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ドロップアウト  作者: 野良猫
朝活仲間と幼馴染
27/39

第27話 よろしくお願いします

 期末試験が終わり、正宗たちは夏休みに突入した。正宗は大道卓球道場と合流して練習を開始する。


「この遠征期間限定ではあるがうちの生徒として練習に参加する士道正宗だ、みんな仲良くしてやってくれ」


 正宗は拍手で迎え入れられる。遠征に参加しているのはほとんど中学生で、全員がその世代での強豪選手だった。


「正宗、現状をみたいからお前はおれと一緒に来てくれ。ほかは予定通り、午後から練習試合だ」


 正宗は大道についていく。


 台につき、正宗はサーブを打つ――――が、空振った。


「あれ?」


 もう一度打つ。また空振る。次は角に当たる。その次はうまくいったと思ったら大きく動きすぎてラケットが球を越えてしまいグリップに当たる。


「あー……なるほどな。正宗、中学のころの感覚で打つのを辞めなさい。二年前と比べて身体は大きくなってるし、見た感じ筋肉量も段違いに増えてるみたいだから。もう少しコンパクトに動くようにイメージしてみよう」


 そんな感じで練習を積み、卓球漬けの日々を過ごしていた。そして遠征最終日、大道卓球道場は呉翔陽との練習試合を予定していた。


 正宗は一足早く体育館に入る。


「ちわー」


「おー、来たか天才くん。どうよ調子は?」


「ぼちぼちですね。中学のころと感覚のズレがあって修正が大変ですよ。今日はよろしくお願いします」


 正宗は松田先輩や小田桐先輩と握手を交わす。


 背後でガシャン、と大きな物音がした。大量のピン球が体育館に散らばり、女子たちの悲鳴が上がる。


 皆がピン球を拾って回る中、一人波瑠だけ立ちすくんでいた。


「先輩……?」


「よ。波瑠、ピン球拾わなくていいのか?」


「え?何しに来たんですか?え?そのカバン……え?先輩、もしかして……」


「卓球、もう一回やるよ」


 正宗は少し照れながら言う。


 その言葉を聞いた波瑠は正宗に抱きついた。顔は涙と鼻水でグチョグチョだった。


「ぜんばいー!ううー!もどっでぎだあぁー!」


「あ、おい!波瑠!うわ、きたな!おい、鼻水!あーもうちくしょう!離れろ!」


 正宗は波瑠を引きはがす。


「色々言いたいことはあるとおもうけどさ、こっからはプレーで語ろう。あの頃みたいに」


 波瑠は嬉しかった。幼い頃卓球の世界に引き込んでくれた大好きな先輩がまた戻ってきてくれたことがたまらなく嬉しかった。もう一度打とうと言ってくれているこの事実がたまらなく嬉しかった。


「電話の件、色々ごめんなさい」


「おれも悪かった。波瑠が気を回してくれたおかげで復帰の決意ができたんだ。だから、ありがとう」


「あんたたち、公衆の面前でいちゃついてんじゃないよ。士道くん、あんた何しにきたのよ」


 瀬能先輩に頭を叩かれる。瀬能先輩はあきれ顔で後ろを指さす。二人は顔を上げて周りを見ると、部員たちが微妙な表情で見ていた。女子たちは「きゃー!」と黄色い悲鳴を上げ、男子たちは妬みの表情をぶつけてきていた。


 二人はいそいそと離れる。


「ポテチうすしおBIGサイズ三つね」


「箱買いしますよ」


 そんなやりとりをしている正宗を、遠藤は嫉妬と怒りが入り混じった表情で睨みつけていた。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「よろしくお願いします」


