして私。


 何だか奇妙な三人は、寄り添いながら森を進んで行った。


金糸雀×J編です!

こちらは登場人物が多くて良いですね(笑)


らびぃを加えた三人の行く先に待ち受けるのは……?乞うご期待!!


書き終えて物凄く申し訳なく思ったこと。

……金糸雀の一人称でストーリーが進むせいで、凌くんの名前が出せないぃー!!(汗)

打ち合わせ段階では全く気付かなかったこの真実……orz


さくちゅうの「背の高い男の子」は凌くんのことです……。

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