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破談令嬢の貴族名鑑(ブラックリスト)〜社交界を暗躍するのは令嬢の嗜みですわ〜  作者: 枝久


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16/25

16.予想外の訪問者ですわ。

 翌日ーー


 午後のティータイム時間帯、ステンド子爵邸玄関前には、深々と頭を下げる執事と歓迎される令嬢の姿があった。


「ようこそお越し下さいました、エリ……リリス様」

「ご機嫌よう、ブルブック。ロアはいるわよね?」


 リリス子爵令嬢に扮したエリアリス嬢が彼に尋ねると同時に、背後の扉が開いた。

 

 ガチャ!


「あら、お嬢。思ったより早かったわね。学院からそのままヴェグダ邸に寄ってきたの?」

「えぇ、そうよ。イルが速攻でリリスに仕上げてくれたわ。どう? 素晴らしいでしょ?」


 令嬢が誇らしげに友人のことを自慢する。


「昨日あれだけドタバタして、夜も結構遅くなったのに、休まず学院へ行くなんて……そういうとこは本当に真面目で頑丈よねぇ〜〜」

「休む? 学院は生きた貴族情報の宝庫ですのよ? 一日たりとも無駄になんて致しませんわ、もったいない!」

「はいはい」

「それで……リュセ様は?」

「……」


 苦笑いしていたロアール卿が、リリス嬢の問い掛けで表情を険しくした。



 昨晩、意識を失ったままのリュセ殿は教会からそのまま、ここステンド子爵邸へと運び込まれた。

エリアリス嬢としては自分の管轄下であるヴェグダ子爵邸へ連れて行くつもりだったが、高位令嬢らしからぬ破廉恥(ハレンチ)行動で猛烈に不安を抱いたロアール卿。

令嬢の意見を完全無視して自分の屋敷へと連れ帰って来たのだった。


「私はお嬢に拾われた……恩義もある……だけど、メイゼン様からもティミラ様からもお嬢のことを任されているの! グレッグス公爵令嬢のスキャンダルは絶対阻止しないといけないのよぉっ!」


 公爵夫妻から絶大な信頼を寄せられているロアール卿。

公爵家から直々にエリアリス嬢のマナー講師に任命されている彼としては、その想いを裏切る訳にはいかない。


「お目付役の間違いではなくって? ……仕方ない。明日、また来るわ」


 そう言って、エリアリス嬢は拗ねる子供のように、ぷくりと頬を膨らませたのだった。



 長い廊下を進んだ先の客室、豪華なベッドの上には、昨日からずっと眠り続けているリュセ殿が横たわっていた。


「もう半日以上、目を覚ましていないことになるわね……」

「そう……」


 ベッド隣のイスに腰掛け、彼の寝顔をじーーっと眺めていたリリス嬢は、(おもむろ)に立ち上がると彼にゆっくりと手を伸ばした。


 クマの消えたその閉じた両瞼に指先でそっと触れ……次の瞬間、強引に彼の瞳をこじ開ける!

 

 ぐいぃぃーーーーん‼︎


 強制的に開眼させられたリュセ殿……だが、白眼を剥いているが反応はない。


「こら! お嬢、おやめ! 無理矢理起こそうとするんじゃないのぉぉっ‼︎」


 予想外の令嬢の行動に、慌ててロアール卿が制止する。

……公爵令嬢を羽交い締めにするマナー講師など世界中を探してもなかなかいないだろう。


「お嬢、不安なのは分かるけど……」

「……」


 (たしな)められた令嬢はむすっと下唇を突き出し、ぐいっと口角を下げた。

その顔はいつもの高位貴族令嬢の(つら)とは対極、ひどく幼い子供のようだった。



 暴れる気配が無いと判断すると、ロアール卿は腕の中から、するりと令嬢を解放した。


「そういえば、昨日言ってたじゃない? 気になることがあるって……」

「えぇ……なんでリュセ様は二つも呪いのアイテムを身につけていたのか……」


 そう言いながら、リリス嬢が眠る彼を振り返った。


「確かに……あの派手令嬢が両方を贈るとは考えにくい……腕輪を見てたから、あっちがあの令嬢から贈られた物と考えるのが普通かしら?」

「私もそう思うわ。……じゃあ首飾りはいつから身につけていたのかしら? その割には……リュセ様の身体はそれほど衰弱してないのよ」


 己の身体を撫でる様な仕草をするリリス嬢の言葉で、ロアール卿が昨夜のことを思い出す。


「あぁ……だからそれを確認する為に、服を捲り上げたのね……」

「えぇ……もしもリュセ様があの首飾りを生家で着けられたとしたら、誰が、いつ……だとしたら、やっぱりおかしいわね」

「え?」

「もう少し精度の高い報告書が欲しいわ」


 その一言が令嬢の口から放たれた瞬間、ベッドの下から紙が一枚、絨毯の上を滑るようにすすすっと出てきた。


「うおっ!」


 野太い驚き声を上げたロアール卿だが、すぐにもう次の行動へと移っていた。


「そこか!」


 がばっ!


 ロアール卿がベッド側面に垂れ下がるベッドカバーを勢いよく捲る!

……が、そこには誰もいない。


「ちぇっ……『影』の姿を拝めると思ったのに……」

「あの子達は恥ずかしがり屋だから、ほっといてあげてちょうだい」


 紙を拾い上げながら、何事もなかったように報告書に視線を落とす。


「お嬢は『影』使いが荒いわね……あいつらも大変だわ」

「働きに見合うそれ相応の報酬は支払ってますわよ? それに……」


 リリス嬢の言葉の途中で、部屋にノック音が響いた。


 コンコンッ!


「お取り込み中のところ失礼致します、ロア様。リリス様。お約束の無いお客様がお見えです」

「客?」

「はい、フロッシュ伯爵家のジュド卿と仰ってましたが……ご面識はおありですか?」

「え? ……ジュド卿?」

「……フロッシュ伯爵家?」


 ………………


「次男⁉︎」


 二人は同時に顔を見合わせた。

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