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サキュバスは狼男の夢を見ない  作者: 無沙


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それぞれの思惑

「これって、言わない方がいいのかもしれないんだけど…」

「そう思うなら言わなくていいんじゃないのか」

 言いよどむミチルの様子を見て優雨丞ゆうすけは事も無げに返す。


 今日は陽明町のフェロッソフ対策の打ち合わせと言う事で、ミチルの部屋に集まってもらっている。リビングのテーブルを囲んでいるのはミチルの他は優雨丞と志茂田隊長の3名だった。


「いいえ、ちゃんと説明しておかないと。それを聞いてから判断してもらわないといけないと思うから伝えておきます」

 ミチルは優雨丞の目を正面から見返した。


「ミチルさんがそう思うならそれでいいが…」


「実は既にこちら側の危機は回避されているので、陽明町のフェロッソフ放置しておいてもこっちの世界に影響は無いんです」


「こっちの世界? 国ではないのか?」

 志茂田しもだ隊長はミチルを見る目をすがめ、微妙な表情を作る。


「わたしも実際には理解できてないんですけど、多元宇宙論とかって知ってますか?」


 志茂田隊長は優雨丞の顔を見るが、優雨丞は肩をすくめるだけだ。

「何の話だ…」


「えーっとですね。この世界にはわたしたちの知っているこの世界以外に沢山の世界が同時に存在しているみたいな話なんですけど…。フェロちゃんによるとフェロちゃんはそういう世界に生きていて、複数の世界を同時に見ているという話なんです」


「…SF小説であるような話ですね」

 優雨丞が呟くようにボソッと言葉を吐いた。


「解らなくてもいいのでそういうものが有ると思ってください」

「解った、そういうことにしておこう…」


「それで、例の文明崩壊の話に戻るんですけど、フェロちゃんから吸い出すエネルギーってフェロちゃんが関わっている世界全体から吸い出されちゃうんだそうです。でもこの前フェロッソフが壊れたんでそれは回避できたんですけど、陽明町のフェロッソフって、別の世界のフェロちゃんに繋がっているんです」


「ほお」

 と曖昧にうなずく狼男が2名。


「だから陽明町のフェロッソフを放置しておいても、わたしたちの世界には関係が無いんです」


「なるほど…」

 全く分かっていないという表情の狼男が目の前に2人ほど居る。


「だからわたしが陽明町のフェロッソフ対策をしようとしているのは、ある意味わたしの我がままで…」

 どう説得すれば狼男の協力が得られるのだろう? ミチルは自分の言葉が判らなくなって、それと気が付かず身体に力を入れて身を乗り出していた。


 ふと志茂田隊長がミチルの言葉を遮るように右の掌を上げた。

たちばなさん、話はそこまででいい。まあ理屈はともかく、早い話がエネルギー省がどこかに迷惑をかけているって事でいいんだよな。つまり橘さんは自分の利益のために他所の環境破壊をしようとしている馬鹿を懲らしめたいので協力して欲しいと!」


「ま、まあそんな感じですけど…」


「そいつぁー面白い話じゃないか、俺たちも一本乗らせてもらうぜ」


 志茂田隊長は満面の笑顔で親指を立てた。

 うーん、解ってはいたけどやっぱり志茂田隊長ってこういう人だったんだ。ミチルは身体に力が入っていたことに気が付くと、その力を抜いた。





「それで、陽明町のフェロッソフを地下から冷やせば何とかなるというのか?」

「…という話なんですけど、そんなこと出来るんでしょうか」

 狼男からの協力の約束は取り付けたので、次は具体的な方法の相談だ。


「どのくらい冷やせばいいんだ?」

「冷えていれば冷えているほうがいいそうです。最低でも冷凍庫位は冷やしたいって話でした」


「そうなると、液体窒素ですかね」

「そうだな、それが一番早いだろう」

 優雨丞の提案に志茂田隊長も頷いた。


 「液体窒素ですか?」

 ミチルは液体窒素で花を凍らすという実験をどこかで見たことを思い出すが、技術的な知識は持っていない。


「うむ、ちょっと扱いが難しいが、あれならマイナス200度近くまで下がる」

「すごいんですね、それって簡単に手に入るんですか?」

「手に入れる事自体は問題ない。問題はフェロッソフだな。相手が大きすぎるので実際中心部の温度がどこまで下がるかだ。しかも奴は天井に張り付いているからな、なかなか難しいぞ」

