対策
ミチルから問い合わせをするまでも無く、第三興商の中田部長からメールが来ていた。
内容的には『FLFプロジェクトの実施に当たる制御プログラムの仕様の確認』と言うものだった。
どういうことなのだろう、中止どころか予定の変更などの記述が一切無い。
第三興商は陽明町の事故とFLFプロジェクトの関連性を理解していないのだろうか。それはおかしい、少なくとも中田部長はFLFプロジェクトの根幹を成す設備が陽明町の変電所に置かれていることを明言していた。
ミチルは返信に陽明町の事故を心配しているかのような文面を作成。既に作成しておいたプログラムの仕様書を添付してメールを送信した。
まあ、これでミチルが仕事を継続しているようには見えるだろう。後は中田部長がどう反応するかだ。
午後になると中田部長からの返信が届いていた。
それによると変電所の事故はFLFプロジェクトに影響が無いので心配不要となっていた。
>どういう事なんだろう? 変電所の事故がFLFプロジェクトに影響しない筈は無いと思うんだけど。
>>そうだね、ちょっと確認してみよう。
そう言ったフェロちゃんは直ぐに結果を報告してきた。
>>確かにプロジェクトを修正するという書面はどこにも上がっていないね。それどころかどう維持するかという計画だけが動いているようだよ。
早い話が今出ている自衛軍はフェロッソフを排除しようとしているんじゃなくて、維持するために動いているんだ。
あっちのインターフェースはまだ生きていて動いているしね。
ミチルはフェロちゃんの報告に頭が真っ白になった。
簡単な話がミチルは確認もせずに、自衛軍がフェロッソフを排除しようとしていると思い込んでしまっていたという事だ。これは不味い!
>それって、振出しに戻ったって言う事よね?
>>いやそんなことは無いよ、こっちの世界の危機は回避できているし、今はボクも自由に動くことができるんだから。
だからこれは別の問題が起こったと考えるべきだよ。
このままFLFプロジェクトが動いても、こっちの世界には影響がないよね。それどころかエネルギー問題が解決するのでエネルギー省は万々歳だ。けれどアイちゃんの世界に影響が出ちゃう。
おそらくこれは以前心配していた文明崩壊がアイちゃんの世界に起こることになるよ。
でも今度はボクが動けるし、アイちゃんと意思の疎通が出来るようになっている。これは以前の問題とは全く違って、いいスタートが切れていると思うんだよね。
確かにそうだ、右も左も解らない状態ではないのだから、以前とは全く違うと考えた方がいい。
ミチルは気を取り直そうと、両の頬をパチンと叩いた。
>ありがとう、そう言ってもらえると励みになるわ。それじゃ今の状況をもう一度整理してみるわね。
・エネルギー省はフェロッソフ維持のために自衛軍に協力を求めている
・陽明町のフェロッソフは設備に被害が出たがFLF用のインターフェースは生きている
・フェロッソフを固定するエネルギーはアイちゃんの世界から供給されていて、現状は妨害する方法が無い
・第三興商はFLFプロジェクトを続行中
・アイちゃんはフェロッソフの認識が出来ず手を出す方法は無い
・フェロちゃんの方のフェロッソフは解決済み
まあ、こんなところなのだろうか。
「ミチルったら根詰めすぎなんじゃないの。少しは休まないとだめよ」
紅音が暖かいココアをミチルに差し出した。
「ありがとう。落ち着くわ」
ミチルはカップを両手で包み込むように持つと、一口ココアを啜った。
「夕飯はもうすぐだから待っててね」
「まったく何やってるのよ、クマ出来てるじゃない」
向かいに座るアナもココアを貰って寛いでいる。今日は久々に自分の仕事の打合せでハナハナを訪れているとのことだ。
「フェロッソフって終わったんじゃなかったの?」
「それがそうでもなかったのよ。陽明町の事故のこと知ってるでしょ」
「あっちも処理終わったから大丈夫って発表あったじゃない。あっちのフェロッソフも終わったんじゃないの?」
「表向きはね。でも本当は向こうは生きてるの。表に影響が出ないように囲い込んでで見えないようにしてあるだけなのよ」
アナが顔をしかめる。
