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ドロップアウト  作者: 野良猫
朝活仲間と幼馴染
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第2話 後輩兼幼馴染

「ただいまー。お母さん、今日はごめんね?」


 星奈はマフラーと上着をラックに掛けながら謝罪する。星奈の母親は「次からはちゃんと連絡しなさいよー」と一言言ってリビングでドラマを観るのに集中していた。


 星奈はその様子を見て小さく笑いながら自室に入る。


 部屋着に着替えた星奈はスマホ片手にベットにダイブし、写真フォルダを開く。そこには正宗とのツーショット写真が数枚あった。


「ふふ……今日は送ってもらっちゃった」


 星奈は写真を眺めながら今日のことを思い出す。「送ろうか」と言い出したときの正宗のセリフ回しは星奈の中では百点だった。


 あんな風に気にしてくれるだけでいい。余計なカッコつけとかいらない。


「いつも一緒に勉強してくれるし、今日だってあんなふうに送ってくれるってことは……期待してもいいってことかな?していいのかな?していいんだよね?」


 きゃー、と星奈はスマホを抱きしめる。


 星奈もまた、最近になって正宗のことが気になってきていた。正宗ほどではないが「気になる異性」で、付き合ってもいいかなという感じだ。今はふと見せてきた正宗の優しさにときめいている今時のティーンガールだ。


「……まてまて星奈、早とちりはよくない。士道くんは基本別け隔てなく優しいから、今日だって純粋な優しさからなのかもしれない」


 星奈は冷静に分析する。そしてため息をつく。


「私らしくない。変な事を考えるのはやめよう。変に期待して落とされるのは嫌だもんね」


 この気持ちは静かに胸の内に留めておこう、と星奈はスマホを充電器に挿し込み、夕飯を食べにリビングに行くのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 翌日、星奈はいつも通り早朝に登校し、教室で正宗を待っていた。正宗はいつも通り、ジャージ姿で教室に入ってきた。


「おはよう――――?」


 正宗の表情は心なしか暗かった。正宗は「おはよう」と挨拶を返し、カバンから教科書を取り出す。席に着いたときにはいつも通りの表情に戻っていた。星奈は気のせいだろうと言い聞かせ、気にするのをやめた。


 そして放課後、正宗の表情がなんとなく暗かったことの理由が明らかになった。


「……まじかよ」


「お久しぶりです、先輩!私、ここに入学が決まったんで、今日から部活に参加させてもらいます!」


 放課後、体育館の横にある自販機でジュースを買っていた正宗の目の前に明らかに高校生ではない少女が現れた。茶髪交じりのショートボブの可愛らしい少女で、様子をみるからに二人は知り合いのようだった。


「昨日の電話、本当だったんだな。冗談だと思いたかったのに……」


「何言ってるんですか。私は先輩と一緒じゃないと卓球はしませんよ」


 星奈は正宗を放課後の勉強に誘おうとしていたが二人のやり取りをみて物陰に隠れてしまった。


「……?何故私は隠れて?」


 そして次の光景を目にして星奈はピシッと固まる。


 少女は正宗の腕に組み付き、猫のごとくすり寄っていた。体をこれでもかというくらい密着させ、色々なところが当たっていた。


「先輩、久々に一緒に打ちましょうよー」


「おいこら、一目のつくところでそんな密着するな。そんなだから彼氏出来ないんだろ」


 正宗は口ではそう言ってるがあまり嫌がってるようではなかった。星奈はなぜかそれが嫌だった。星奈は物陰から飛び出し、二人に近づく。


「士道くん、何してるの?」


「!?あ、旭!いつからそこに……?」


「そこの子が士道くんにすり寄っていくとこから。ねえ、君、ここの生徒じゃないよね?一応部外者は立ち入り禁止なんだけど」


「あ、こいつは……」


 正宗が言おうとしたところで少女が制止し、自ら名乗った。


「申し遅れました。私、この四月から呉翔陽学園スポーツ科クラスに入学予定の一ノ瀬波瑠(いちのせはる)といいます。士道先輩とは幼稚園から一緒にいる、いわゆる幼馴染というやつです。今日からここの卓球部の練習に参加する許可を得て来ているので部外者ではないのでご承知おきください……先輩」


