第10話 地区予選
四月中旬、地区予選の組み合わせが発表された。地区予選団体戦は前回大会の結果を踏まえてA・Bグループに別れての予選リーグを実施し、各グループ上位四校計八校の決勝トーナメントを行い、上位二校が県予選に進める。シングルはベスト八、ダブルスはベスト四が県予選に進める。
出場校は全部で九校で、Aグループが地区上位で固まり、Aが四校、Bが五校でわかれる。
波瑠たち呉翔陽学園は前回大会の選抜予選を優勝してており、地区内ランキング一位のため少数グループのAグループとなり、無条件で決勝トーナメントに進む。要はシードみたいなものだ。
波瑠は団体戦とシングルスに出場する。
昼休み、女子卓球部は体育館に集まってトーナメント表をみんなで見ていた。
「Aグループは今年も同じだね」
「いつも通りいこう。上を見るのも大事だけどまずは正面の相手をしっかり見よう。みんなの実力なら大丈夫!」
瀬能先輩の発言に部員たちは頷く。
「今日からさらに気合いれるよ!翔陽ファイトー!」
「ファイトー!」
波瑠は個人戦のトーナメント表を見る。瀬能先輩と当たるのは順当に行けば準々決勝で当たるようになっていた。
「準々決勝、楽しみにしてるよ。そこまで絶対に敗けるんじゃないよ」
早速リベンジの機会が巡ってきた。
波瑠は早く試合がしたくてうずうずしていた。
「そうだ――――」
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「地区予選?」
「はい!先輩に応援してもらえれば瀬能先輩に勝てる気がするんです!だからお願いします!応援来てください!」
波瑠は電話で正宗を地区予選の応援に誘う。正宗は少し考える。
「実は旭先輩も来てくれることになってるんです。この前仲良くなって、連絡先も交換したんです」
「分かった、会場を教えてくれ」
この即答ぶりに波瑠は少し傷ついた。やはり正宗は自分ではなく星奈を見ている。だがへこたれない。こちらには幼馴染で卓球の師弟というどでかいアドバンテージがあるのだから。
「会場は中央体育館です。今週が団体戦で来週が個人戦です」
「分かった。波瑠、がんばれよ」
「はい!」
好きな人からの「がんばれ」はやはり格別だ。心のモヤがすーっと晴れる。力がみなぎり、何でもできると暗示できる。
波瑠は鼻歌まじりにラケットの手入れをするのだった。
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翌朝、正宗は星奈と週末の大会について話をしていた。
「波瑠に大会の応援来てくれって誘われたんだけど、旭も来るって聞いてさ、もしよかったら一緒に行かない?」
「え、あー……ごめん、クラスの友達と一緒に行く約束しちゃった。友達が一人卓球部で試合出るからみんなで応援に行こうって話になっちゃって。言い方悪いけどその流れで一ノ瀬さんも応援するつもりだったの」
星奈は申し訳なさげに「本当にごめん!」と正宗の誘いを断る。
「あ、それだったらいいんだ。もしかしたら会場で会うかもね」
正宗は星奈と出かけるいい口実ができたと思ったが、先約があるのなら仕方ない。諦めて一人で行くことにした。
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週末、地区予選の朝。正宗は波瑠に「がんばれ」とメッセージを送――――らなかった。
送ろうとしたが自分が選手だったときを思い出してやめた。試合当日はメッセージ一つも集中を乱されるからすごく嫌だった記憶がある。
すでに打ち込んだ文字を削除し、スマホと財布をカバンに入れ家を出る。
「波瑠の壁は瀬能先輩だよなぁ。あの人めっちゃ強いからな」
試合会場は家から電車で二駅の場所に位置する。電車を降り、体育館に向かって歩く。
体育館に入ると、すでに試合は始まっていた。
