01「プロローグ~side nostalgia」
空は快晴。雲ひとつない…とは、まさにこんな日の事をいうのだろう。
雪はお気に入りの屋上で寝転がっては、そんな空の青さを眺めていた。
「居た!…雪さん、またこんな処でさぼって」
急に空が見えなくなり、その視界に男の姿が陰になり現れる。Jだ。
「綾瀬さんが探してましたよ!?」
「どっち…」
矢継ぎ早に用件だけを済ませようとする彼を見上げ、雪は起きる事もなく会話を続ける。
「…っと、すずめさんです」
Jも、雪の言葉の意味にようやく気がついたのか慌てて付けくわえた。
そう、「綾瀬」は二人いる。
一人は雪と同じ「空間移動管理官」で女の狐。もう一人は「情報探索方管理官」で男の雀である。彼らはここでは珍しい双子の管理官になる。
「何だよ…人が良い気持ちで昼寝してたってのに…」
「そんなこと言わないで下さいよ」
ぶつくさと小言を漏らす雪を横目に、Jは雀の元へと案内した。
「おぅ!来たか」
「来たかじゃねーよ!」
管理局内に戻ると、雀は自席で軽く手を上げる。挨拶のつもりらしい。
思いっきり不機嫌な雪を目の前にしても、彼は怯むことなく会話を続ける。旧知の仲とはなんと羨ましい…とJは思いながらも、二人の会話に耳を傾けた。
「ちょっと、『記憶の海』まで飛んで欲しいんだ」
「はぁ?…なんで、また…」
あっけらかんと言う雀に、雪は半ば呆れた表情で言葉を返す。
『記憶の海』とは、全人類だけではなく物や植物など…全ての記憶を持ち合わせている不思議な空間の事だ。そんなに簡単に行き来が出来るような場所では無いはずなのだが…。
「な~にしたんだよ」
何か思い当ることでもあったのだろうか、雪は急に意地悪い表情を浮かべると雀の肩に腕を乗せ耳元で囁く。一方の雀は目をあらぬ方向へと泳がせて「ははは…」と乾いた笑いを浮かべていた。
「はぁー!?…お前それッん」
「馬鹿!声デケェよ!」
勢いよく口を塞がれ雪は「んぅ」と不満の声を漏らすが、すぐに口を閉じる。それを見て雀も手をそっと放した。
「仕方ね~な、ったくよ」
「わりぃ、恩にきる!」
拝むように手を合わせた雀に、雪は息を吐くと「気にすんな」と彼の肩をポンッと軽く叩いてやった。そして、何故だか振り向きJの方を見てにっこりと笑う。
「お前も来んだろ♪」
暗黙の了解と言う名の「圧力」…そこに拒否権は存在しなかった…。
(あ…悪魔だ)
「ちなみに、目標地点は中央より湖な」
「お~…了解」
着々と準備を進める二人に、Jも仕方なく(嫌々ながらも)準備をする。
雪は何やら「時計」をいじり、それを終えたのかガラス越しにパソコンの前に陣取る雀へとOKサインを出した。
「じゃあ、行くぞ~」
「いつでもどうぞ」
軽いやり取りの後、雪は中に入る。Jも遅れて奥に進むと、雀に「大丈夫です」とOKサインを出した。
「じゃあ、『記憶の海』へ行ってらっしゃ~い」
明るい声と共に、二人の身体は光に包まれると、辺りが霞んでいくのが見える。はぐれないようにと、Jは気づかれないように雪に手を伸ばす…。
「えっ?……雪さん!?」
互いの姿が完全に見えなくなる寸前、雪が驚愕の表情でこちらを見ていた。そして何かを呟く。
━まずい…時空が歪ん…で…━
そう聞こえた気がした。
そのまま完全に姿が見えなくなる。Jの意識もここで途絶えた……。
「雀!もしかして装置を使った!?」
二人の姿が見えなくなるとほぼ同時に、塁と一が飛び込んで来る。その表情には焦りが浮かんでいた。
「な…何??」
「装置は今、修理中だ」
動揺する雀に、一が端的に告げる。その眼はマジだった。
「嘘……あっちゃー…まぁ、何とかなるだろ」
そこには、心配そうな塁の顔と雀の苦笑いだけが残っていた……。
雀に頼まれた厄介事を片すべく、またまた記憶の海に飛ぶことになった雪とJ。
ところが、飛ぶ瞬間機械は誤作動を起こし……二人はどこに飛ばされたのか!?そして雀が頼んだ厄介事とは!?
次回、乞うご期待!