第30話 夏祭りの準備〜旭星奈と柳瀬香織〜
世は師走だけど『夏祭り編』スタートです。
八月も半ばに差し掛かり、夏祭りの季節がやってきた。大通りの至る所に屋台が並び、通る人は浴衣姿で賑わっている。
夕方、柳瀬香織は母親に手伝ってもらい浴衣の着付けをしていた。
「どうしたの香織、突然浴衣着るなんて言い出して。今日はクラスのみんなの集まりでしょ?いつもなら適当な服着てるのに。もしかして今日の集まりに気になる男の子でもいるの?」
その言葉に香織は「まあねー」と軽く返事をする。香織的にはなんてことないのだが、母親は違う。娘のそういう話は大好物だ。
「え!え!香織、あなたついに本気の恋をしたのね!?わざわざしまい込んでたお母さんの浴衣を引っ張り出すくらいだもの」
「へ、変なこと言うなし!……そんなんじゃないんだけど、その、最近気になってきたっていうか」
「んー!良いわ!そういうウブな感じ、お母さんにもあった!ちなみにお母さんの初恋はお父さんよ?」
「それはどうでもいい情報だわ」
母と娘は恋バナに花を咲かせる。
「お母さんね、心配してたのよ?香織、見てくれはそんなに悪くないのになかなか彼氏作らないから、もう諦めたのかと……」
「別に諦めてないわよ!ただピンとくる人がいなかっただけ。今回もあー、なんかいいなーって直感で思っただけで」
「その直感、大事にしなさいよ。はい、できた。どう?」
帯を締め、香織は姿鏡の前に立つ。変身した姿を見て香織は「ほう」と自分に見惚れる。自分大好き自惚れと言われても仕方がないがこれは自分でもイケてると思う。
香織は正宗がこの姿を見てどういう感想をくれるか俄然楽しみになった。
だがそれと同時に罪悪感も生まれていた。
香織は星奈と友達だ。そして星奈と正宗は付き合ってはいないと言ってはいるが、多分、というかほぼ間違いなく星奈は正宗のことが好きだ。でないとあの距離感は説明がつかない。
そこに自分という横槍が入るのだ。友達の想い人(香織の中では未確定情報ではあるが)をとろうとしている。場合によっては星奈との友情に亀裂が入るかもしれない。
「一応、星奈には言っとこうかな。付き合ってないって言ってたけど、万が一があるからね。星奈との友情が崩れるのは嫌だし」
「あら、香織の気になってる男の子って、星奈ちゃんも気になってる男の子なの?まさかの三角関係?」
香織が独り言でつぶやいていたのを母は聞き逃さなかった。
「まあ好きな子をめぐって女子が争うのはよくあるからねえ。でも星奈ちゃんが相手かぁ。いくら香織でもキツくない?」
「ちょいとどストレートすぎないかな?」
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部屋に戻り、香織は手提げに荷物をまとめる。と言っても持っていくものは財布とその他雑多なものくらいなのですぐ終わった。
スマホの充電が終わっているのを確認して充電器を抜くと、メッセージが来ていることに気付いた。
「あ、星奈からだ。なんだろ」
――――電話できる?
「あー……これ察したやつかな」
香織は星奈に電話をかける。星奈はワンコールで出た。
「もしもし?」
「や、星奈どうしたの?」
「あー、んーと……今日クラスの皆でお祭り行くんだよね?」
「うん、そうだよ。――――ねえ星奈。私ね、士道くんも夏祭り誘ったの」
「あ、体育館で誘ってたの香織だったんだ!あー、そっか、そうだった。香織今士道くんと同じクラスだった……」
「それでね、今日久々に浴衣だしたんだけど、士道くんに私の浴衣の感想教えてねって約束したの」
電話の向こうで「ひゅ」と不思議な音がしたような気がした。星奈は「そ、そうなんだ?」とすました感じで返事を返すが、明らかに動揺していた。
「星奈、士道くんと結構仲いいから。でも付き合ってないって言ってたから大丈夫かなって思ったけど一応……ね。私、今士道くんのこと気になってるの。今日の夏祭りのどっかで告白しようかなって思ってる」
「……そ、そっか。香織、士道くんのこと好きなんだ。そっかー。い、いいんじゃないかな?別に私に報告しなくても」
へえ、いいんだ。
香織は星奈の返事に驚いた。もう少し食い下がってくると思ったがあっさりとしていたので少し拍子抜けだ。
「また星奈に報告するね?」
「うん……」
「星奈は今日の夏祭りいかないの?」
「沙織もそっちのクラスの集まりに入ってるからなー、今年の夏は家で家族でまったりしてるよ。また秋にも祭りあるし」
「そっか。じゃあまた連絡するね」
電話を切り、香織はスマホを握りしめる。もしかしたら自分のしていることは友達を後々泣かせることになるかもしれないし、なんなら友達関係が終わる可能性もある。
でも、それを天秤にかけても「好き」という想いは勝る。香織は初めての感覚にワクワクしていた。
「これが恋かー」
星奈も自室でスマホを握りしめて俯いていた。最近香織の正宗に対する距離が近づいていると思い気になって電話をかけてしまったが、まさかの事態になった。
「香織、士道くん好きだったかー。てかあの誘いしてたの香織だったのか。ちゃんと見てなかったから気づかなかった。どうしよう……香織、可愛いからな。あんな子に告白なんてされたら士道くん一発で墜ちちゃうんじゃないかな?」
自惚れで正宗は自分のことが好きだと思っているが、ここにきてその自惚れに自信がなくなった。
後輩幼馴染だけでも厄介なのにここにきて友達が出てくるとは。
「士道くんて、実はモテる男子?まあそうか、士道くんすごくかっこいいし優しいし一緒にいて楽しいし実は体バキバキだし勉強熱心だし」
星奈の不安は増長する。もし、本当に友人に想い人をとられたら、はたしてその友人と友人を続けられるだろうか。
前までの星奈なら大丈夫だったかもしれないが、今は無理かもしれない。
「あ、そうだ」
星奈は沙織が香織たちと同じクラスだったことを思い出し、電話をかける。
本当は沙織と夏祭りに行きたかったが、沙織は今年はクラスの集まりのほうを先に約束したため、今年は泣く泣く諦めた。
「あ、もしもし沙織――――」
正宗と香織がくっつくのを見たくない。でも、香織との関係が拗れるのも嫌だ。星奈は色んな葛藤と戦いながら親友に電話するのだった。