 優雨丞が少し考え込む様子を見せてから、顔を上げた。

「そうですね。それだととフェロッソフを覆うようカバーを作らないといけないですね」


「解ったさっさと手配をして始めよう、どうだ1週間でなんとかなるか」

「なんとかしますよ」

 優雨丞もニヤリと得意そうな笑顔を見せた。







 陽明町の変電所事故も公には収束したと言われ、派遣されていた自衛軍の中隊は既に撤退していた。そして今は陽明203小隊と命名された部隊が単独で対応に当たっている。

 小隊は変電所を取り囲むフェンス内にプレハブの簡易設備を設営。そこで寝泊まりをして24時間体制でフェロッソフの監視をしている。


 フェロッソフの方はステンレス製の防護パネルで2重に囲まれ、外部から完全に隔離された格好になっている。内部にはカメラと各種センサーが設置され、そしてその中に作られた通路を2人の自衛軍兵士が常時巡回をするようになっていた。


「定時報告、物体203号AB共に変化は有りません」

吉本よしもと3曹、報告ご苦労」

 岡田おかだ准尉は後ろで敬礼をする吉本3曹を振り返った。

 ここで自衛軍が203号と呼んでいるのはフェロッソフの事だが、その後ろにAとBが付けられているのは、陽明町のフェロッソフが2つに分かれてしまっていたためである。もともとフェロッソフが送電塔の上にまで伸びていたのだが、塔が倒れた際に変電所の敷地外に倒れこみ、そこから動かすことが出来たなかったのだ。そのため変電所の施設内に在った本体の他に敷地外に小型のフェロッソフが存在することになり、2ヶ所別々に監視しなければならなくなっていたのだ。


「とりあえず、そこに座れ。吉本3曹は今回の任務をどう捉えている」

「どうというのは、どういう事でありましょうか?」


 岡田准将は吉本3曹が座るのを確認もせず目の前のモニターに目を向けた。モニターの中ではフェロッソフが怪しい光を放っている。


「これだ、この物体203号だよ。お前たちはこれを何だと思っている」

「自分には判断が出来ませんが、質問に答えろと言うのであれば単なる危険な異物と考えています」


「ふんっ。異物か、確かに異物だな。その異物を確保するために一個中隊が派遣されて20名以上の被害を被ったわけだ。そして今はこうしてただ監視をしている。任務としては納得しているが、割り切れんものだ」


「察し致します」

「皆の様子はどうだ…、正直な意見を聞きたい」


「そうですね、戸惑ってはいます。先が見えていない不安はありますから」

「そうだな、今は落ち着いているが、確かに先が見えない。お前たちにもはっきりした情報を伝えられないジレンマがある。まあ休める時はしっかり休んでおけ。すまんな、俺の方も愚痴を言わんと我慢が出来ん。こうして正体の判らんものと対峙しているとさすがに感覚がマヒしてくる」


「そうですね、今のように常時待機時間って言うのには慣れていないんで不安になります」


「うむ、そうだ、熊野くまの2曹を見かけたらこっちに顔を出すように言ってくれ」

「呼び出しでありますか」

「いや、そこまでではない。見かけたらで十分だ」

「了解しました」

 吉本3曹は敬礼をすると部屋を後にした。


「准尉、愚痴なら私に言ってくれてもいいんですよ」

 岡田准尉はモニターの前で計器の確認をしている椚木くぬぎ2曹にちらりと目を向ける。椚木2曹は陽明203小隊に所属する2名の女性隊員の内の1人である。


「お前にか…、お前では愚痴の相手にゃならんよ」

「あら、失礼ですね。私は准尉の片腕として十分役に立っているつもりなんですが」

 居住まいを崩して自分を見る椚木2曹に岡田准尉はため息をつく。


「なら聞くが、椚木2曹は今の状況をどう分析している?」

「無茶な質問をしてきますね。分析など出来る筈が無いじゃないですか。情報が足りなすぎなんですから。今はまだ分析などせずに冷静に情報収集を行うべき段階です」


「ほらみろ、そうやってお前は正論を返してくるじゃないか。そういう奴に愚痴を言っても気持ちが軽くははならんのだよ」

「そういうモノなんですかねぇ」

「そういうものだ」


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