第20話 落ち着け、大丈夫
大会当日、正宗は駅で星奈と待ち合わせをしていた。今回の大会は呉から離れた場所であるので、少々遠出の応援となる。
正宗はこの日、星奈に想いを伝えると決めていた。ノープランはさすがに無謀だったので、大我に協力してもらって考えた。
「波瑠には悪いが、今日はおれも勝負なんだ。許せ……」
「何が勝負なの?」
突然声をかけられ正宗は飛び跳ねる。振り向くとそこには星奈がいた。今日の星奈はワンピース姿で、よく見たら少し化粧もしていた。
――――旭が化粧って、初めて見たかも
勘違いかもしれないが、正宗は自分と出かけるためにオシャレをしてくれていると思うとムズムズした。
「な、なんでもないよ。あ、切符買ってくる!」
正宗は誤魔化すように切符売り場に行った。星奈は正宗の背中を見ながら髪をくるくるいじる。
「ちょっと頑張ってみたんだけどな。士道くん何も言ってくれなかった」
二人は切符を購入して電車に乗る。電車に揺れること約一時間。そこからさらにバスに乗って十五分。ようやく試合会場に到着した。
「疲れたぁ」
星奈は体育館まえのベンチで燃え尽きていた。
「普段遠出しないからなかなかキツイよ」
正宗は自販機でオレンジジュースを買って星奈に渡す。星奈はそれに驚く。
「オレンジジュース、好きだよね?……あれ、違った?」
「ううん、好き。ありがとう」
星奈はオレンジジュースを飲み、正宗と体育館に入る。体育館の中ではすでに試合が始まっており、熱気と歓声につつまれていた。
「呉翔陽はBブロックだから東コートで試合してるみたいだよ」
東コートに行くと、波瑠たちはちょうど一試合目を終えたところだった。ステージに掲げられている結果をみると、三対零で勝っていた。
「あ、勝ったんだ」
「多分次が鬼門だよ。相手はいつも全国の切符を争っている福山国際だから、ここからが本番じゃないかな?」
「……士道くん、よく知ってるね」
「え、あ、いやー……波瑠に聞いたんだよ」
「ふぅん……あ、すぐに試合始まるっぽいよ?」
―――――――――――――――――――――――――――――――
波瑠たちは初戦を難なく勝ち抜き、二戦目の福山国際と睨み合う。瀬能先輩は福山国際のオーダー表を見て眉をひそめた。
「おう……なんて読むの?」
「あぁ、王梓晴よ。今年から入ってきたウチのエース。中国からの留学生で本場仕込みだからちょー強いよ」
瀬能先輩は福山国際のキャプテンと話す。瀬能先輩はベンチに戻り、中国人留学生のことを話す。同世代の波瑠は王を見る。王も波瑠を横目に見ていた。
「負けられないですね」
「シングルであたるから、絶対に勝ってよ」
「はい!」
シングル一番、二番の波瑠と瀬能先輩が台の前に立つ。福山国際も王とキャプテンが出てくる。他校の生徒や観客たちの視線は東コートに集まる。ステージに座る運営の大人たちも注視する。
波瑠は大きく息を吐いて構える。最初のサーブは王だった。王は横回転のロングサーブをする。波瑠はそれをドライブで打ち返す。
「――――!」
回転量が目に見えている以上だった。球はネットを越えることなく跳ね返って横に飛んでいった。
「うわ……」
一球で理解した。王梓晴という選手は相当に強い。それも全国に出てもトップを争うであろうほどに。波瑠もその人間の一人だから、理解できてしまった。
構える波瑠の表情を見て王は煽るようにニヤリと笑う。波瑠はカチンと来た。
波瑠は王のサービスをキレッキレのチキータで返す。王はそれをかろうじて返球するが力はない。波瑠はそのチャンスを逃すことなくしっかりときめる。
「サッ!」
「「ナイスボール!」」
ベンチの掛け声とともに波瑠も声をあげる。王から煽るような笑顔はなくなっていた。
「ナメルナ」
カタコトでそう呟いてから王のギアが一段アップした。波瑠はその勢いに圧倒され、なすすべもなく一セットを先取された。カウントは十一対五だった。
