第32話 焼きそば
『なんかデレデレしてる』
思わず電話をぶち切ってしまった星奈は画面を見ながらおろおろし、そしてため息をついてしゃがみ込んだ。
「何デレデレしてるのよ、士道くん」
じゃなくて。
星奈の心の中は乱されまくっていた。今すぐに夏祭りに行きたい。正宗と合流したい。正宗と香織を引き剥がしたい。どうせなら二人で一緒に屋台を回りたい。
今まで二人で出かけたりしていたのに最近は全く出来ていない。夏休みに入ってからは尚更。
「休みじゃなかったら朝の勉強会とか放課後遊びに行ったりして二人でいれるのに」
どうにか夏祭りに行けないか、口実を考える。だが今回は色んな人に誘われたが「今年は家族と家で過ごす」と言って断ってしまっている。
「なぜ行かないと言い切ってしまったの私ー!」
そんなとき、星奈に救世主が現れた。
「おーい星奈、ちょっといいか?」
「ん?お父さん?」
部屋に父親が入ってきた。星奈の父親はボサボサの髪に無精髭を生やした、なんというか『ザ・おっさん』といった感じの人だ。
ただしこのようななりでも星奈の父親は空手初段の猛者で、学生時代はオリンピック代表候補まで上り詰めた実力者だそうな。ちなみに今はしがないサラリーマンである。
「父さんと母さん、ちょっと祭り見に行こうと思ってるんだが、星奈もどうだ?久々に家族で屋台巡りも良くないか?」
星奈は目を輝かせる。これに乗らない手はない。
「行く!さすがお父さん!間がいい!」
「……間がいい?まあいいか。じゃあ準備しなさい。近くまで車を出そう。駐車場空いてるかな?」
父親はスマホで近隣のコインパーキングの空き状況を確認しながらリビングに消えていった。
星奈は急いで服を漁る。
もしかしたら正宗に会えるかもしれない。そんな期待を抱きながら支度をするのだった。
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人混みを掻き分けなんとか全員集まった正宗たちは皆思い思いに屋台巡りを始める。
「やっぱ夏はこうでなくちゃな!」
「そういえば香織、インターハイどうだったの?」
「団体は優勝したよ!私は出てないけど」
香織はとほほー、と笑いながらクラスメートにインターハイの結果報告をする。日本一という結果はやはりインパクトが強いようで、運動部の面々は羨ましげな視線を香織に投げた。
「やっぱうちの女子卓球は強すぎだよな。インターハイ四連覇とか、やべえよ」
「柳瀬、レギュラーじゃなくても練習についていってるってだけでもやばいわ」
正宗はその様子を横目に焼きそばの屋台を探していた。
「何探してるの?」
香織は正宗が話の輪に入ってこないのに気づき、近づいてきた。
「焼きそば。今日は焼きそばとかき氷を絶対に食べると決めてるんだ」
「ふーん。士道くん、全然話に入ってこないから興味ないのかと思った。なんだ、ただ焼きそば探してただけか」
香織は肩と肩が触れ合うくらいの距離まで近づいてきていた。
――――だから近いって。
正宗は調子が狂うな、と思いつつ焼きそば探しに集中することにした。
「焼きそば意外とないのな……」
そろそろ通りの半分を過ぎようとしていたが、未だに焼きそばが見つからない。ポテトやらリンゴ飴やらはたくさんあるが、どうやら今年の夏祭りは焼きそば屋台が少ないタイミングだったようだ。
「ん、士道くんあれじゃないかな?」
香織が指さすほうを見ると、そこには念願の焼きそばがあった。
「おお、あった。柳瀬さんありがとう。ちょっと買ってくるわ」
「あ、私も買いたいから一緒に行く」
香織は正宗についていく。その様子をクラスメートたちはヒソヒソ話しながら見ていた。
「柳瀬って、士道狙ってんのかな?」
「確かに。最近いっつも士道の近くにいるよな」
「あれ?でも士道って一組の旭と付き合ってるんじゃなかったっけ?」
「それは本人が否定してたらしいぞ」
「香織が今日すごくきめてきたのって、士道にアピールするためなのかな?」
沙織は会話を聞きながらやれやれとため息をつく。
「星奈ほっぽって何やってんのよ士道くん」
正宗と香織は焼きそばを買い、皆のところに戻る――――が、そこに居たのは沙織だけで、他の皆はバラけて屋台巡りに行っていた。
「みんな待ちくたびれて屋台巡り行っちゃったよ。二〇時の花火大会で集まろうって」
「ありゃ、みんな行っちゃったか。悪いことしたな」
「とりあえずそっちで焼きそば食べようか」
三人は石垣に腰掛ける。
「んー!美味ひい!やっぱお祭りの焼きそばってなんか縁日って感じで特別だよね!」
香織はるんるんで焼きそばを食べる。正宗も焼きそばを食べ始める。その横で沙織はスマホをいじっていた。
沙織のもとに通知がくる。
「あ――――士道くん、香織、今星奈から連絡来たんだけど、なんか今から家族で祭り来るって。もしかしたら会えるかもね?」
分かりやすいくらいに目を輝かせた正宗とは対照的に、香織の表情が一瞬暗くなったのを沙織は見逃さなかった。
今年最後の投稿になります。
今年この作品を見つけてくださった読者の皆様ありがとうございました。
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