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ドロップアウト  作者: 野良猫
朝活仲間と幼馴染
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第18話 修復

 中間試験が目前に迫っていた。正宗はいつも通り、早朝に走って通学し、息を切らしながら教室に入る。


「あ……」


 この日は久々に教室に星奈がいた。久々といっても星奈が来なかったのは一週間程度だが。


「おはよう」


「お、おはよう」


 どこかぎこちない。正宗が席につこうとしたところで「やほー」と沙織が入ってきた。


「え、伊藤さん!?え、はや!?」


「本当だよ、二人っていつもこんな時間にきて勉強してるんだ。これをずっとやってるって思うとなんかもう勉強以外の執念じみた何かを感じるよ」


 沙織はあくびをしながら星奈の隣に座る。


「あ、士道くんは気にしないで。私が星奈に勉強教えてもらうだけだから」


「そ、そうか……」


 正宗は参考書を取り出して勉強を始める。


 ときは先日の星奈と沙織の夜の女子会に遡る。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「え、本当に最近話してないの?」


「うん。何か、気まずくて……」


 星奈と沙織はビデオ通話で女子会をしていた。


「うわー……あれの効果ありすぎだわ。星奈にそんなにダメージがあったとは」


「やっぱあのお題のやつ、沙織だったの?体育祭の日に言ってたプレゼントってあれのことだったのね?」


「嫌だった?」


「別に嫌じゃないけど……すごくびっくりした」


「ちなみにお題は――――」


「それなんだけどね、あの時見えちゃったの」


 沙織は驚く。


「え、見ちゃったの?見た感じ士道くんは星奈にお題を明かすようなことしてなかったから知らないと思ってた。そっかー、知ってたのかー。だから気まずくなったのか」


 星奈は頷く。


「じゃあもう士道くんの気持ちははっきりわかったね。星奈はどうするの?」


「えっと……あれはやっぱり何かの間違い……」


「ないよ。断言する。士道くんはちゃんと星奈のこと好きだよ。あとは星奈が変に自分を誤魔化さなければすぐにゴールインだよ?」


 ゴールイン。星奈はその言葉から色々とステップを踏んだその先までを一気に妄想してしまった。


「おい、そこまでとは言ってないわ。戻ってこい」


 星奈は沙織のツッコミで目が覚める。


「そ、そうだよねー……士道くんの気持ちがそうだとして、私もそうで、でも、どうしても先に進めないの。士道くんには絶対的な壁があるの」


「壁?」


「ちょっと待ってね……今動画のリンク送ったから見てみて。これ、士道くんの動画」


 沙織は星奈から送られてきたリンクを開き、動画を見る。


「え、これ士道くん?全中卓球の動画?うわ、はや!すご。今の士道くんからは考えられないわ」


「凄いよね。この動画の士道くん、凄くかっこよくて、キラキラしてるの。今の士道とのギャップっていうのかな、それがもう凄くて……あ」


 画面越しに気怠げな表情で聞いている沙織に気づいて星奈は静かになった。


「……私は星奈から惚気話を聞かされるために相談にのってるのかな?」


「ご、ごめんね」


「で、この動画が何?何が壁になるの?」


 星奈は正宗と波瑠の関係だったり、自分の気持ちをしまい込もうとした原因のあの光景だったり、正宗にもう一度卓球をしてもらおうと波瑠と画策していること、洗いざらいの説明をした。


 一通り聞いた沙織は「ふーん……」と考える。


「多分、士道くんは心から笑ってくれないと思うの。結局、士道くんの根っこにあるのは卓球だから。一ノ瀬さんには卓球で通じ合うものがあるからあの笑顔を見せるけど、私には見せてくれない。その状態で付き合うのは嫌だ」


