第39話 一ノ瀬波瑠は羨ましい
前回から間隔あいてしまいました……。
頑張って最後までやりきりますので引き続きよろしくお願いします。
「え、参加してもよかったの!?」
翌日、正宗は香織からの電話で入部前でも参加してよかった事実を初めて知った。仮入部というやつだそうだ。
お試しで入部して部の雰囲気や環境を見て入部の可否を自分で決めることが出来る期間で、基本新入生のときに済ませる。
正宗の場合それが一年ズレでやってきただけのこと。
「それは早く知りたかったなぁ。先輩たち何も言ってなかったぞ」
「遠藤くんは?クラスメートじゃん」
「何も言ってないな。てか遠藤はおれには何も教えてくれないでしょ、なんか敵視されてるし」
電話の向こうから笑い声が聞こえる。
「なにそれ?遠藤くんて案外ちっさい男なんだね。卓球は上手いのに」
正宗は香織の発言を聞いて心のなかで謝った。
――――すまん遠藤、お前の知らぬところで女子の評価を下げてしまった。
「じゃあ来週から顔出してみる?」
「うん、そうしてみるよ。ありがとう」
「ちなみに今まで練習とかどうしてたの?士道くんのことだからさすがに何もしてないわけないよね?」
「えーっと、社会人のチームに混ざって練習してたかな。あとジムに入会してトレーニングを……」
香織は「うはぁ……」とため息をついた。
「全部学校で出来るから。高校生がそんな金かけないで。絶対お小遣いとか足りないでしょ。だから夏祭りも金欠で悩んでたんだ」
正宗は苦笑いするしかなかった。
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翌週、正宗は体育館を覗いていた。香織の助言を受けて体育館に来てみたものの、どうにも入りづらかった。
そんな正宗の背中を誰かがツンとつついてきた。
正宗は「ひょあ!?」と変な声を上げて仰け反った。
「先輩、何してるんですか?」
振り向くとそこには波瑠がいた。
「そんなとこでもじもじせずに入ったらどうですか?練習に来たんですよね?男子、呼びましょうか?」
波瑠が呼ぶまもなく小田桐先輩が顔を覗かせてきた。
「お、士道くんじゃないか。やっと来てくれた」
「入部前から参加出来るなんて聞いてないですよ、先輩」
「すまん、言うの忘れてたわ」
小田桐先輩は手を合わせて頭を下げる。そして正宗を手招きして体育館に引き込んだ。
「あれ?そういえば先輩たちはなんでいるんですか?インターハイ終わって引退したんじゃ?」
「呉翔陽卓球部伝統の追い出し試合だよ、天才くん」
松田先輩が汗を拭きながら寄ってきた。
「三年生対一、二年生の団体戦だ。人数いなかったら個人総当たり戦になるんだが、男女とも人数がいるからな。男子と女子でそれぞれ団体戦を一試合したら、最後はドリームチームで試合だ」
「ドリームチーム?」
「まあそれはその時になってからのお楽しみな。せっかく来たんだ、天才くんも参加していきなよ」
「はあ……」
「遠藤!士道くんチーム入れれる?」
「え、嫌です」
遠藤は小田桐先輩からのオーダーをどストレートに切って捨てた。
「今回は追い出し試合なんですから、今まで部活にいなかったやつにやらせるのは違うでしょうよ」
確かにそのとおりだ。正宗はうんうんと頷く。「ただ――――」と遠藤は続ける。
「ドリームチームの試合は士道でいいんじゃないですか?」
正宗は思わず「は?」と声を上げてしまった。遠藤は「なんだよ」と言わんばかりの顔で睨んできた。
そんな様子を波瑠は少し羨ましげに見ていた。
「旭先輩も柳瀬先輩も士道先輩と夏の思い出作ってる……同級生の特権フル活用してる……私は後輩だからどうしても接点が少なくなるから後れをとってしまう……これはピンチ」
波瑠は考える。どうすれば正宗と接点を持てるか。夏の思い出を作れるか。
「あ、ドリームチームで先輩と一緒に試合すればいいんだ。卓球だけは私の特権だ」
やる気に漲る波瑠を見て瀬能先輩はニヤリと何か企むような顔になる。
「ふぅん、士道くん、意外とスミに置けないなぁ」
瀬能先輩は「小田桐ー!」と手招きし、コソコソと話す。