「フェロちゃんとフェロッソフは切れたからこっちはいいんだけど、何か知らないけどあっちは独立して動くようになっちゃったのよ。だから第三興商の仕事も継続だって言うし、どっちにしても何か手を打って止めなくちゃいけないのよ」
「それでそんなに疲れた顔しているわけなのね」
「…そういうこと」
なんだろう、ハナハナで話をするとホッとする。
「何か手伝えることがあったら言ってね、出来る範囲で手伝うから」
「ありがとう。その時にはまた相談するわ…」
「ミチルは休んでていいからアナは盛り付け手伝ってくれる」
「はいはい、相変わらず人使い荒いわね」
紅音の声に、アナはココアのカップを置いて立ちあがった。
夕飯を摂った後、仕事部屋に戻るとミチルはパソコンの電源を入れ、アインソフのソフトを起動する。
「あれから何か解ったことはある?」
「そっちに繋がっている穴を12個見付けたよ。小さな穴なんだけど、確かにそこから力が吸い出されているね。塞ごうとしてもどういうわけかそこに近付けなくなっているんだよね。きっとそっちの世界で何かしてるんじゃないのかな」
ミチルが話しかけると即座にアインソフは応えてくる。しゃべり方はフェロちゃんと一緒で、幼い女の子の声というのが何とも言えない…。
「その穴を塞げばこっちの世界との接続が切れるの?」
「おそらくはね、穴の向こうにフェロッソフらしいものが見えるから間違いないと思うよ」
「ちょっとこっちのフェロちゃんと共有してみるね」
「うん、お願い」
ミチルはキーボードに向かった。
>と言う事なんだけど、穴って何だと思う?
>>ポートの事かな? そこはアイちゃんのイメージだからあんまり意味は無いと思うよ。それよりも近付けないって言っていたことの方が気になるね。たぶんファイヤーウォールみたいなものが作られているんじゃないかな。そうなるとこっちにあるインターフェースが問題になるね。ということは陽明町にもぐりこんで壊しちゃえばいんじゃないかな。
はぁ~、とミチルはため息をついた。簡単に言ってくれるよ。陽明町のフェロッソフは自衛軍管理下にあって、インターフェースの場所も判らないというのに。
>フェロちゃんの方でそのインターフェースの場所は見付けられないの?
>>残念だけど、どこにも場所に関する記述が無いんだ。第三興商に聞いてみればいいんじゃないのかな。
先日の中田部長のメールの内容から察するに、第三興商の範囲外になっているような気がする。まあ、ダメもとでやってみるしかないか…。
>解ったわ、聞くだけ聞いてみるわよ。
フェロちゃんはニッコリマークで対応してきた。このくそAIが!
ミチルはフェロちゃんとの相談結果を一言でアイちゃんに伝えた。
「フェロちゃんと相談して、こっちにあるインターフェースを探して対応できるか確認してみることにしたから。もう少し待っていて」
「解った、よろしく頼むよ」
アイちゃんの声は元気だ。
翌日になって、第三興商の中田部長に確認すると、やはりインターフェースの場所は解らないとのことだった。確認のために現物を見たいと言っておいたが、おそらく待つだけ無駄だろう。管理者が特定できればサキュバスの力で入り込むという手もあるが、それも判らないでは対応のしようも無かった。
>と言う事なんだけど。他に手はある?
ミチルはあまり期待もせず、フェロちゃんに第三興商からの結果を報告をした。
>>可能性が1つ見つかったよ。フェロッソフが眠っちゃえばアインソフから対応が出来るんじゃないかな。フェロッソフって実は低温に置かれると活動が鈍っちゃうんだよ。地上部分には自衛軍が居て手は出せないだろうけど、地下は狼男しか知らない筈だから下から冷やせばいいと思うんだ。
活動が低下すればアインソフが介入して切断までいける思うよ。
あっちの世界から切り離してエネルギーの供給が止まれば、ボクのフェロッソフと同じで勝手に崩壊するはずだよ。
下から冷やすってことは狼男に頼まないといけないってことになるんだろう。しかし陽明町のフェロッソフがこっちの世界にはもう影響が無いと言っったら、狼男って動いてくれるのだろうか…。
でも他に方法が無いなら頼むしかないのだろう。
>それって確実なの?
>>理論上は大丈夫だよ。ただアインソフがどう動くのかボクには解らないから、例によって彼次第ってことになるけどね。