 正宗は二人の間に何かバチバチしたものが見えた気がした。


「先輩、いつまで制服着てるんですか?早く練習着に着替えてください、行きますよ?」


 正宗はその言葉で動きを止める。


「……黙っててごめんな、波瑠。おれ、卓球辞めたんだ」


「……はい?」


 正宗はゆっくりと波瑠を引き離す。波瑠はわけがわからないといった表情で正宗を見る。


「まだ、怪我治ってないんですか?」


「怪我は治ってるよ」


「じゃあ……」


「そうじゃないんだ。これは。ただ、おれが弱かっただけだから。だから、もう、波瑠と一緒に卓球はしない」


「え、いや、待って……先輩?」


 波瑠の目に段々と涙が浮かんできた。正宗はただただ悲しい顔だった。何を言ってもだめだと悟った波瑠は、涙を拭い、荷物を持ってどこかに行ってしまった。


 星奈は目の前で行われた出来事にただ困惑していた。


「えっと、士道くん」


「ごめん、旭。変なの見せちゃった。あ、勉強会?いいよ。今日も図書室でいい?」


 正宗はごまかすように星奈を図書室に連れていく。これ以上はなにも聞かないでくれと言わんばかりに。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 それから月日が経ち、四月になった。正宗と星奈は違うクラスになったが、変わらず早朝の勉強会はやっていた。今はお互いの教室を交互に行き来している。


 波瑠は予定通り入学したが、あれ以来、正宗の前には現れていない。


 それはそれとして、星奈は正宗とここまでなにも進展がないことにヤキモキしていた。


「……さすがに何もなさすぎじゃないかな。まさか本当に勉強仲間だけの立ち位置?」


 星奈はスマホを取り出し、タタタ、と打ち込む。


 ――――集合!


 少しして星奈のもとに女子生徒が一人寄ってきた。


「急に何?」


「……ちょっと相談乗ってほしい」


「!りょーかい。今日の夜星奈ん家遊びに行ってもいい?」


 星奈はコクリと頷く。彼女の名前は伊藤沙織(いとうさおり)。星奈とは中学からの仲だ。


 夜、星奈の部屋で二人はジュースとお菓子を囲って女子会を開いていた。


「え、あんたたちまだ付き合ってなかったの?いつも一緒にいるからてっきりもうデキてるものだと……」


「できっ……!てかなんで知ってるの!」


「え、隠してるつもりだったの?毎朝二人で楽しそうに勉強会してるのとか、たまに一緒に帰ってるのとか、あんな堂々とイチャイチャしておいて何言ってるの」


「い、イチャイチャだなんて……っ!」


 星奈は赤面する。


「……あんたたち、多分両想いでしょ。その気がなきゃ毎日あんな朝早くから星奈の勉強に付き合ったりしないでしょ。なんとなくそんな気はしてるんでしょ?」


 星奈は小さく頷く。自惚れでなければ正宗は自分のことが好きだと思う。


「ここまで一緒にいて何もアクション起こさない士道くんもなかなかチキンだけど、星奈も大概だね。私ならさっさとアタックしてゲットだよ。……もう星奈から想い伝えたら?」


 星奈は首を横にふる。


「うん、それなんだけど――――」


 星奈は正宗と後輩の波瑠との間にあったこの前の出来事について話す。


 一通りきいた沙織はニヤリとする。


「とりあえず言えるのは三角関係が出来上がってるね。向こうは士道くんの幼馴染か。強敵だね」


「え、そうなの!?」


「だってその後輩ちゃん、士道くんを追いかけてわざわざこっちに来たとしか思えないよ?どう考えてもその後輩ちゃん、絶対士道くんのこと好きでしょ。しかも幼稚園からの仲の幼馴染!もう最強オブ最強のポジションじゃん。てか士道くんて卓球してたんだ。うちの卓球部にスポーツ科クラスで来るってことはその後輩ちゃんは全国クラスだね。そんなのと一緒にやってたってことは士道くんて中学のとき卓球の全国プレーヤーだったのかな?」


 呉翔陽卓球部はインターハイ三連覇中の強豪中の強豪である。そこに来た後輩と一緒に卓球をしていたとなれば正宗は相当な腕の卓球選手だったと想像できる。


「でもなんも言ってくれないからな……」


「……うーん、なんというか、あんたたちなんか面倒くさいな」


 ストレートに面倒くさいと言われ、星奈は肩を落とす。


「なかなかきっかけを掴めない悩める少女にイベントを授けよう」


 沙織は星奈にスマホを見せる。画面には地元の花見まつりの案内が映っていた。


「花見イベントよ。桜にかこまれて気分が上がればそういう雰囲気になるんじゃない?」


 盲点だった。こういうイベント事を全く考えていなかった。星奈は画面を見て決意する。


 ――――この花見まつりに誘って士道くんとの関係をステップアップしよう。


 別にすぐに付き合いたいとかじゃないけど、今のままでは何か嫌だと思う星奈だった。

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