第37話 父親
花火大会が終わり、正宗は星奈を家まで送り届けた。出てきたのは星奈の父親で、心なしか額に青筋が浮き出ているような気がしたが多分気の所為だ。
「今日はありがとう。その……また連絡していい?」
「!いつでも歓迎……です!」
正宗は返事がしづらかった。
――――隣のお父さんの背後にめっちゃ怖い般若みたいなのが見えるくらいの殺気が感じ取れる……!
「君が件の士道くんか」
「は、はいぃ!」
返事が裏返ってしまった。件とは?
「いつも星奈と仲良くしてくれてるみたいで」
声は優しく穏やかだ。しかし、目は血走っておりやはり背後に般若が見える気がする。
「星奈、先に戻ってなさい。父さんは士道くんと少し話がある。すぐ終わるから、母さんの手伝いをしててくれないか」
星奈は正宗に手を振り家に入っていった。ついに好きな人の父親と二人きりになってしまった。
――――気まずい!てか怖い!目!血走ってますよ!おれ殺されるの!?
「最近の星奈が目に見えて元気なのは君のおかげなんだな。いつもありがとう」
突然感謝の言葉を投げかけられ、正宗は戸惑う。
「これからも星奈と仲良くしてくれると助かるよ。星奈が異性に心を開く姿をみたのは初めてでね。父親としては色んな意味でドキドキしてるんたが、まあこれはいい傾向だと受け止めて見守ろうと思ってるよ」
星奈の父親は一人で頷きながら語る。そして「それはそれとして」と言葉を続けた。
「君は、星奈の何だね?友達か?まさか彼氏か?彼氏なら……」
「と、友達です!一緒に勉強したり二人で出かけたりする程度の」
「士道くんよ、それはもはや彼氏と大差ないのでは……?え、星奈って朝めっちゃ早く学校行って友達と勉強してるって言ってたけど、まさかそれ君なの?」
「え、はい」
「ゴールデンウィークもうちに来て二人で勉強してた男の子っていうのも」
「あ、おれです」
「放課後とかよく友達と遊んでるっていうのも沙織ちゃんとかじゃなくて」
「あ、それもおれかと」
「……士道くん、ここにいるのは男二人だけだ。正直に言ってくれ、君、星奈のこと好きだよな?じゃないとあんな朝早くから一緒に勉強なんてしないし二人で出かけたりしないよな?」
また答えにくい質問を。正宗は躊躇いつつ「はい、好きです」とボソボソと答える。
「……なんで付き合ってないんだ?」
「……色々あるんですよ」
「もし付き合ってたら『人の娘に手出しやがって』みたいなのしたかったのに、なんかそれ聞くと士道くん頑張れってなっちゃったよ」
好きな人の父親に肩を叩かれ慰められてしまった。
「ただ一個だけ、確認したいことがある」
父親は正宗の肩を掴む。
「君、大通りで会ったとき女の子といたよね?しかも二人。まさかとは思うが彼女らも――――」
父親の手に力が入る。正宗の肩からミシミシとヤバい音が鳴る。
「か、彼女たちはただのクラスメートです。何もありません!」
「なら宜しい。もし星奈を泣かせるようなことをしたら子どもとて容赦しないからな」
だから目が怖い。正宗は心の中で突っ込んだ。
そして父親は何か気づいたのか、正宗の体を触り始めた。
「!?」
「君、何かスポーツしてるのかい?それかジムに通っているか。よく見ると右腕のほうがやや太いな。下半身はかなりしっかりと鍛えられている。ラケットを使う競技かな?テニスか、卓球か」
体を少し触っただけでやっている競技が分かることに正宗は驚いた。驚く正宗を見て父親は「ああ、すまない」と手を離した。
「私も少々武道の心得があってね。体の構造とかトレーニングとかよく勉強していたんだ。今はただのサラリーマンだけどね」
「武道、ですか?」
「うん、空手を少しね。これでも若い頃は日本代表候補と言われるまでの実力はあったんだよ」
それは少々の心得とは言わないのでは。
「ふむ、君、膝が少しかたいね。最近怪我した?」
そこまで分かるのかと正宗は驚く。
「中三のとき膝をやって」
「なるほど、それでか。君、トレーニングするとき一人かい?」
「えっと、はい」
「それはよくないな。大きい怪我を経験したというのに指導者をつけないのはよくない。また同じ怪我をしてしまうよ。トレーニングを独学でやるのは全然いいが、より安全に、効率的にやるなら指導者をつけることをお勧めするよ」
まるで専門家のような口ぶりだ。
「……よくご存じで」
「怪我の怖さは知ってるからね。そうだ、仕事の後でいいなら私が見てあげようか。星奈の恋人候補だ。なら将来の家族候補でもあるということだ。監視――――げふん、仲を深めるのも兼ねて見てあげよう。安心したまえ、私は理学療法士であり元ジムトレーナーでもある。ちゃんと指導者としては適任だと思うがどうかな?間に合ってるかな?」
監視、という不穏な言葉が聞こえたがこれは千載一遇のチャンスだ。好きな人の家族と仲良くなることもできるし、卓球選手としても体を強くすることもできる。
中学のときは全部一人でやっていた。そしてそのやり方が間違っていたから怪我をしてしまった。
そして今もまた一人でやっていた。星奈の父親の言葉でまた過ちを繰り返そうとしていたことに気付いた。
正宗の答えは決まっている。
「よろしくお願いします!」
――――――――――――――――――――――――――――
帰り道、正宗は星奈の父親について考えていた。
――――あの人、サラリーマンっていってたけど、理学療法士で元ジムトレーナーで空手日本代表候補まで登り詰めた実力者って、やばくないか?
「怒らせたらまじで殺されそうだな」
あの般若みたいなのが見えた気がしたのはやはり気の所為ではなかったと思う正宗だった。
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