新しいインターフェース
>サキュバスも狼男も動けないって。解ってはいたけど残念だわ。
ミチルがフェロちゃんに報告をする。
>>そんな事だろうと思っていたから、ボクの方から別の案を用意しておいたよ。
彼の足跡があったからね。彼に繋がる方法を見つけたんだ。ボク専用のインターフェースと同様のものを作れば彼と話が出来るかもしれないんだ。
それでその回路図をパソコンのデスクトップに置いたから、どこかで作ってもらって。
2つ送ってあるけど、1つはボク用のものだよ。前にミッちゃんが小さいのが欲しいって言っていたから、一緒に作ってもらえば持ち運びやすくなるよね。
>なるほど。小型化は嬉しいけど、でもそれならフェロちゃん同士で会話した方が早いんじゃないの?
>>それが出来るならもうやっているよ。出来ないからミッちゃんに頼むんだよ。
ミチルがデスクトップに目をやると、確かにフェロちゃんのフォルダが出来ていた。フェロちゃんは自分の名前の由来になったゲームの悪役キャラが気に入っているらしく、最近はそのキャラクターのアイコンを使うようになっていた。
>>そのインターフェースで彼に繋がるのは間違いないんだけど、会話に乗ってくれるかどうかは彼次第だからね。
>ありがとう。急いで確認してみるわ。
ミチルがフォルダを開くと、回路図と共にROMに入れるプログラムも一緒に入っていた。フェロちゃん用ともう一人のフェロちゃん用の回路図は若干異なっているように見える。
とりあえずは、FLFインターフェースの修正回路を頼んだこともあるし…。狼男側で製作が可能か聞いててみよう。
狼男の窓口になっている優雨丞に電話でインターフェースのをしたところ、岩田エレクトロニクスと言う会社の連絡先を教えてもらった。
ミチルは先に優雨丞から電話を入れて貰い、確認を取ってから電話を入れた。電話に出たのは半田さんという方で、以前注文した回路も担当してくれた人らしい。
狼男からの紹介と言う事もあるのだろう、用途などを詮索されることも無く、サーバ経由で送った回路図とROM用プログラムを確認してくれた。
専用に回路を起こすので、スマホサイズでUSBから電源を取れるようになるという事だ。それだとかなり使い勝手が良くなりそうで嬉しい。
急いでいるという話をすると、会社まで取りに来るなら明日の昼までに用意できるとまで言ってくれた。
次の日、岩田エレクトロニクスに向かう車の運転手は妖子さんだった。
「すみません、忙しいのに」
ミチルが恐縮する。
「仕方ないだろう、紅音には別の仕事頼んじまったんだから。ちょうど手が空いたとこだったから、たまには息抜きになるってもんだよ」
今日の妖子さんは編み込みのセーターに紺色のゆったりしたパンツ姿、どこにでもいそうなおばさんっぽい。妖子さんに言わせれば『運転手が目立っててもしょうがない』なのだが、ミチルにしてみれはすごい違和感だった。
「…わたしも早く車の免許取っておいた方がいいんですかねぇ」
「まあ、これから何をするにしても、持っていて損は無いだろうよ」
妖子さんは運転をしながらチラリとミチルに目をやった。
「ただ、あんたは『橘ミチル』の方で免許を取らなきゃいけないんだから、そっちが先になるよ」
「あ、その件は大丈夫です。もう『橘ミチル』の戸籍は出来てますから。住民票もハナハナで取れます」
「本当にあんたには毎回驚かされるよ」
妖子さんはため息をついた。
「ほら、着いたよ。それじゃあたしはここで待ってるから、さっさと行ってきな」
小さな町工場と言った雰囲気を漂わせた3階建てのビルに、「岩田エレクトロニクス」の看板は上がっていた。
入り口のドアを開け、中に入るとカウンターのすぐ先は事務所になっている。
「すみません、ヨシダ工務店の件で半田さんは…」
事務所では5,6人の人が仕事をしていたが、奥の方にいた小柄の男性が顔を上げた。
「ああ、西糖さんですね」
