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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

独り愛情表現

作者: 苑城 佑紀

 鍵を開け玄関の開く音に入ってくる。リビングから雨を振り払ってから傘入れろよの声。キャリーケースとビジネスリュックを玄関に置くと閉まってしまったドアを開け傘についた雨を振り払う。

「おかえり」

 振り返るとメガネかけた高身長でスタイルの良い巧太(こうた)がタオルを持って立っていた。

「ただいま」

 仕事中に邪魔した…と振り払った雨に傘を入れた。差し出されたタオルをありがとと受け取り濡れたスーツに拭くと巧太は行ってしまう。ドアに鍵を掛けキャリーケースにビジネスリュックも拭く。拭き終わったタオルを持ち奥の脱衣室に向かう。脱衣室にあるドラム式洗濯機に持って帰ってきた着替えを放り込むとスーツを脱ぎハンガーにかけた。

 食器のあたる音がしたと思ったらコーヒーの匂いがする。ふと見ると脱衣室の棚には着替えが置いてある。脱衣室から出るとコーヒーを持ってきた巧太が立っていた。シャツと下着だけの格好のままカップを受け取る。が離さない巧太の手に少し低い目線の光波(みなみ)はカップから巧太に視線を移した。瞬間唇が触れた。出張おつかれと囁やいた声にうっすら開いた光波ね唇に合わせる。

「風呂入ってこい、全て用意してある」

「ありがと」


 今どきのコンパクト設計の新築一軒家の平屋。2LDKの家で二人で住んでいる。巧太も光波もまだ三十になったばかりなのに、家も土地もあるのは亡くなった父親のおかげ。会社経営していた巧太の父親。他会社に就職でも良かったが持病の悪化と聞いて跡を継いだ巧太。そんな中に光波が入社してきた。

 風呂から上がってきた光波、リビングに来るとまだパソコンに向かってる巧太をみて先に寝ると。

「明日は」

「午後から会社行って報告次第帰る」

 振り返り寝室に向かい、有給消化で二日休みと部屋に入っていく。静かに閉まった。光波の姿が見えなくなるとマウスを動かしていた手は止まった。立ち上がりキッチンに向かうと明日の朝食の確認する。そしてリビングの明かりを消した。パソコンの画面だけの明かりが灯る。寝室に入ると何故か明かりがつけっぱなし。キングサイズのベットに携帯掴んだまま寝てしまってる光波。画面は途中のパズルゲームが見える。小さく笑うと巧太はベットに上り、光波から携帯を取る。画面を消しヘッドボードに置くと、光波をベットの真ん中に引き寄せた。耳元で囁いてみる巧太。ピクリともしない光波に部屋の明かりを暗くする。

 "みなみ"

 離れて顔を見れば愛おしそうに撫でる。約一週間ぶりに顔を見た。

 "みなみ…"

 シャツの下に手を入れる撫でる手に光波はビクッとした。巧太と呟いた唇に塞げばうっすら目を開く。目が合うと両手を伸ばし抱きついた。首筋に顔を埋めると風呂上がりの匂いに光波の了承も得ず久しぶりの光波を抱いた。


 一人朝食を取る光波。起きたら既に巧太は仕事に出ていって居ない。テーブルには光波の朝食だけ置いて。テレビ見てると電話が鳴る。

「おは」

『おはよう、今日何時頃に来る』

「昼前の予定」

『なら、俺のデスクから買い置きのUSBメモリ持ってきてくれ』

 わかったと返事するとすぐ切れた。が数秒後メッセージが来る。

 ―言い忘れた、ちゃんと食器洗ってから来いよ

「わかってる」

 携帯を置くと皿に人参を残したままシンクまで食器を持っていく。いつになっても人参は嫌い。カレーにしてもバター炒めにしても…食器を洗い拭くと片付ける。そろそろ行く準備するかと洗面所に向かい髪を軽くセットする。少し栗色した短髪で中性的な顔立ち。昨日干していたスーツを脱衣室に取りに行く。省スペースでの乾燥機。昨日は面倒になって入れずただハンガーにかけただけだった。朝方巧太が入れてくれたのだろう。乾燥機から出して寝室に戻るとスーツに着替える。隣にある部屋は一応仕事部屋。どっちとも使うが特に光波に聞かれたくない仕事の電話案件の巧太が良く使う。デスクにあるって言ってたなと引き出しの一番下から見ると確かにパッケージに入ってる新品のUSBメモリがあった。ビジネスリュックの中に入れ光波は家から出て鍵をかけた。家の前にある車は一台しかないそれは光波の車。隣の空きは朝会社に行くに巧太が乗って行ったのだろう。秋晴れの天気にどうしようか悩む。どっちにしろ報告したら早々に帰る。巧太と帰りが一緒ならバスで行き帰りは一緒に帰る。

「…バスで行くか」

 それ程遠くない会社に光波は耳にイヤホンつけ歩き出した。身体がそれ程ダルい感じ出もないのは巧太が気を使って中に入れなかったからなのか。近くのバス停に着きバスを待つ間、携帯を出した。開くのはハマってるパズルゲーム。元々携帯ゲームは好きでよくやるのだが最近はパズルゲームのみ。来たバスに乗り会社前。大手では無いが中心部にあるその会社のビルに入りエレベーターに乗った。五階六階と持ってるビルに光波は社長室がある五階のボタンを押そうと手を伸ばすと突然入ってきた巧太。

