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ドロップアウト  作者: 野良猫
朝活仲間と幼馴染
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第23話 それぞれの想い

 家に帰った正宗は、制服を脱ぎ部屋着に着替える。荷物を片付ける最中、押し入れに目がいった。そこには卓球道具が静かに眠っていた。


 正宗は押し入れに手をかけ、ゆっくりと開ける。そこには埃を被った黒いバックがぽつんと置いてあった。


 正宗はバックを取り出し、外で埃を払う。


「はは、懐かしい」


 カバンの中からラケットケースを取り出す。ラケットのグリップを握り、二年前を思い出す。


「随分握ってなかったのに、なんかしっくりくるな」


 練習着やシューズはサイズアウトしているからもう使えないな、なんて思いながら正宗はカバンをあさる。


 カバンのそこからボロボロのノートが数冊出てきた。表紙には「卓球ノート」とかかれ、中には卓球を辞めるまでの練習の記録が記されていた。


 そして所々インクが滲んでいた。


 汗……だけではない。ここには涙もあった。まさに四面楚歌だったあの環境で、出来上がっていない中学生が一人で戦うにはつらかった。


 頼れるはずの親は結果だけを求め、チームメイトには敬遠され、コーチたちはとにかく鬼だった。


 思い出すだけで動悸がし、息が切れる。


「一人じゃない……」


 正宗は瀬能先輩の言葉を思い出す。段々と呼吸が整い動悸がおさまる。


「二人に謝らないと。一人で勝手に不機嫌になってぶつけたんだから」



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「お前はバカなのか」


 昼休み、大我は星奈との出来事を聞いて呆れていた。


「お前の過去のことはよく知らんが、告ると決めた相手に何イライラして拗ねてんだ。拗らせすぎだバカ。せっかくのチャンスを不意にしやがって。すぐ謝れ。じゃないと自然消滅するぞ」


「謝る!謝るよ!だけど、その、タイミングとかだな……」


「いや、お前ら勉強会してんじゃん。その時に一言ごめんで終わりだろ。そんでさっさとくっつけ」


 大我は面倒くさそうに話す。


「いいか正宗、もう言われてるかもしれないがもう一度言うぞ?旭さんはお前が思っている以上に男子に人気の女子だ。今はお前らが付き合ってると思っているからみんな身を引いているだけで、もし少しでも隙を見せようものなら学校の男子どもがすぐに掻っ攫いにくるぞ?それが嫌なら早く仲直りしてすぐにでも想いを伝えろ」


 正宗は「あ……」と何かを思い出したかのように声を出す。


「どした?」


「おれ、クラスの女子に旭と付き合ってないって、友達だって言ってる……これ、男子に伝わったらやばい?」


 大我は「あぁー」と頭を抱える。


「お前、なんでそういうのははっきり言えるんだよ……」


「星奈の話?」


 横から沙織が割って入ってきた。


「ちょうどいいわ、士道くん。今日の昼休み、星奈同じクラスの男子に呼び出されてたよ」


 青天の霹靂だった。正宗は開いた口がふさがらない。どうやらちゃんと伝わっているようだ。大我は「まあ、頑張れや……」と正宗の肩を叩くのだった。


「今気まずくなってるのは星奈に聞いてるよ。人には触れてほしくないところの一つや二つあるものだから、そこに無理矢理踏み込んだ星奈が悪いけど、それだけで気まずくなって終わりっていうのもなんか後味悪くて嫌でしょ。星奈もちゃんと反省してたからさ、お互い謝ってなんとか仲直りしなよ。そんで早くくっつきな?じゃないと星奈は男子どもに呼ばれ続けるよ」


 沙織は「余計なお節介かけるけど」と一言つけた。


「ちなみに士道くんの幼馴染後輩ちゃんの事故で星奈の気持ちはもう知ってるんだよね?」


 正宗は頷く。


「両思いとわかってなおクヨクヨする男は……キモいぞ。あ、帰ってきた」


「え、キモい……」


 正宗の「ガーン」な反応はフル無視で沙織は教室に入ってきた男子生徒に視線を移す。


 教室に泣きそうな顔で帰ってきたのはサッカー部の男子だった。今回星奈を呼び出して告白したのはこの男のようだ。


「あの様子だと星奈にフラれたみたいね。まあ分かってたけど。ただこれがいつまでも続くと思ったら駄目よ」


 正宗はサッカー部員の行動力には感心した。


「……凄いよな、すぐに想いを伝えれるって」


「感心してんな!?あれ、君の想い人に告白してるんだからな!?」


 大我と沙織は「じゃあさっさと告れ」と思わずには居られなかった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 星奈は昼休み、ほとんど面識のないサッカー部の男子に呼び出されて告白された。告白されたのは正宗と勉強会をしだした一年の秋以来だった。


「旭さんのことが好きです!付き合って下さい!」


「え、と……」


「旭さん、クラスの女子に聞いたんだけど士道とは付き合ってないんだよね?」


「あー、えっと、うん、そうだけど……」


「その、おれ、実は一年の頃からずっと気になってて、でもずっと士道といたから付き合ってると思って諦めてたんだけど、最近二人は付き合ってないってこと知って、それだったら想いを伝えてもいいかなと思って」


 まさかの正宗が男避けになっていた事実を知り驚いた。確かに付き合ってはいない。付き合ってはいないが――――星奈の気持ちは今ははっきりしていた。


「その、ごめんなさい。あなたとは付き合えないです」


「他に好きな人がいるとか?」


 星奈は頷く。男子生徒は「やっぱそうかー」と悔しそうな顔をして、星奈に「時間とってごめん、聞いてくれてありがとう」と言ってその場を去った。


 星奈は大きく息を吐いて近くの壁にもたれかかった。


「そっか、私、皆に士道くんと付き合っていると思われてたんだ」


 それが現実になればどれほど嬉しいか。だがそれを現実にするのは今は厳しい。今は卓球の件で正宗とはぎくしゃくしている。勉強会もしてないし話してもない。


「どうしたらいいんだろ」



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 波瑠は屋上で一人ジタバタしていた。


「やばい、どうしよう。インターハイシングルス落とした以上にやばいよ」


 ユニフォームを脱いだ彼女は今は卓球選手ではなくただ普通に恋する普通の女子高生だった。


 正宗への想いがバレてしまった。今までは想いは秘めて先輩想いな後輩キャラで通してきたが、バレてしまった。


「これからどういう顔して先輩に会えばいいんだろう?てか先輩に対してあの態度はマズいよね、絶対怒ってるよね……嫌われたりしないよね?」


 波瑠は頭を抱える。


 正宗に嫌われてしまったらこれからどう生きていけばいいのか。正宗への恋が色んなことの糧になっているのは間違いないから。


「はっ!もしかしたらあれで先輩私のこと意識してくれるようになったり……!?でも、電話で怒鳴っちゃったし、あんなことする後輩絶対嫌われる……」


 浮いたり沈んだり、情緒が不安定だ。波瑠はメンタルに非常にムラがある。いいときはとことんいいが、悪いときはとことん悪い。


「いや、そもそも何も言わずにいなくなって私にも言わずに卓球を辞めた先輩が悪い!」


 今度は責任転嫁。


 波瑠は一通り感情を吐露したところで「何してんだ私」とため息をついた。


「インターハイも落として、先輩とも気まずくなって、なんか凄く空回りしてる気分」


 波瑠はこういうナイーブな状態になったときはいつも練習をして気を紛らわせていた。波瑠の足は自然と体育館の方に向かっていた。


「まあ、いつも通りで行こう。きっとなんとかなるでしょ」



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