監督の指示を受け、コートチェンジをして二セット目に臨むがやはり勢いを止めることはできず、波瑠はついに一点で完全に抑え込まれてしまった。ちなみにこの一点は王のサーブミスの一点だ。
今まで同世代の頂点に立ち続けていた波瑠にとってこれは初めてだった。瀬能先輩に負けたときとも違う、圧倒的な差をつけられての敗北。
「……っ」
波瑠は勝ちをイメージできなかった。頭が真っ白になり、監督やチームメイトの声が入ってこない。手足の感覚がなくなったようで、今にも崩れ落ちそうだ。
今まで陥ったことのない事態に困惑する。
「あ――――今日は先輩が来てるはず……」
波瑠は観客席を見渡し、正宗を探す。こんな情けない姿を見せてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいだが、それ以上に助けてほしいという思いで、縋るように探した。
そして見つけた。
「あ……」
正宗は波瑠に手のひらを見せて、真ん中をグッと押す動作を見せた。そして、何かをしゃべっていた。波瑠は正宗の口の動きを読む。
――――お・ち・つ・け、だ・い・じょ・う・ぶ
波瑠はおまじないを思い出した。ラケットを置き、手のひらの真ん中を押す。
「ありがとうございます、先輩」
波瑠の目に光が戻った。負の思考は消え去り、体が軽くなる。
三セット目、波瑠の反撃が始まる。ここまで打ち合いで完敗だったが、徐々に波瑠の攻撃が通るようになった。
最後はミドルにスマッシュを決め、王は反応しきれず、ラケットは空を切り、球は王の腹にボスッと当たって床を転がっていった。
「よし!」
波瑠は拳を握る。
そして四セット目はこれまでとうって変わって立場が完全に逆転する内容となった。波瑠が最初にやられた内容をそっくりそのままお返しした感じだ。これには流石に王も苛ついていた。
福山国際のチームメイトが王をなだめる。その間に隣から歓声が聞こえた。
瀬能先輩のほうは決着がつき、三対一で瀬能先輩が勝利した。ベンチに戻る際に波瑠のほうに寄り、「必ず勝ってよ」と一言投げられた。波瑠は頷き、ファイナルセットに赴いた。
「さて、考えて一ノ瀬波瑠。私の尊敬してやまない士道先輩はこういうときどんなプレーをする?」
王がネット際短いサーブを繰り出す。いつもならツッツキでラリーに持ち込むのだが、波瑠は攻めることを選択した。
フリックで即ラリー戦に持ち込み、三球目を反対にきっちりと決める。
「先輩ならより直球に攻めるよね。正面突破が卓球の醍醐味だって先輩言ってたし」
初手で流れを掴んだ波瑠は決めるべきところをしっかりと決め、得点を重ねていく。王もなんとか食らいつこうとするが、勢いづいた波瑠を止めることはできなかった。
最後は波瑠が綺麗にドライブで打ち抜いて試合が終了した。
王は悔しそうな顔で波瑠を睨み、何も言わずにベンチに下がった。
波瑠もベンチに下がり、チームの歓迎を受ける。それと入れ替わりで瀬能先輩たちがダブルスでコートに出た。
「さあ、とるよ!」
正宗は波瑠が勝ったのを見届けて星奈に「ちょっとトイレ」と言って席を外した。
トイレで用をたし、手を洗いながら正宗は波瑠の試合のことを考えていた。
「波瑠のやつ、相変わらずのスロースターターだな。勝ったからいいけど、最初の動きが悪すぎだろ。おれだったら――――あ」
正宗は波瑠の試合を見て「自分だったら」と考えてしまっている自分に気づき、顔をハンカチで覆った。
「何考えてんだおれは。もう辞めたんだから……」
呉翔陽学園はそのまま予選リーグ全勝で一位通過し、決勝トーナメントも難なく乗り切り、団体のインターハイ出場を決めた。
この世界でのインターハイ出場ラインは団体戦は優勝、シングルスはベスト四以上、ダブルスは準優勝以上。
地方大会出場ラインは団体戦は五位以上、シングルスはベスト十六以上、ダブルスはベスト八以上。
他にも細々したルールはありますが省いてます。




