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ドロップアウト  作者: 野良猫
心乱される夏休み
36/39

第36話 そのかき氷は甘くて③

「美味しい……っ!きーんってきたぁ!」


 かき氷を頬張る美女二人はそれはそれは絵になった。正宗はドキドキしながら二人を見る。沙織はそんな正宗をからかう。


「役得だね」


「……うっさい」


 星奈は正宗からもらったかき氷を食べながら香織と談笑していた。


「士道くん、あのかき氷食べたかったんじゃないの?お金、もうないんじゃ……」


「たしかに食べたかったけど、旭に買ってあげたって思えばまあいいかなと」


 なんて言うが正宗は少し残念そうな表情をしていた。なんだかんだ食べたかったのだろう。


 その後はぶらぶら歩き回り、花火大会まで時間を潰すことにした。十五分前になり、香織は「ちょっとお手洗い!」と言ってトイレに駆けていった。


 香織を待っている間、正宗は財布とにらめっこし、星奈と沙織はヒソヒソと話していた。


「ねえ沙織、士道くんと香織って」


「今のところ何もないよ。ただ士道くんがデレデレしてるだけ」


「それが不味いんだよー!」


 星奈は「うー!」と不安げな顔をする。沙織はため息をつき、正宗のお財布事情について話す。


「士道くん、実は金欠でね、さっき星奈にあげたかき氷ギリギリのお小遣いで買ったものなのよ。ほら、士道くんめっちゃ財布とにらめっこしてるでしょ?」


「士道くんが金欠なのはわかったけどどうすればいいの?さっきもらったかき氷返せばいいの?」


 沙織はニヤッとする。


「星奈、さっきお母さんになんか入知恵されなかった?」


 星奈はハッとする。


「そして私の手にあるこれは何でしょう?」


 沙織はぷらぷらーっと氷と書かれた氷の山がそびえ立つカップを見せる。


「行ってきなよ星奈。香織の相手はしといたげるからさ。あ、かき氷のお代はちょうだいね。これ本当は花火見ながら食べようとしてたやつだから」


「沙織ありがとう!」


 星奈はかき氷を持って正宗のほうに駆けていった。その様子を見届けたところで沙織は「ごめんね」と謝った。


「どうせそんなことだろうと思ったわよ」


 沙織の背後にはトイレから戻った香織がいた。香織はムスッとしていた。


「あーあ、士道くんと花火見たかったな。そしたらこの気持ちの答え合わせできたのに」


「香織は間違いなく振られるよ」


「わかってるわよ。二人とも何もないって言ってるけど、あれはどう見ても両想いでしょ。星奈もだけど士道くんのあの表情、私といるときじゃ絶対しないもん……あー、なんか悔しい……」


 香織は天を仰ぐ。目に溢れるそれをこぼさないためだ。それには沙織も驚いた。


「香織、結構本気だったんだ」


「――――っ!本気よ!じゃないと浴衣なんて面倒なことしないもん!」


 香織はハンカチを取り出し目に浮かんだ涙を拭き取る。


「あんなんだけど、まだあの二人は付き合ってないんだよね?じゃあまだチャンスはあるわけだ。休み明けたら士道くんは部活にくるし、これからは二人の時間は減るわけだし」


「香織、あんた強いね……」



 ――――――――――――――――――――――――――――



 正宗と星奈は無言で歩いていた。星奈は母親に教わった通り、呉翔陽の門前の坂に向かう。そこは祭りをしている大通りのすぐ脇にあるので数分で到着する。


 目的地に到着し、星奈は正宗にかき氷を渡す。


「これ……一緒に食べない?」


「い、一緒に!?」


「嫌だった!?ごめん!あれ、私変なこと言った……」


 星奈は本当はただ「あげる」と言いたかった。それが色々巡って「一緒に食べよう」に切り替わってしまった。


 付き合ってもいないのにそれは早いだろう。痴女だ痴女。星奈は頭を抱えた。かき氷を食べるスプーンも一つしかない。


 正宗も考えていた。これはチャンスではないか、と。星奈と絶対的に距離を縮める絶好の機会だ。


 星奈の様子をみる限り、多分言い間違いをしてしまったんだろうが、星奈との距離を縮めたい正宗はこれに乗らない手はなかった。


 正宗はかき氷をすくい「ほい」と星奈にスプーンを渡した。星奈は「ど、どうもです」と正宗からスプーンを受けとり、かき氷を食べた。


「冷たぁ」


 星奈は正宗にスプーンを渡そうとして、ふと思い出した。正宗が香織から差し出されたポテトを食べていたのを思い出し、星奈もやりたいと思ってしまった。


 少し考え、覚悟をきめて星奈はかき氷をすくい、正宗の口元に持ってきた。


「ど、どうぞ」


 正宗は目を丸くした。


 ――――これはあれだ、今度こそ間違いなくあーんだ。そして間接キス……


 正宗は顔を真っ赤にした。これはアリなのだろうか。こんなに進んでしまってもいいのだろうか。


 星奈の顔を見ると、星奈も顔を真っ赤にしていた。ただ目だけは真っすぐ正宗を見ていた。


 正宗は口を開け、かき氷を食べようとする。心臓がバクバクと鳴り響き、周りの声が全く聞こえない。


 正宗のメンタルが限界を迎え、やっぱりいいと言おうとしたところでドォン、と大きな音が鳴り響いた。


「あ……」


 正宗はびっくりして口を閉じた。その時スプーンも一緒に口に入っていた。


「は、花火だぁ……きれいだねぇ……」


 星奈がごまかすように言ったが、お互い顔を真っ赤にし花火どころではなかった。


 ただ一つ、正宗がたしかに分かったのは、このかき氷は特別甘かった。


「夏休みって意外と悪くないんだな」

いつも読んでいただきありがとうございます。

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