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サキュバスは狼男の夢を見ない  作者: 無沙


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冷凍作戦2

 2月13日零時きっかりに作戦行動は開始された。


 トンネル内の換気装置の作動を確認。

 液体窒素のボンベはフェロッソフの近くにやぐらを組んで並べられ、そこで耶麻人やまとを班長とする5名の窒素班が待機。

 フェロッソフ直下で防護服に身を固めている10名が第1班。さらに視認できる範囲を取り囲む第2班が10名。

 フェロッソフから少し離れた場所に防護壁で囲まれた避難所が置かれ、そこには予備の対フェロドゥワーム用装備、空気ボンベ、酸素ボンベが置かれていた。


 陽明町ようめいちょう神社下のコントロールルームが司令部となり、4人の狼男がカメラや計器のチェックを行い、責任者の優雨丞ゆうすけに伝えるようになっていた。

 このコントロールルームだけがトンネルから隔離された場所になっており、陽明町神社まで繋がる通路が脱出経路として確保されていた。


 残りの狼男はトンネル内2ヶ所に張られた気密性のテントに分かれ、いつでも動ける体制で待機した。


 志茂田しもだ隊長と網島あみじま隊長はそれぞれヨシダビルとヤマダビルで待機。緊急時の対応は当然だが、それより重要視されたのが今回の行動が本部に漏れた場合の対応だった。

 志茂田隊長も網島隊長も先頭で暴れたいタイプなので、その役割に憤慨して優雨丞と加藤木かとうぎに窘められたということは内緒である。





「作戦開始10分前だ、各部署準備はいいな」

 優雨丞がマイクで確認を取ると、それぞれの部署から準備完了の回答が返ってきた。


「時間です」

 計器を確認していた狼男の声を合図に優雨丞が作戦開始の命令を伝える。


「作戦開始だ。窒素班バルブ開け開始」

「窒素班了解、今からバルブを開ける」

 耶麻人の声がスピーカーを通して聞こえた。


 やぐらの上で耶麻人が目の前の銀色の隔壁を睨みながらバルブ開けの指示を出す。

 ボンベ担当の狼男がバルブをゆっくりと回し、もう1人の狼男がそれをサポートする。液体窒素のボンベは非常に重いので、狼男と言えども2人1組で作業を行うように取り決められていた。

