第25話 頑張るよ
七月に入り、本格的な夏がやってきた。夏の青空に蝉の鳴き声が響き渡る。朝六時、すでに空は青くなっており、夏の朝はやはり人の往来がいつもより増えていた。
「日中暑いからみんなそうなるよね」
最近の朝は非常に快適だ。日中のうだるような暑さを想像したらこの時間はボーナスタイムといってもいいだろう。
星奈は日課の早朝勉強のために相変わらず早い登校をしていた。今までと違うのは今は一人で勉強しているというところだ。
一人ぼっちの教室はやはり寂しかった。勉強をしているだけだから別に問題はないのだが。
「……全然会えない」
星奈は何度か正宗に接触しようと試みていた。が、ことごとくすれ違ってしまっていた。最近は放課後もすぐにいなくなっており、大我や正宗と同じクラスの沙織に聞いても知らぬ存ぜぬ。
「士道くん……」
星奈は今日も誰もいない教室で勉強をする。教室の入り口まできたところで、星奈は誰もいないはずの教室の灯りがついていることに気づいた。
「あれ?」
星奈は誰か来ているのかと思い教室を除く。そしてペタンと隠れるように尻もちをついた。
教室にいたのは正宗だった。一人静かに教室の窓から外を眺めていた。
星奈は恐る恐る教室に入る。
「し、士道くん……久しぶり」
「うん……ほんと久しぶりだ。勉強会、これなくてごめんね」
星奈が席に着くのを確認して正宗は隣の席を借りて座る。
沈黙。そして星奈のほうから切り出す。
「べ、勉強しよっか。明日英単語の小テストあるけど、士道くんちゃんと勉強した?」
「え……」
正宗の顔が青ざめる。それを見て星奈は思わず吹いてしまった。
「ぷっ……あはは。士道くん、やっぱり小テストのこと忘れてた。いっつも私が教えてあげたんだか……ら……」
笑いながら話す星奈だが、最近正宗と話せてないのを思い出して段々と声がしぼんでいく。
「旭、あの日のこと、本当にごめん」
正宗が頭を下げていた。
「せっかく楽しかったのに水をさすような態度とってごめん」
「あ、えっと、その、こちらこそごめんなさい。調子に乗って士道くんのプライベートに土足で踏み込んで。自分がされたら嫌なこと士道くんにしてた。本当にごめん」
星奈も頭を下げる。
「旭が踏み込んでくれたおかげて、色々と決心がついたというかなんというか……あの日、あんなふうに嫌な態度をとってしまったのには理由があって――――」
正宗は星奈に自分の過去を話し始めた。波瑠も知らない、一部の先輩しか知らない正宗の過去の出来事。正宗は星奈には知ってもらいたかった。知ってもらった上で、報告をしたかった。
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話を聞いたあとの星奈は悲しい顔をしていた。
「ごめんね、士道くん。そんな過去があったなんて知らずに、私……」
「それでおれ……もう一度卓球やろうと思うんだ。色々あったけど、全部ひっくるめてやっぱり卓球が好きだから。あの時はクソなんて言ったけど、やっぱり好きだから……あと、旭があの動画、カッコいいって言ってくれたから」
「へぁ」
星奈は変な声が出た。まさかそれが理由になるとは思わなかった。
「そっか、士道くん卓球するんだ。じゃああのカッコいい士道くんがこれから見れるかも……?」
星奈はボソボソと独り言をつぶやく。
星奈はふと気になったことがあった。波瑠の事故で気持ちがバレてしまった件だ。
このままの勢いで正宗に聞いてしまおうと思ったが、すんでのところでとどまった。
――――士道くんが何も言わないってことは今は触れてほしくないってことだろうから。これから卓球も始めるし、心を乱すようなことはしないようにしよう。
星奈はその代わりに心から思っている一言を投げた。
「頑張ってね」
「ありがとう、頑張るよ」
「あ、あと」と正宗は付け加える。
「朝は勉強会できるけど、放課後は道具を新調したり体動かしたりして準備するから勉強会できないかも」
そう言ったら星奈が食いついてきた。
「道具の新調?」
「うん、この前見た時ラケットのラバーの状態が良くなかったから張り替えようと思ってて。練習着とかも全部サイズアウトしちゃってたから買い替えないといけないし」
「……ねえ、士道くん。一つお願いしてもいいかな?」
「お願い?」
「道具を買いに行く時、一緒に行ってもいいかな?その、士道くんのする卓球についてもっと勉強したいし……その、士道くんのすることは私も知りたいというか……」
「う、うん……いいよ」
久々に放課後イベント「ショッピング(卓球用品店)」か決まった。