正宗は波瑠たちを探す。案外簡単に見つかった。呉翔陽学園卓球部はこの地区内では絶対王者であり、男女とも貫禄があった。
まさに強豪の風格。彼ら彼女らがアリーナを歩くだけで全員の視線が集中した。
アリーナ中央で波瑠たちは円陣を組む。
「去年のインターハイは獲ったけど、選抜は準優勝だった。その雪辱を果たすためにもこの予選は絶対に落とせないよ」
監督の言葉に選手たちは頷く。ここにいるメンバーは波瑠を除き全員が選抜大会出場者だ。
「一ノ瀬、君は初めての高校生大会だ。中学生大会との違いを経験してきなさい。そして、見せつけて来なさい。全中三連覇一ノ瀬波瑠の実力を」
「はい!」
「翔陽ファイトー!」
波瑠は「おー!」と掛け声とともに右手を突き上げる。
波瑠はシングル二番だった。シングル一番の瀬能先輩が隣の台に立つ。団体戦は時間短縮のために二ゲーム同時進行で行われる。
二人の試合はまさに一瞬の出来事のように終わった。
あまりにも圧倒的すぎて、もはや試合として成り立っているのかどうかも疑問だった。
「すげぇな。部内戦のときより動きにキレが出てるな。まだムラはあるけど、全然いい」
正宗は思わず波瑠の動きを分析してしまう。
そして顔を上げると星奈が正面で試合を観ていることに気づいた。周りには星奈の友達らしき女子が数人居た。星奈も正宗に気づいたようで、こちらに向かって小さく手を振ってきた。正宗も手を振り返す。
「かわいいな……」
今日の星奈はデニムにTシャツのシンプルな服装だった。
「そういうのもかわいい……」
正宗の脳内はお花畑だった。
呉翔陽学園は予選リーグは全勝で決勝トーナメントに進んだ。決勝トーナメントも予選リーグの勢いそのままで勝ち進み、あれよあれよと決勝まで進んだ。
「やっぱインターハイ王者と全中三連覇が並んだらやばいな。二人とも全日本はベスト四だし」
決勝戦も呉翔陽学園の圧勝だった。この地区予選で呉翔陽は一ゲームも落とすことなく完全勝利で優勝した。男子はやや拮抗したが優勝した。
正宗は優勝の瞬間を見届け、体育館を出る。同じタイミングで星奈たちも体育館を出てきた。正宗はそれに気づかず駅に向かって歩く。
星奈は正宗に気づき、正宗のところに行きたい衝動に駆られた。
「あ……」
正宗を見失ってしまった。
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月曜日、放課後。星奈は正宗と勉強会をしようと探していた。もともとする約束はしていなかったのでダメ元ではあるが。
「やっぱ帰ったかな?」
教室を覗いてみたが荷物はなくなっていた。大我にも聞いてみたが知らないとのこと。思い当たるところをとにかく見て回る。
「あ」
星奈はスマホの存在を忘れていた。電話すればいいということにようやく気づいた。星奈は正宗に電話をかける。しかし、正宗は電話に出ない。
「むむむ」
星奈はスマホをしまい、再び探す。
「なんで私こんなに一生懸命に探してるんだろ」
体育館付近にきて正宗らしき人の声が聞こえた。体育館の入り口近くに行くと正宗がいた。正宗はベンチに座って誰かと話していた。
もう二、三歩進むと話し相手が見えた。正宗は波瑠と話していた。
「お疲れ、波瑠」
「へへへ、これ久々です」
星奈は固まった。目の前の光景に少し、いやかなりのショックを覚えた。
正宗は笑顔で波瑠の頭を撫でていた。波瑠は嬉しそうにうっとりとしていた。
星奈はズキッと心が痛むのを感じた。
「士道くん……私には見せたことない笑顔だ。そんな楽しそうな笑顔、私には見せたことないよ」
星奈は少しさみしそうにそれを見て、そっと背を向けてその場を離れる。
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「ん?」
正宗は先ほどまで星奈がいた方向を見る。
「どうしたんですか、先輩?」
「そこに旭がいたような……気のせいか?」




