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ドロップアウト  作者: 野良猫
朝活仲間と幼馴染
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第12話 嫉妬

 週末、波瑠は個人戦の地区予選があった。結果としてはベスト八。部内戦に引き続き瀬能先輩にフルセットゲームの末敗れた。


「まだまだここは譲らないよー」


 波瑠は汗を拭きながら天井を仰ぐ。今までこんなふうに負け続けたことがなかった波瑠は、現状を完全には受け入れることができずにいた。


「一ノ瀬って、体力とか技術は申し分ないけど、よくも悪くも戦術が馬鹿正直だよ。力勝負できるわけじゃないんだから、いやらしい揺さぶりもいっぱいやらないと」


 瀬能先輩は「ここだよ」と自らの頭を指差しながらコートをあとにする。波瑠は悔しくて悔しくて泣きそうだった。


「……泣いちゃだめだ。県予選でリベンジだ」


 波瑠は目に浮かんだ涙を汗と一緒にタオルで拭き取り、荷物をまとめるのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――


 ゴールデンウィークが前日、最後の登校日。星奈は屋上で動画を見ていた。


「明日から休みかー……」


 見ていたのは正宗の試合の動画だった。動画を見つけて以来、なぜか気になって何度も何度も見返していた。


「……この士道くん、本当にかっこいいな」


 星奈はイヤホンをつけて動画を見ていたので、人が近づいてきたのに気付かなかった。


「また先輩の動画見てるんですか?」


「ひゃ!?」


 突然肩を叩かれ、星奈はびっくりしてスマホを落としそうになる。心臓をバクバクさせながら振り向くとそこには波瑠がいた。


「なんだ、一ノ瀬さんか。全然気付かなかった」


「どんだけ集中して見てるんですか」


「仕方ないじゃない。この士道くん、かっこいいんだもん。今の士道くんからは想像できないよ。ギャップ?みたいなやつ」


 波瑠は星奈の隣に座り、スマホの写真フォルダを開いて写真をスクロールする。


「そういえば、週末の大会惜しかったんだってね。日本一の先輩と競ったって」


「点数的にはギリギリの勝負でしたけど、そのギリギリの壁が凄い分厚かったです。ここまで私の心をポッキリしてきたのは先輩以来です。県大会は絶対リベンジします!」


「がんばって」


 二人は正宗の動画をきっかけに仲良くなっていた。たまにこうして二人で動画をみたり、部活動の話をしたりしている。


 ただ、星奈の中で、正宗が自分に見せたことのない笑顔で波瑠の頭を撫でていた光景が忘れられないでいた。


「あ、あった。これ、初めての全中で優勝した先輩です。このときから急に大人びてきてかっこいいんですよ」


 波瑠は楽しそうに正宗の写真を見せる。星奈は写真を見て、これについてはかっこいいというよりはかわいいの感想を持った。


「これはこれでアリ……」


 ハッと我に返る星奈は首をブンブンと振る。


「あんまり盛り上がるとあとが怖いからね」


「何の話ですか?」


「何でもないよ」


 と言って星奈は少し考え、波瑠に質問をぶつけた。


「一ノ瀬さんて、士道くんのことが好きなんだよね?その、告白したりとかは?」


「んー……しようと思った時期はありましたけど、私の知ってる先輩って卓球しか見てなかったから、そういうことしたら邪魔になるかなって思って。それであれよあれよとここまで引きずって来ちゃいました。こっち来たら卓球やめてたから、今までの我慢はなんだったんだー!って感じですけど」


 波瑠はプンプンする。


「まあ、今は旭先輩というとてもとても高い壁があるのでこれはこれでどうしたものかと悩んでおりますが」


「……私と士道くんは友達だから、そんな壁とかじゃないよ」


 波瑠は星奈の発言に首をかしげる。


「どうしたんですか、先輩?」


「どうもしてないよ?」


 チクリ。


「旭先輩……()()()()()()()()()()


 チクリ。


 誤魔化そうとしたら胸が痛い。この痛みを感じたくなかった。この後輩にそれを言われたくなかった。あの笑顔を向けてもらえる唯一の後輩に。


「旭先輩がそういうなら、私は遠慮なくいきますよ」


 嫉妬。


 この感情の名前に気づくのにそう時間はかからなかった。


「……ごめんね一ノ瀬さん。正直いうと、私、一ノ瀬さんに嫉妬してる。先週、体育館の前で二人が仲良くしてるのたまたま見たの。士道くん、私にはあんな笑顔見せてくれない。卓球をしてたころのかっこいい士道くんを知っている一ノ瀬さんが羨ましいの」


 吐き出して少しだけスッキリした。


「なんだ、そんなことですか。その笑顔?はよくわからないですけど、後者については解決できるかもですよ?」


「え?」


「先輩にもう一度選手に復帰してもらいましょう」


「えー……と、それは難しいんじゃないかな?だって……」


 あの日、はっきりと拒絶の目をしていた。


「本気で嫌なら道具をわざわざこっちに持ってこないですよ。辞めたって言いながら持ってきてるってことは、多少なりとも思い入れがあるってことですよ」


「そういうもの?」


「そういうものです。多分!」


 同じスポーツをしている波瑠がいうのだからそうなのだろうと、星奈は納得する。


「ということで、旭先輩、任せました!私が誘うと間違いなく拒絶されちゃうんで、がんばってください!」


「え……わたし?」


 波瑠はコクコクと頷く。恋心もあるのだろうが、やはり正宗と卓球がしたいという思いが強いのだろう。互いの利害が一致し、星奈は正宗が卓球を再び始めるための作戦を考えることにした。


 その裏で、星奈はやはり考えを変えない決意も固めていた。


 ――――モヤモヤは晴れたけど、やっぱりこの気持ちはしまっておこう。私にこの感情は大変すぎる。


 よき友人でいるだけでも幸せである。星奈はそう思うことにしたのだった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



 ゴールデンウィークに入り、波瑠は県予選前の遠征で九州に向かった。


 休みの間、星奈はどうしたら正宗が卓球をするようになるか考えていた。


「スポーツは全然わからないからな。どうしたらいいんだろうか。友達伝に?いや違うな……。やっぱストレートに?うーん……」


 星奈は頭を抱える。


「あのかっこいい士道くんを見るにはどうしたらいいんだ……。他意はないよ、他意は」


 誰もいない空間に言い訳する。


 その様子を見た星奈の母は「大丈夫かしらこの子……勉強のし過ぎで疲れた?」と少し引きながら娘の部屋に入るのをためらってしまったことは星奈は知らない。

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