「星奈……あんたもう付き合う前提になってるよ?まだ告白イベントも何もないのに」


「はぅ!?いつの間に!?」


「まあ、星奈的にはその後輩ちゃんに見せる笑顔を星奈にも見せてくれるようになったら付き合ってあげてもいいってことね」


「ちょっとその言い方だと上から過ぎない?そうじゃなくて、きっとそれで壁がなくなるから、思い切って想いを伝えることができると思うの」


「めんどくさ」


「ひどい!!結構まじめに悩んでるのに!」


 沙織はけらけら笑いながら「ごめんごめん」と謝る。


「まあ、卓球うんぬんは私はわからないから後輩ちゃんとよく話して頑張ってもらうとして、とりあえず今の状態はよくないのは星奈も理解してるよね?」


 星奈は小さく頷く。


「とりあえず二人がやってる勉強会?これから手を付けてちょっとずつ距離を戻していこう。一応私が原因だし、そこは協力するよ」


「一応じゃなくてしっかり沙織が原因だから。次からはちゃんと言ってほしいな」


「分かった分かった」


 沙織は引き続き企むつもりでいた。そして二人だとムズムズするということで、沙織が星奈に勉強を教えてもらうという建前で朝の勉強会に割り込む方向で話がまとまった。


「いつもありがとね、沙織」


「親友には幸せになってもらいたいからね」


 電話を切ったあと、沙織はポテチを食べながら思う。


「いや、本当にめんどくさいのよあんたたち。余計なこと考えずにさっさとくっつけばいいのに……まあ、星奈にとって初めての恋だから、慎重になるのは仕方ないか」


 親友として温かく見守っていこう、そう思いながらポテチをパリパリ頬張る沙織だった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「ねえねえ、星奈、これって――――」


「あ、そのxを――――」


 二人は至極まじめに勉強をしていた。正宗は体育祭みたいに沙織が何かしようとしているのではと気が気でなかった。


「なるほど。そういうことか、ありがとう星奈。あとは自分でやってみるよ。これ以上この空間に割って入っているとそこで凄い目で見てくる人に何されるか分かったもんじゃないからね」


 そう言って沙織は立ち上がる。


「え、それおれのこと言ってる?」


「士道くんさっきから私のことにらみすぎ。邪魔者は退散するからあとは二人でどうぞごゆっくり」


 沙織はそう言って教室を出ていこうとした。そこに星奈が沙織の袖を掴んで「ちょっと待って」と止める。


勉強会(これ)から協力してくれるんじゃなかったの!?」


「……大丈夫」


「何が!?」


 沙織はそう言って教室を出ていった。教室には二人がぽつんと取り残された。星奈は「うぁぁ」と少しもじもじしながら席に着く。


 そこからしばらく互いのシャープペンシルを紙に走らせる音だけが聞こえる。


「旭」


 名前を呼ばれて星奈は手をとめる。


「何?」


「その……一つ聞きたくて、体育祭のときのやつ、やっぱ嫌だったのかなって。最近、なんか避けられてるような気がして。嫌だったらほんとごめん」


「…………嫌じゃなかった。ちょっとびっくりしただけ。私もよそよそしい態度でごめん」


 星奈はちらっと正宗を見る。正宗は少しホッとしたような、嬉しそうな顔をしていた。


 その表情を見て星奈もホッとした。


 とりあえず正宗との関係を戻せたと判断した星奈は次の一手に出る。


「ねえ、士道くん。来週の一ノ瀬さんの県大会、二人で応援行かない?」


 正宗が固まる。


 勉強無しの誘いは春の花見まつり以来だ。


「二人で?」


 星奈は頷く。


「友達は?地区予選は友達と……」


「断っとく。今回は士道くんと行きたい」


 星奈はストレートだった。正宗は心臓がバクバクする。


「いやだ?」


 花見まつりに誘われたときと同じだった。星奈は顔を真っ赤にして上目遣いでこちらを見てくる。


 ――――そんな風にお願いされたら断れないじゃん。まあ断る理由もないんだけど。


 正宗は「いいよ、行こう」と返事する。星奈は「ありがとう」とホッとした表情になった。


 突然現れたイベント。正宗の中でこれに乗らない手はなかった。


 ――――この日、旭星奈に気持ちを伝える!


 中途半端でも何でもいいから想いを伝えよう、そう決意する正宗だった。

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