 大道たちが体育館に到着し、練習試合が始まる。各人が台につき、アップを始める。そのタイミングで星奈が体育館に入ってきた。


「あ、旭先輩こっちです」


 波瑠が星奈を呼び出していた。二人で正宗の勇姿をみるために。


「練習試合があるのは知ってたんだけど、今日だったんだね。呼んでくれてありがとね、一ノ瀬さん」


「……ちょっと迷惑かけたんでそのお詫びです。これで帳消しです」


 二人は椅子に座り、正宗の試合を見る。最初は男子との団体戦だ。


 正宗は大道卓球道場のシングル二番だった。呉翔陽のシングル二番は遠藤だった。


 駅でのやりとりを思い出した松田先輩は煽るように叫んだ。


「天才くん、遠藤はうちの二番手で秋からうちのエースだ。遠藤に勝てたらエース兼即レギュラーを認めよう」


「な!先輩なにいってんすか!」


 遠藤は慌てる。


「なに慌ててんだよ遠藤。相手は二年もブランクのあるやつだぞ。勝てばいいだけだ」


「くそ……やるよ、やればいいんだろ。日本一って言ってもいっぺんはドロップアウトしたやつだ。負けるはずない」


 遠藤のサーブから試合が始まる。シングル一番二番が同時にスタートしたが、体育館の面々の視線は全員正宗の台に注がれていた。


 正宗は甘く入ったサーブを二球目攻撃で決める。


「は?」


「うん、よく動く」


 正宗は自分の動きに満足する。修正ができているのをしっかりと感じる。


 正宗はドライブ、スマッシュと次々に決めていく。時折サーブミスはあるが、それだけで、遠藤を圧倒していた。


「すご……」


「遠藤って県でもベスト八に入る選手だぞ?それをここまで圧倒するのか」


 周囲がざわつく。その中に星奈たちも入っていた。


「うわー……先輩容赦ない。二年のブランクを感じさせないなー」


「やば……めっちゃカッコいい……!」


 そんな中、遠藤は絶望していた。


 ――――二年だぞ……!こいつは二年もフラフラしてたんだぞ!その間おれは必死の思いで練習重ねて県もベスト八に入って、次こそは全国確実って言われて……それをこんな簡単に!?これでまだ調整中なんだろ!?これが天才と凡人の差なのか!?


 遠藤は右へ左へ振り回され、正宗との差をまざまざと見せつけられていた。


「ふっざけんな!」


 遠藤は正宗の反対に鋭い一球をお見舞いする。遠藤は決まったと思って一瞬気が緩んでしまった。それにより反応が遅れた。


「ふっ!」


 正宗は身体を一回転させて後方からそれを撃ち抜いた。


「あ……」


 体育館中に歓声が響き渡る。正宗は小さくガッツポーズし、遠藤はその場に崩れ落ちた。正宗は三対零でストレート勝ちした。


「これは福山国際の葉山くんともいい勝負しそうだなぁ。士道くんが加入したら遠藤、士道くんのツートップで久々の団体全国が見えてきそうだよ」


 小田桐先輩は試合の様子を見て頷くのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 試合が終わり、荷物をまとめているところに遠藤が近づいてきた。遠藤は正宗を指さし「絶対に越えてやるからな!」と捨てゼリフ?を吐いて体育館を出ていった。


 松田先輩は苦笑いしながら「悪いな」と正宗の肩をたたいて遠藤のフォローに向かうのだった。


 星奈は自販機でジュースを買い、一口口にする。体育館のほうを覗くと正宗が女子卓球部員たちに囲まれているのを見つけた。


「ねえ士道くん、今度クラスのみんなで夏祭り行こうって話あるんだけど、士道くんもどう?誘おうと思ってたんだけどクラスのグループに士道くん入ってなかったから」


「あー、と……いいよ。行くよ」


 囲んでいる女子は正宗と同じクラスメートのようだ。星奈は聞き耳を立てる。


「ほんと?じゃあ集合場所とか連絡するから連絡先交換しよ?」


「あ、うん」


 星奈は正宗のクラスメートの女子の鮮やかな連絡先交換の手腕に驚いた。星奈が正宗と連絡先を交換するまでに二カ月はかかった。


「旭先輩、これは事件ですよ」


「ひゃ!?」


 突然声をかけられて星奈は驚いて仰け反る。


「い、一ノ瀬さん!?びっくりしたぁ」


「夏休みはほぼ一ヶ月、先輩と会えなくなるんです。本来なら私たちが先輩を誘って仲を深めていかなければならないというのに、よく分からないクラスメートの女子というぽっと出に夏祭りというイベントを掻っ攫われてるんですよ。焦ったほうがいいですよ」


「確かに……」





 夏休み。


 今年の夏は何かが起きそうな、そんな気がする星奈だった。

いったん一区切りです。

ここまで温かい目でお付き合いくださりありがとうございました。

夏休み、大会、文化祭、修学旅行と学生はイベントがたくさんあるので引き続きお付き合いいただければと思います。

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