表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
破談令嬢の貴族名鑑(ブラックリスト)〜社交界を暗躍するのは令嬢の嗜みですわ〜  作者: 枝久


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/25

17.訪問者がアレに似てますわ。

 執事が先頭に立ち、ロアール卿とリリス嬢がその後に続いて廊下を進む。


 招かれざる客人、伯爵家ジュド卿の方が爵位の序列としては上……約束無しといえど無碍(むげ)にすることは出来ない。

リリス嬢が報告書を読み終えてから、足早に応接室へと向かった。


 コンコンッ!


「失礼致します、ジュド卿。子爵様をお連れ致しました」

「はい」


 扉の外から執事が声を掛けると、物静かな声音が部屋の中から返ってきた。


 ガチャ!


 室内に入り、ソファに腰掛ける青年の姿を認め、リリス嬢はロアール卿の後ろから不躾(ぶしつけ)な視線でジロジロと彼を見回す。

サラサラな髪に痩せ型の体躯、立ち上がったらなかなか背の高そうな男性だ。

几帳面な性格なのか、シャツのボタンを上までしっかりと止めている。


 執事ブルブックに指示し、先に応接室へ案内しておいてもらった訪問者、ジュド・フロッシュ卿……伯爵家次男。

今、客室で眠り続けているリュセ殿の兄君である。


「突然の訪問、失礼致します。ジュド・フロッシュと申します」


 青年はソファから立ち上がり、深々と一礼をした。

礼を終え顔を上げると、けして背が低くないロアール卿よりも頭半分ほど彼の方が上背がある。


「お待たせしてしまい申し訳ありません。お初にお目にかかります、ロアール・ステンドです」


 ついエリアリス嬢と行動を共にするとペースを狂わされてしまいがちだが、彼は本来気品溢れる男。

ジュド卿へ優雅に挨拶を返す。


「あの……そちらは……」

「ご機嫌よう。私、ヴェグダ子爵家の娘、リリスと申します」


 隣にいるマナー講師直伝の美しきカーテシーを披露し、リリス嬢は柔らかく微笑んだ……やれば出来る令嬢である。


「えぇ、ご機嫌よう……ヴェグダ子爵家? ……貴女も同席されるのか?」


 部外者が入ってくるとは予想外だったのだろう。

令嬢への挨拶もそこそこに、ジュド卿は素直な疑問を投げかける。


 すると、ロアール卿はリリス嬢の両肩をがしっと掴まえ、いつものお決まりな台詞(セリフ)を口にした。


「私、知らない殿方と二人きりでは……緊張してしまいますのぉ! ですから、この遠え……友人に、同席して欲しくって……よろしくって?」

「え……ゆ、友人……?」


 腰をしならせ、色気全開のロアール卿。

圧倒的なその美しさには、老若男女問わず黙らせる迫力がある。

時にはその一瞬で、相手を恋に落とすことも可能だ。


 ロアール卿は貴族特有な腹の探り合いを苦手とする。

自分を標的に訪れた相手なら尚のことだ。

一対一は極力避け、この令嬢の判断を仰ぐのが最良……そこで男性には先程の口上を、女性には『貴女の淑女たる素晴らしさをこの娘に見習わせたい!』と言えば……まぁ、大抵どうにかなるのだ。


 途中『遠縁』と言いかけて止めた。

ジュド卿は王国戸籍課に所属する男、調べて簡単に暴かれる嘘は己の首を絞める。

『友人』ならば、本人がそう思っている以上、責められる理由はない。


「しかし、ロアを尋ねてジュド卿の方から接触してくるなんて……私、あの方をどこかで見たことがあるような……」

既視感(デジャヴ)? それは私もよ。……城のどこかですれ違ったかしら?」


 ジュド卿と対面する側のソファにリリス嬢達は二人並んで座り、執事が淹れてくれたお茶を飲みながら、彼に聞こえない音量で会話を続ける。


「私、わかってしまったわ……あれは、食材のエノキール茸よ」

 

 ぶふーーつ!


 大真面目に語る令嬢の言葉を聞いた瞬間、麗しき子爵様が盛大にお茶を吹き出した。

そう、ジュド卿の髪型といい体型といい……白くてひょろっとしたあのキノコそっくりなのだ。


「お嬢、容姿で(おとし)めることは……」

「あら、エノキール茸は美味しいですわよ?」


『悪口ではないですけど、何か?』と言わんばかり、キョトンとした顔で答える。


「……」

「大丈夫ですか?」


 頭を抱えるロアール卿を見かねて、ジュド卿が気遣いの言葉を掛ける。


「年齢を重ねると、お茶でむせ込みやすくなるのでお気になさらないで下さいませ」

「……」


 自分のことを高齢者扱いする令嬢をジロリと睨んで、彼はようやく本題を切り出した。


「ごほんっ! 本日はどういったご用件で? 失礼ながら我等の間に面識はありません……よね?」


 間違っていたら失礼にあたるので、一応やんわりと確認を取る。


「えぇ、初対面です。今朝、我が家に知らせが届きまして……弟リュセ・フロッシュが亡くなった……と。貴方が侯爵邸での目撃者の一人とお聞きしましたので……その時の状況をお伺いしたいと思い、参りました」

「「⁉︎」」


 二人は顔を見合わせたい気持ちを抑えて、平静を装う。


「私も一部始終見ていたわけではありませんので……」


 言葉を濁すロアール卿を前に、ジュド卿は何やら鞄から荷物を取り出している。


 どさっ!


 テーブルの上に置かれたのは大きな麻袋だ。


「騎士団まで、リュセの遺品である衣類を取りに行ったのですが……おかしいのです。あいつがいつも身につけていたある物がそこには無かったので……」

「「⁉︎」」


 リリス嬢は彼の表情を見て、確信する。

彼は『リュセ殿が死んでいない』と、なぜか自信を持っているのだ。

そして、疑いの目をロアール卿に向けている。


「やはり……追加報告書通りのようですわね……」

「……お嬢?」


 あの晩の一通目の報告書から考えると……この現状は矛盾がある。

そこで追加資料を『影』に要求したのだ。


「ジュド・フロッシュ卿は何やらお調べの様ですわね、まるで警らを担う騎士団様のよう……」

「なにか、私に調べられては困ることでもあるのですか? ロアール卿」


 そう言って彼は長い足を組み直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