第17話 我慢できない
正宗のクラスは先日までの熱気は消え失せ、どんよりとした空気が流れていた。
この学校は体育祭の直後に中間試験をねじ込む生徒殺しなスケジュールがくまれている。おかげで体育祭に熱中しすぎた運動部面々は毎年ここで地獄をみている。
「この上げて落とすのなんなのかな」
このどんよりムードに沙織もしっかりと乗っていた。
「普段から勉強していないのが悪い」
正宗は至極当たり前のことを言う。
「士道くんのは星奈目当ての勉強会でしょーが。下心満載でしょーが。モチベーションありまくりでしょーが。そりゃできるわ」
「ず、ずいぶんと棘のある……」
だが間違ってはいないので言い返すことはできない。
「それで?体育祭のとき、一応ちょっとだけお膳立てしたんだけど、何か進展は?」
「……何もない」
「ほんとヘタレ」
「うっさい」
正宗はここ最近の星奈とのやりとりを思い返す。
体育祭のあと、正宗は星奈に声をかけてはいるのだが、星奈は「用事がある」と言って帰ってしまった。それからも何度か声をかけてはみているが全部何かしらの理由をつけてどこかに行ってしまう。
「……あれ?おれ避けられてる?」
「いや、そんなことは……ん?」
沙織はスマホの通知を見て少し考え、席を立つ。
「ちょっと失礼」
沙織は教室を出ていった。正宗は机に突っ伏し、「はぁぁ」とため息をつく。
「もう、なりふりかまってられないよなぁ」
正宗は色々と理由をつけて気持ちを伝えることをためらっていたが、体育祭での男子たちの星奈への視線を目にして焦りを覚えた。
「ずいぶんと入れ込んでるもんだな、おれも」
星奈に対する想いが強まっていることに驚くとともに、星奈に対する独占欲も出ていることに気づいた。
「旭が他の男子と……嫌だなぁ……」
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星奈は屋上の隅っこに座り込んでスマホの画面を注視していた。トークアプリを開いて文字を打っては消してを繰り返していた。相手は正宗のアカウントだった。
「うう……」
星奈は体育祭の出来事がずっと頭の中で反芻していた。ドキドキしっぱなしで何をやるにも手につかない。
最近も朝は全然起きれず、正宗との早朝勉強会はできていないし、正宗が話しかけてきても条件反射のごとく逃げてしまう。
「好き」という想いがどんどん大きくなっていき、変なふうに行動に出てしまう。何とかしまい込もうとしてもそれはもう不可能なまでに溢れ出していた。
「無理だ……こんなの、我慢できない」
今すぐにでも想いを伝えたい。沙織策略のあのお題は絶対に見間違いじゃない。士道正宗は間違いなく自分のことが気になっている。気持ちが落ちるようなことには絶対にならない。
「士道くんと恋人……」
星奈は様々な妄想を巡らす。そこへ「させませんよ」と波瑠が現れた。
「ひゃわあ!?え、一ノ瀬さん!?なんでここに?ここ、二年生棟……」
「旭先輩が良からぬことを考えてそうだったので来ました。案の定です。あの体育祭で借り物競走で先輩に引っ張られて行ったあの日から様子おかしいと思ったからもしやと思ったんですよ。まさか脳内で恋人予行までしているとは……」
「そ、そんなことしてないよ!」
「あの時なんで私じゃなくて旭先輩だったんですか……ますます差がついて……」
波瑠はぶつぶつと言う。
「というか、旭先輩にとって先輩はただの友達なんですよね?まさか変わったんですか?」
「え、と……友達、だよ?」
星奈は振り絞って「友達」だと答える。だがその表情はどう見ても友達だと思っているものではなかった。間違いなく星奈のあの時の決意は崩れていた。
「……分かりました。今はそういうことにしておきます。あ、あと、先輩にもう一度卓球をしてもらう計画、どうですか?」
「えと、それなんだけど、来月の一ノ瀬さんの県大会に士道くんと一緒に行こうかなと思ってて。多分士道くんの気持ちが盛り上がると思うからその時にボソッと聞いてみようかなって」
「確かにありですね。この前の部内戦のときも再開するに至らずも先輩はすごく楽しそうにしてましたし。ありかもです。じゃあ、旭先輩よろしくお願いします!」
そう言って波瑠は屋上からいなくなった。
「ほんと、嵐のような子だ……」
星奈は「ふう」と一息つくのだった。
波瑠は階段を少し降りたところで立ち止まり、壁の向こうにいる星奈のことを考えていた。
「士道先輩は私のです。絶対に負けませんよ、旭先輩」
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波瑠とほぼ入れ替わりで、沙織が屋上に上がってきた。
「急に呼び出してどうしたの?」
「沙織!来てくれてありがとう。あのね、また相談があるんだけど」
「……士道くん絡み?」
星奈はコクリと頷く。沙織は体育祭でのお膳立てが意外と活きていると分かり、にやりとする。
「じゃあまずは中間試験乗り切ろうか」
切実だった。




