第38話 諦めない気持ちが大事
花火大会が終わり、家に帰った香織はふてくされていた。
星奈が登場したことにより正宗にアプローチする機会を失ってしまったからだ。その上花火大会も一緒に見ることが叶わず、沙織の前で少し泣いてしまった。
星奈は友達だからこんなことで嫌いになったりはしないが、正宗だけは別だ。これに限っては星奈はライバルだ。
「なによもう……あの二人、すごくいい感じじゃん。あんなの、私があとからぽっと湧いたお邪魔虫じゃん」
二人のあの表情を思い出し悔しくなる。初めて気になる異性が現れたというのにこんなあっさりと終わるのは悔しくてたまらない。
「その顔はうまくいかなかったんだね」
「ゔ……言わないでよお母さん」
香織の母親はそれ見たことかと言わんばかりの顔で我が子を出迎える。
「暑かったでしょ。ちなみに香織の言ってた気になる男の子は浴衣の感想なんて言ってたの?」
それを聞かれ、香織の頬は少し赤くなる。あの時の正宗は照れながらも、真っすぐ目を見て言ってくれた。
――――浴衣、すげえ似合ってる。正直可愛いと思ったよ。
他意はないのだろうが、それでも可愛いと言ってくれたことはすごく嬉しかった。頑張った甲斐がというものだ。
香織の表情を見て母親は「ふぅん」とニヤニヤする。
「浴衣のほうは意外と好評だったんだ。良かったね」
「な、なにも言ってないでしょーが」
「そんな乙女な顔して隠せると思うな娘よ。それで?夏休みの残りはその男の子と何か約束とかできたの?」
「……できなかった」
「どんまい」
ズバッと言われ、香織は心にグサッとくるのだった。
香織は母親に手伝ってもらい浴衣を脱ぐ。
「はー!暑かった!やっぱ夏はシャツがいいよ!」
香織はタオルで汗を拭き、キンキンに冷えたお茶を飲む。扇風機の前に座り込み、「あー」と声を震わせる。
「そんな格好でいないの。夏でも風邪ひくよ。お風呂で汗流してきなさい」
香織はキャミソールの下着姿だった。香織は自分の服装を見て、汗のにおいを嗅ぎ、少し難しい顔をして「はぁい」と風呂に向かうのだった。
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香織は体を洗い、湯に浸かる。
正宗と星奈が二人で何処かに行く姿を思い出しては悶絶する。
「うー!」
香織は気になって仕方がなかった。あの二人はあのあとどうなったのか。多分二人で花火を見たのだろうが、二人の関係は進んだのか。
「もしかして、今度こそ付き合い出したり――――?」
なんてことを考えては落ち込み、お湯の中に沈む。息を止めるのも限界で、香織はザバンと大きな音を立てて頭を上げる。
「なんなのよもう……士道くん、あんな思わせぶりな態度とっといて、しっかり星奈のこと好きじゃん」
香織は体を拭き、脱衣所でパジャマに着替える。そこに母親が入ってきた。
「ちょ、まだ着替え終わってな――――」
「香織、よく聞きなさい。この世の中には略奪愛というものがあってね」
「急にどろっとした感じのやつ語らないでくれるかな!?」
突然真面目な顔で語ってきたと思ったら略奪なんてワードが出たのでツッコまずにはいられなかった。
「まあわが子にそんなことはしてほしくないけれども」
「じゃあこの話終わりでいいかな?」
「香織は子どもなんだから、大人みたいに悟って諦めるのは損だよ。諦めずに足掻けるのは子どもの特権なんだから。勉強しかり、遊びしかり、恋しかり」
――――諦めない気持ちが大事だよ
そう行って母親は脱衣所を出ていった。
略奪云々はとりあえず何故語ってきたのかは気にしないでおく。香織もそんな危ない橋を渡るようなことはしたくない。
ただ、諦めない気持ちが大事というのだけは賛成だった。
せっかく芽生えた新しい気持ちだ。どうせならとことんやってやろう。喧嘩にはなるかもしれないけど、それもきっと友達の在り方の一つだ。
そういう衝突があったとしても将来きっと笑い話にできるように、子どもらしく、初心者らしく、がむしゃらにやってみよう。
香織は笑顔で湿った髪をドライヤーで乾かすのだった。
「そもそも士道くんは卓球部に入部するんだし、これからはさらに一緒にいる時間増えるわけだし」
香織はあることに気付いた。
「あれ?そういえば士道くん、夏休み中全く部活来てないな。なんでだろ?休み明けから入部だけど別に休み中来てもいいのに」
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