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4.始まり始まり……ですわ。

 エリアリス嬢、三度目の婚約破棄はさらに1年後、彼女が14歳の頃……お相手は五つ上の侯爵家次男だった。

爵位、能力、外見、年齢、派閥……その他諸々を総合的に見て、グレッグス公爵令嬢に最も相応しいのでは……と提案された縁談だ。


 だが、見た目や物腰の柔らかさとは異なり、内面はなかなかに野心家な男。

当然だ……エリアリス嬢と結婚し公爵位を賜れば、自動的に王族を除いた貴族のトップに立てるのだから……。


 しかし、グレッグス公爵家にとってそんな魂胆(こんたん)は最初から分かりきったことである。

この男との政略結婚において、公爵家側にメリットは何一つ存在しない。

エリアリス嬢が幸せかどうか……ただそれだけが公爵夫妻の考える理想の婚姻相手の条件。

絶対的な地位を持つ貴族であるからこその、この余裕。


 自分の立ち位置をしっかりと理解しているエリアリス嬢自身もまた、あえて婚約者を適度に泳がせた。

見目麗しい未来の公爵様となれば、横取りしようと考える下衆な令嬢が彼にまとわりつくのは容易に想像できたからだ。

そして……彼はその誘惑に負け、あっさりと他の令嬢にうつつを抜かしたのだった。





 三年前ーー


 公爵家主宰の夜会で、エリアリス嬢は婚約破棄を披露した。

いや、破棄などという言い方では生温(なまぬる)い……これは『断罪』だ。


「エリー……公爵家という肩書きに釣られた魚を随分と自由に泳がせていたようだが、(エサ)を与えなかったお前もよくなかったな。腹を空かし、飢えて、自らを腐らせていったのだろう……憐れな男だ」

「腐った魚のような男なんて意地汚い泥棒猫にくれておやりなさい。そして、それを喰らって……お腹を壊して苦しめばいいの」

「お父様、お母様……元々、彼に対しての愛情などこの世のどこにも存在しませんでしたから……私、釣られるようなお魚にはこれっぽっちも興味ありませんの」

「……」


 公爵家よりも爵位が下である侯爵家の彼に、発言の許可は与えられなかったが、その情けない顔には『さ、魚? え、私のこと?』とはっきりと書いてあった。

浮気相手の男爵令嬢もまた、同様に青ざめた顔でフロアに立ちつくしていた。


 グレッグス公爵家の怒りを買った侯爵家と男爵家からは貴族達、皆そろって手を引くだろう。

そう、これはある種の見せしめ……『公開処刑』だ。

この恐ろしい公爵家を敵に回そうなどと考える愚かな貴族はこの王国内にいない……いたら、真の愚者だ。


 そして婚約破棄された、この家督を継げない次男は、借金まみれな貧乏男爵家の主人になるより他の道は残されていない。


 公爵令嬢エリアリスは、お揃いで顔面蒼白な二人に、にっこりと笑顔で言葉を掛けた。


「お二人共、とてもよくお似合いですわよ! どうぞ末永くお幸せに、真実の愛を貫いて下さいませ。愛があれば、多少の困難も笑顔で乗り越えられますわよね? エリアリス・グレッグスは両者の婚約を心より祝福致しますわ!」


 パチパチパチパチパチッ……


 会場中に割れんばかりの拍手が響き渡った。



 エリアリス嬢は、公爵令嬢の名の下に彼等に対し、逃れることの出来ない婚姻関係をここに宣言したのだった。


 これが『破談令嬢』、始まりの縁結びだ。

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