「最後のドリームチームの試合なんだけど、在校生チームは男子は士道くん、女子は一ノ瀬でどう?二人は元々同じクラブチームだし中学日本一だし、盛り上がりそうじゃない?」
「ふむ」と小田桐先輩は頷く。
「いいんじゃないか?男子はこっちとしては飛び入りの士道くんを考えていたからな。そっちがそれでいいならそれでいこう」
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追い出し試合は白熱していた。
男子の卒業生チームは全国区の松田先輩擁するついこの前までレギュラー張ってたメンバーだ。対して在校生チームはレギュラーは遠藤のみで、力量に差のあるチームだった。
「いや無理だろこれ」
結果は卒業生チームの圧勝であった。
遠藤が辛うじて松田先輩から一セット取ることができたがそれまでだった。
「まだまだだなお前ら。そんなお前らに全国っていうのがどんなものか見せてやる。天才くん、来なよ」
松田先輩に手招きされ、正宗は中央の台に向かう。女子のほうからは波瑠が来た。
「即席ではあるが二人にはこれからおれたちと戦ってもらう。ドリームチーム戦だ」
正宗たちの前に立つのは松田先輩と瀬能先輩のペアだった。
「おぉ、まじか」
「先輩と一緒に卓球するの久しぶりです!頑張りましょうね!」
波瑠は眩しい笑顔を正宗にぶつける。その眩しさに正宗は目が眩んだ。
卓球のウェアは物によってはぴっちりしているものもあり、どうしてもラインが出てしまうものもある。波瑠はそのラインがはっきり出るウェアを着ていた。男子の視線を集めるのはもちろんのこと、正宗も気になってしまった。
――――ずいぶんと成長したんだな
どこがとは言わないが。
正宗は首を振り邪念を払う。久しぶりの後輩とペア組んでの試合だ。しっかり集中したい。正宗は波瑠の頭をポンポンとした。
「じゃあやろうか、波瑠」
「ふぇ」
波瑠の反応を見て正宗は「あ」と自分のやったことに気付いた。小学校のころとは違い、二人は今高校生だ。こんなことをしていたらどう思われるか。
やはりというかなんというか、周りは好奇の視線を向けてきていた。先輩たちも「おーおーお熱いこって」とからかってくる始末。
「す、すまん波瑠。ついクセで」
正宗は波瑠の反応が気になり謝る。しかし波瑠はデレていた。
「先輩ったら大胆なんだから……」
正宗は「あ、まじで」と頭を抱え、波瑠のあの時の電話を思い出す。
唸る正宗を見て波瑠はフッと笑う。自分の一言で想い人がこんなにもあたふたしていると思うと嬉しくて仕方なかった。
「先輩、それはそれ、これはこれ、です。例のやつは一旦置いといてもらって、今は卓球しましょう」
「わ、悪い。そうだな」
少し練習をし、正宗のサーブから試合が始まる。激しいラリーの応酬。時折見せる正宗のスーパープレーは体育館をどよめかせる。
「あれで二年のブランクだろ?」
「調子を戻したらどうなるんだ?」
遠藤は苦々しい表情で正宗のプレーを見る。
波瑠は球を打ち返しながら笑っていた。
嬉しかった。
憧れの先輩が復活してまた一緒に卓球を出来ることがたまらなく嬉しかった。
マッチポイント、波瑠は相手のサーブをドライブで返し、打ち合いに持ち込む。
正宗が卓球をする姿がかっこよかった。横目でチラ見しながら波瑠は球を打ち返す。そして正宗が鋭いバックドライブを打ち、決着がつく。
「先輩、ありがとうございます。これからよろしくお願いします」
「よろしく」
「おーい、これおれらの追い出し試合だぞー?花持たせろよ後輩」
松田先輩はブーブー文句を言うのだった。
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夜、波瑠は同級生に頼んで撮ってもらった写真を眺めていた。スマホの画面をスライドし、正宗と波瑠が並んで写っている写真を眺める。
しばらく眺め、波瑠はその写真をスマホのホーム画面に設定した。
「ふふ」
一ノ瀬波瑠は生涯大切にするであろう、夏の思い出を作ることができたのだった。




