第31話 夏祭りの準備〜士道正宗と伊藤沙織〜
夏祭りに参加するグループのメンバーは十名で、クラスの三分の一だった。
正宗は道が混むのを予想して少し早めに集合場所に向かった。そして道中、思わぬ人物と合流することとなった。
「考えることは一緒だねー。祭りになるとここの通りめっちゃ人多くなって歩くのも大変なんだよね」
沙織はコンビニで買ったアイスバーを頬張る。八月半ばの夏の夕方は涼しくはあるがやはり空気は生温く、じわじわと汗をかく。正宗はアイスバーを頬張る沙織を見ながらジュースか何かを買えばよかったと後悔した。
正宗の視線に気付いた沙織は食べかけのアイスバーを正宗に差し出す。
「……食べる?」
それは間接キスになるのではないだろうか。正宗はおろおろと戸惑う。その様子を見て沙織は「ふふふ」と笑う。
「冗談よ……何?期待した?」
「……やめてくれ」
正宗は一瞬でも考えてしまった自分を自己嫌悪した。正宗の表情をみてやりすぎたと思った沙織も「ごめん」と一言謝った。
「ちょっと調子に乗りすぎました……これが夏休み効果か」
通りすがりの人と沙織の肩がぶつかる。沙織は「わっ」と小さく声を上げてよろける。正宗は咄嗟に沙織の肩に手を回して支える。
「大丈夫か?」
「だ、大丈夫……です」
沙織は正宗と密着状態になり、固まる。こう見えて沙織もまた男子に対する免疫はなく、学校でも話せるのは正宗と大河しかいない。
「……です?」
「ありがとう士道くん、いやぁ、人多いね。気をつけなきゃ」
沙織はごまかすように正宗から離れながら棒読みのごとく呟く。
二人は集合までまだ時間があったのでコンビニで涼むことにした。
「ちょっとお手洗い行ってくる。士道くんは?」
「涼ませてもらうから買い物しとくよ。伊藤さんがアイス食べてるの見たらおれも食べたくなったし」
「ふーん、じゃあ私のも買っといて?」
「あれ、さっき食べてませんでしたかね?」
沙織はトイレに引きこもり、真っ赤に染まった自分の顔を鏡で見る。
「……あのバカ。あーいうのは星奈にしなって。私みたいなモブにやってどうするのよ」
不覚にもドキドキしてしまった。星奈を応援する身としてはああいうのはよくない。
「そういえば士道くんて結構筋肉あったな。体育祭のときも凄いと思ってたけど、抱き寄せられると改めてやばいってなるな。星奈、あれに惚れたならちょっとだけ納得かも」
正宗は学生卓球選手にしてはかなり筋肉質だ。野球部などの選手に全然負けないレベル。
なんてことを考え、沙織は大きくため息をついてその場にしゃがみ込んだ。
「これは一種の気の迷いだ……私が士道くんにそんな感情は絶対抱かない!」
立ち上がり、頬をぱしぱしと叩く。
トイレを出て正宗を探す。正宗はアイスコーナーでものすごく真剣な顔でアイスを選んでいた。そして財布の中身を見て難しい表情に変わる。次にスマホを確認して「よし」と小さく頷く。
「アイス一つにずいぶん感情豊かだね」
「仕方ないでしょ。今金欠なんだから、アイス一つも決意が必要なのよ」
「あぁ、ちょっと前に星奈と卓球の道具とか買いに行ったんだっけ。それで?」
「それもだけどこの前インターハイ見に行ったから。交通費とかは大丈夫だったけど食費がなかなかかさんで……」
都会のご飯は美味しい処がいっぱいなんだよ、と正宗はため息をつく。
「よく今日の集まり来るって言ったね……屋台、高いよ?」
正宗の表情が暗くなる。
「……焼きそばとかき氷は食べたいからその分は確保してる……この夏休み楽しむのはこれが最後だ……」
沙織は苦笑いし、正宗の手からアイスを取る。
「仕方ないなぁ、このアイスは奢ってあげよう。さっき支えてもらったお礼も兼ねてね」
「い、いいのか!伊藤さん、神様か!」
「大袈裟だなー」
二人はアイスを購入し、店の外で食べる。食べている途中で沙織のスマホからコール音がなる。
「誰から……星奈?ちょっとごめんね」
沙織は正宗から離れて電話に出る。
「もしもし?星奈どうしたの?」
「あ、沙織。いきなり電話してごめんね?その、そっちはどうかなーって思って」
「どうもなにもまだ集合時間じゃないから誰もいないよ?あ、でも今士道くんとたまたま会って、コンビニでアイス食べてる」
「士道くんと一緒なの!?」
星奈の声が裏返る。何を焦っているのかと、沙織は笑う。
「今士道くんもアイス食べてるよ。電話変わる?」
「だ、大丈夫大丈夫!……今日って香織も来るやつだよね?その……香織なんか言ってた?」
沙織は首を傾げる。何故香織なのだろうか。最近のクラスの様子を思い返し、ふと気付いた。
――――そういえばここ最近香織よく士道くんの近くにいるな。前までそんなこと無かったのに。体育祭くらいからかな?
多分それだろうなとあたりをつける。
「んー、別に何も言ってないよ?今回も香織発案でみんなで遊ぼーってなっただけで。香織がそういうことするのよくあるじゃん」
沙織が電話で話しているのを横目に正宗は食べ終わったアイスの袋をゴミ箱に捨てる。
その時、背後から聞いたことのある声で名前を呼ばれた。
「あれ?士道くん?」
振り返るとそこには浴衣姿の香織がいた。髪は綺麗に纏められ、いつもとは違う香織が居た。
「奇遇だね。まだ集合時間じゃないけど、ここで何してるの?」
「いや……暑かったからアイスを」
正宗は思わず見惚れてしまった。同じ高校生がここまで変身できるものなのか、と思ってしまった。それくらい香織は綺麗だった。
「アイス!私も食べたいな。士道くんは何のアイス食べたの?同じの食べよ!」
何かいい香りがした。
正宗がドキドキする中、香織は意地悪そうな顔を近づけてきた。
「で、どう?」
「どうとは?」
「この前言ったでしょ。男子目線で私の浴衣の感想教えてねって。どう?どう?可愛い?」
そんなやりとりを遠目で見ながら沙織は「あー……」と頭を抱えた。香織の正宗に向けるその表情は星奈と同じでまさにそれだった。
「……星奈、ちょうど今香織と合流したんだけど、その、士道くんデレデレしてる」
ぶちん、と電話がきれるのだった。
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