 ボンベからは液体窒素が流れ出す音がかすかに聞こえ、圧力メーターの針が動き出した。


「既定の圧力まで圧力上昇を確認」

 ボンベを担当する狼男が報告すると、すかさず耶麻人がコントロールルームに状況を連絡する。


「一本目の圧力の規定値を確認した」

「コントロールルーム、映像確認した。そのまま窒素充填継続」


 コントロールルームのモニターには、フェロッソフの覆いの中に設置したカメラの映像が表示されており、覆いの下部に液体窒素が溜まっていく様子が映し出されていた。


「問題は液体窒素がフェロッソフ本体に触れた時にどういう反応をするかだ」

「そこでフェロドゥワームが出てくる可能性もあるんですよね」

「そうだな…。取り合えず1本目の様子を見てからだ」


 誰も無駄口をたたく者はいない。全員が作業の進行を緊張感をもって見守っていた。


「1本目のボンベ、間もなく空になります。未だフェロッソフの反応は有りません。隔壁外に液体窒素漏れ有りませんが、トンネル内の窒素濃度やや上昇しています」

 コントロールルームで計器を確認している狼男から報告があった。

 モニターでも液体窒素がフェロッソフの最下部に接触しようとしている様子が確認できる。


「2本目のバルブ開け開始」

「2本目のバルブ開け開始します」

 優雨丞の指示を耶麻人が復唱する。


「2本目のバルブ開け開始します」

 2本目を担当する狼男が復唱してバルブをゆっくりと開けた。


「1本目のボンベ空になったのでバルブ閉じます」

「バルブ閉鎖確認」


 今動いているのはフェロッソフ間近の窒素班だけだ。何か起こった場合に真っ先に影響をうけ、想定される被害も大きい場所だが作業自体は滞りなく進んでいる。



「間もなくフェロッソフ本体に液体窒素接触します」

 モニターを確認していた狼男が状況を報告する。


 その時トンネル内に警報が鳴り、液体窒素のボンベを設置したやぐらが大きく揺れた。

「バルブ閉じろ」

「バルブ閉じます」

 耶麻人の指示をボンベを操作する狼男が復唱し、大急ぎでバルブが閉じられる。

 トンネル内の床にも微かに揺れが伝わり、下で待機している狼男が身構えた。

 最悪フェロッソフの覆いが破壊されれば液体窒素が降り注ぐことになる。


 モニター内に映るフェロッソフは液体窒素を嫌がるかのように脈動し、色が変わる。液体窒素が触れた場所の光が無くなり黒く変色して行く。


「窒素班、ボンベに異常は無いか」

「少し揺れているが今のところ問題はない。先ほどバルブを閉じたところだ」

「解った、確認取れるまでそのまま待機」

 優雨丞は窒素班に確認を入れた後、他の部署に異常が無いかを確認。全部署の異常のないことを確認した。


「フェロッソフの状態を報告」

「隔壁内温度マイナス80度、隔壁外酸素濃度18パーセント、窒素の漏出確認できず。隔壁に異常は見られません」



 優雨丞はデータの内容から空気ボンベの着用が必要と判断、窒素班に継続の指示を出した。


「窒素班は空気ボンベ着用。フェロッソフ本体に反応が見られるので圧力半分で継続、3本目のボンベも準備」

「窒素班全員空気ボンベ着用、圧力半分で継続」


 耶麻人がボンベ担当に指示を告げ、再び窒素の充填が開始された。


 モニター内のフェロッソフは液体窒素が接触する面積が増えるにしたがって色を失っていく。時折嫌がるかのように痙攣するが、それ以上大きな反応は無いようだった。


「このままだと、大きな問題も無さそうですね」

「そう行けばいいがな」


 指令室に少し安堵感が流れた直後、緊張した声が発せられた。


「フェロドゥワーム確認」

 優雨丞がマイクに大声で怒鳴る。


「フェロドゥワーム確認、バルブ閉じて全員フェロドゥワーム対応!」


 トンネル内に警告音が反響し赤ランプが点滅している。窒素漏れが確認されたので空気ボンベ着用せよという合図である。


 フェロッソフを覆う隔壁の一部に亀裂が入り白い蒸気が噴き出した。


「第1班面体着装、隔壁塞げ! フェロドゥワームにも注意」


 実際の問題は隔壁ではない、その内側に張られているシートだ。それが破れれば大量の液体窒素が溢れ、場合によっては作戦自体が失敗となる。



 指令室内にも緊張が走った。

 フェロドゥワームは液体窒素から遠い、上部から吐き出されていた。しかし低温の影響だろうか、明らかに動きが鈍い。


 防護服に空気ボンベを背負った第一班の中の5名が蒸気が噴き出している隔壁に向かって足場を駆け上る。防護服に空気ボンベという重装備であるにもかかわらずその身のこなしは軽い。

 残りの5名も同じように防護服と空気ボンベを着用しているが、未だフェロドゥワームが視認できていないため、対フェロドゥワーム装備で真下で待機している。


「フェロドゥワームが隔壁外に出る可能性があるので第一班は現状位置で待機。指示を待て」

「1班了解、現状で待機する」


「トンネル内換気強化、フェロッソフ直下での風量最大」

 優雨丞はトンネル内の換気強化を指示、場合によっては撤退のタイミングを考えなければならない状態を意識した。



「別のフェロドゥワーム出現確認、隔壁外に出ました」

 再び指令室内に緊張した声が響いた。


 フェロッソフを覆っている隔壁パネルの1枚が音を解立てて外れて落下。それと共に真っ白な蒸気が噴き出し、そこから1体のフェロドゥワームが飛び出した。


「フェロドゥワーム囲め」

 地面をピチピチと跳ね回るフェロドゥワームを狼男が囲み、怒号が飛ぶ。

「フラッシュ3方向から。3、2、1発光」

 盾に仕込まれているフラッシュを発光させフェロドゥワームの動きを止め、すかさず高電圧を発する槍を突き出す。

 槍と言っても先端は尖っておらず、フェロドゥワームの皮膚を傷つけないようにしたものだ。突き刺してしまうとフェロドゥワームの強酸性の体液が噴き出してしまうのだ。


 しかし、勢い余った槍の一本が皮膚を貫通、体液が噴き出した。

「くそっ!」

 1人の狼男が毒づくがもろに体液を浴びた。しかし今回は防護服を着用していたため身体へのダメージは無い。


「急いで洗浄処理してこい!」

「すみません、すぐに戻ります」

 体液を浴びた狼男が避難所へ走り去ると、残った狼男はフェロドゥワームが動かなくなった事を確認。

 その後、足場を駆け上がって隔壁の修理の応援に向かった。


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