「おつかれ、持ってきてくれたか?」

 あるよとビジネスリュックを下ろしの中を探し取り出す。いつの間にかエレベーターは動き出してる。ありがとうと受け取るとお礼かの様に巧太は少しかがみ光波に小さな音たてて離れた。五階に止まったエレベーターが開く。社員が立ってて見た時は既に巧太はエレベーターから降りている。

「上行くけど?」

 何も無かったような表情に、社員は下にと返事する。再び閉まったエレベーターに光波はつけていたイヤホンを外ししまう。報告したら近くのファーストフード店で時間潰そうと考えながら、着いた六階にエレベーターから降りた。オフィスに入ると数人しか居ない。自分のデスクに座るとパソコンをつけた。携帯を起きリュックから出張先で受け取った書類を出す。最終確認してると立ち上がったパソコンに届いていたメールを確認する。

「お、帰ってきたな」

 そう言いながら出先から戻ってきた同僚の誠也(ともや)は光波の隣の自分の席に着く。どうだった?と聞いてくる誠也にまあまあと答える。元から表情が上手く出来ない訳でもない。巧太にキスされても無表情ではないがそれ程大袈裟に出る顔でもなく。巧太から告白しても驚く訳でも無くいいよ別にぐらいの返事だった。今じゃ家だとまあまあ感情も出るようになった。そんな光波を知ってる誠也はさっきから独り言の様に話してるがちゃんと会話は成り立っている。

「昼飯食った?」

「これから」

 バソコン画面から目を離さないまま。

「どっか食いに行くか?」

「帰るし」

 んじゃまた誘うわとデスクから離れた誠也に、確認済の書類とメールを見るとパソコンを落とした。部長のデスクにまとめた書類を置くと、帰る支度する。戻ってきた誠也にまたなとオフィスから出た。ビルから数歩の所にあるファーストフード店に入ると注文し一番奥の角に席を取るとリュックを下ろし携帯にイヤホンを付ける。ネクタイを緩めるとパズルゲームをやり出した。


「光波は俺と居る時どう思ってる?」

 そう言われて居心地いいと言えばそうかもしれないと返した。付き合って二年目たった頃、光波は思ったより攻めてくる奴だと思い始めてきた。ほんの少しの事で光波が好きだと色んな方法で触れてくる。そんな巧太に段々と気持ちも変わってきた。今思えば、あの時真剣な目で聞いてきたのは跡継ぎの話が出てきたのかもしれない。その頃巧太は家族に光波を紹介した。それと同時に家を建て住み始めた。内装はほぼ巧太の案。

 注文したバーガーとコーヒーに携帯をテーブルに置いた。コーヒーを飲みバーガーにかぶりつく。何気に周囲を見渡すと昼時なせいかサラリーマンが多い。携帯ゲームにSNSやら見ているといつの間にか完食している。時間を見ると三時は過ぎていた。そろそろ帰ろうとリュックを背負い携帯を持ち店から出る。ちょうど前にバス停がありバスが来る。乗り込み光波は空きの席に座った。走り出した頃若い男性社員と歩いている巧太を見つけた。歩く先はコンビニもあるが、時折一緒行く喫茶店もある。少し振り返り巧太を見ると光波は体を戻した。膝にあるリュックを抱えるようにして俯く。


 鍵の開く音が聞こえる。それと同時にキッチンの片隅にあった小さなデジタル時計を見た。ほぼいつもと同じ帰宅時間。フライパンの上できつね色しつつある鶏肉が音を立ててる。調理台の上には準備してある皿がサラダと一緒に鶏肉が来るのを待っている。リビングの扉が開きネクタイ緩めながら巧太が入ってくる。

「おかえり」

 顔を見ずに言う光波に近寄る。ただいまと同時に光波の手を掴んだ。思わず顔を上げて見てしまう光波。

「俺が何かしたか」

 些細な様子が違うことに気がついた巧太。光波は一瞬見開いた。昼間の出来事。もちろん巧太にすればたまたま一緒で同じコンビニに向かう時の事。今日の昼間の事を思い出しても最低限見られたとしてもそんな場面しか思い出せない。俯いてしまう光波に手を離した。

「…日中」

「ちなみにバスで来たのか」

 小さく頷いた光波に頭抱えため息ついた。と同時にコンロの熱センサーが鳴る。巧太はガスを止めると光波を抱きしめる。

「…俺は光波しか居ない」

 その声は辛そうに聞こえる。ゆっくり両手差し出すと光波は抱きつき顔を埋めた。いつも優しい顔で話す、光波から見ても自分を愛してくれてるとわかるぐらいの愛情表現。大事な事も些細な事もちゃんと話してくれる。そんな巧太が滅多に見せない弱気な言い方に光波の胸は痛くなる。

「ごめんて」

 バスの中でなんとも思わなきゃリュック抱え顔なんて埋めない。

「巧太…僕も巧太が居ないと困る」

 一緒に居て居心地いいだけじゃ足りない。一番好きなの巧太だけと言い少し離れた光波は巧太と目が合う。会社社長とは違う顔、家に帰ってくると光波しか知らない色んな顔。

「それに…巧太の顔も好き」

 照れ笑いした光波に巧太は再び抱きしめ悪かったと呟く。


「今度の休みが合ったら少し遠出しようか」

「え…」

「暫く一緒出かけてないだろ」

「行く!」



End




 

ご無沙汰ぶりです。

久しぶりに書きました…が、やっぱり楽しいです。

リハビリがてらですが、読んで頂きありがとうございました。

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