その男性は右側の壁のラックから黄色いプラスチックのコンテナを取りだした。
カウンターに置かれた黄色いコンテナの中には灰色の小さな箱が2つ入っていた。
「動作確認はここでしますか? ハード的には問題ないと思うんですが、用途が不明なので、うちではそこまでしか確認できていないですから」
白髪交じりの髪を短く刈り上げた男性は。胸に『半田』の名札を付けた灰色の作業着を身に着けていた。
「いえ、ここでは確認できないので持ち帰って確認します」
「それでは簡単に説明しますが、ここに電源スイッチと通電ランプがあります。電源はUSBから直接供給できるようにしておきましたから。ただしランプが点滅している場合には電力不足なので、直接パソコンに繋げるか別に電源を用意してください」
「ああ、別の電源要らないんでしたよね、それは助かります」
ミチルはその小さなプラスチックの箱を手に取った。USBのコネクタ、電源スイッチ、LED、それ以外何も無い小さな箱だった。
「可愛くないな」という言葉がミチルの頭に浮かんだ。
「それではこちらが納品書です。請求書はヨシダ工務店に送っておきますので。では何か問題が有ったら連絡してください」
半田さんは2台のインターフェースを手提げの付いた紙袋に入れると、請求書と自分の名刺をミチルに差し出した。
普通であれば自分からも名刺を出すところだが、これは表向きは狼男の仕事になっているのでミチルから名刺を出す必要は無い。
「ありがとうございます」
紙袋に請求書と名刺を入れると、ミチルは頭を下げて岩田エレクトロニクスの外に出た。
ここまでは思った以上に順調に進んでいる、後は戻って動作確認をしてからだ。
それにしてもこのインターフェースで、本当にもう一人のフェロちゃんと言う存在と話が出来るのだろうか?
ミチルは紙袋を手に、妖子さんが待っている車に向かった。
ミチルはハナハナの作業場で新しいフェロちゃんインターフェースを試すことにした。新しいインターフェースは体積重量共に10分の1程度、電源も必要ない。あとはここでフェロちゃんと会話が出来れば問題ないことになる。
パソコンを立ち上げてインターフェースを接続、フェロちゃんウィンドウを起動する。
>>やあ、新しいインターフェースが出来たみたいだね。
>あたりまえだけど、この画面は変わらないのね。
>>それはそうだよ、つなぎ方が変わっただけだからね。
>それでも小さく軽くなったのはありがたいわ。電源もいらなくなったし。
>>へえ、電源必要なくなったのかい?
>作ってくれたところが気を利かせて、USBから直接取れるようにしてくれたのよ。
>>なるほど、それはミッちゃんには嬉しいことなんだね。
>それはそうよ。電源が無いところで使えるのはかなり利便性が高くなるもの。
そうは言ったが、物を持ち運ぶという概念をフェロちゃんが理解しているのかは怪しいところだ。実際に持って歩くと邪魔とかいう経験は無いのだから。
>それでこの新しい方はどうやって使ったらいいの? 今使っているフェロちゃんのと、一緒に繋いじゃっていいわけ。
>>それで構わないよ、ただしソフトウェアは別だから。デスクトップにアインソフのアイコンがあるでしょ。
アインソフ?
ミチルは既にデスクトップに別のアイコンが有ることには気が付いていたので、それだろうと察してはいたのだが、まだアイコンのデザインまで確認していなっかった。
アインソフは、ゲーム上でフェロッソフに最初に倒されるキャラの名前だ。きっと自分より下に見たいのだろう。ちょっと子供っぽい発想だが、何か微笑ましい気持ちにはなる。
ミチルは新しいインターフェースをUSBに刺して電源ランプを確認した。アインソフのアイコンをダブルクリックするとフェロちゃんのウィンドウと同じようなウィンドウが開いた。フェロちゃんのウィンドウの背景は黒だったのだが、こちらはピンク色。
なぜピンク?




